不信感が強まるばかりのマイナンバーカード問題で自主返納が相次いでおり、今年5月末には返納数が計約45万枚にまでのぼった。さらに、介護現場からは「これ以上煩雑な業務や手続きが増えたら困る」「情報漏洩が怖い」という不満や不安も噴出しており……。
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【写真を見る】45万枚以上の返納が 石川県金沢市の担当者は、「4月の返納数は1件だったのが、5月から6月下旬にかけては21件ありました。数だけ見ますと、5月から返納数が増えている状況です。その理由として『不信感がある』といったものがありました」

他にも大阪府堺市の戸籍住民課の職員に聞くと、「堺市では5月頭から6月20日までの時点で44件の返納がございました。5月以降の報道をきっかけに増えているのではないかと思います」河野太郎デジタル大臣 高齢者を含め、マイナカードそのものへの警戒感が増幅しているということのようなのだ。そうした感覚は高齢者を介護する立場の事業者にも広がっている。「これ以上煩雑な業務や手続きが増えたら…」「マイナ保険証に切り替え始めたという施設はウチも含めてほかでも聞いたことがありません。あまりにトラブルが多いので、どこも慎重になっているのではないでしょうか。安心して使えるレベルにならないとちょっとね‥…」 と困惑を隠さないのは、さる都内の特別養護老人ホームの施設長である。「現在、ウチの施設には36名の入居者がいますが、そのほとんどが認知症を患っています。パートを含め、45名の介護スタッフが交代制で介護にあたっており、正直言って息つく暇もない、手一杯の状況です。これ以上煩雑な業務や手続きが増えたらと考えると、不安しかありません」 この施設では入居者のマイナカードを管理しておらず、所有の有無も把握していないという。「マイナカードが必要になる局面はこれまでありませんでした。マイナ保険証に移行すれば、医療分野以外の個人情報もひもづいているわけで、抵抗感がありますし、スタッフの負担が増えると予想しています」(同) 施設側が最も懸念を感じているのが、マイナカードの暗証番号の管理である。 例えば、一般にマイナ保険証で医師の診察を受ける場合、病院での「オンライン資格確認」が必要になる。その際、カードリーダーにマイナカードをかざし「顔認証」もしくは「暗証番号の入力」で本人確認をすることになっている。「情報漏洩が最も怖い」 東京都目黒区にある特別養護老人ホーム「青葉台さくら苑」の坂井祐施設長が語るには、「現在の紙の保険証は事務所内の鍵付きのキャビネットで保管し、開けられる者は限られています。最近の医療機関だと保険証のコピーを保険証として認めてくれないところもあるので、厳重に管理しつつも、夜間の救急搬送などに備え、いつでも取り出せる状態にしておく必要があります」 マイナ保険証になった場合、どう対応するのか。「うちには、身寄りも成年後見人もいない、認知症を患う入居者がおられます。その場合、マイナ保険証の申請時に職員が暗証番号を設定し、管理するしかありません。入居者全員の暗証番号を紙でリスト化して、これも鍵をかけて管理することになるのか、わかりませんが、情報漏洩が最も怖いと感じています。泥棒でも入って、マイナ保険証と暗証番号をセットで盗まれたら大変なことになりますから」「マイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」 こうした状況に業を煮やしたのか、今月4日、松本剛明総務相は高齢者に向けて暗証番号の設定がなくても、マイナカードを交付できるようにする方針だと明かした。さらに、河野太郎デジタル大臣も2日、NHKの番組で突然、「マイナンバー制度とカードが世の中で混乱してしまっている」「次の更新でマイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」 と、語った。 この発言のウラにあるのは「マイナカードのICチップに格納された電子証明書にはマイナンバーが記録されていない」という不都合な真実であろう。実はマイナンバーカードという名称にもかかわらず、プライバシーに配慮し、行政機関間で情報連携する際もマイナンバーは使われない。いわば、カードに記されたマイナンバー自体にそれほど意味はないのである。 7月6日発売の「週刊新潮」では、窮地に立たされた河野大臣の今後の処遇などと併せて詳報する。「週刊新潮」2023年7月13日号 掲載
石川県金沢市の担当者は、
「4月の返納数は1件だったのが、5月から6月下旬にかけては21件ありました。数だけ見ますと、5月から返納数が増えている状況です。その理由として『不信感がある』といったものがありました」
他にも大阪府堺市の戸籍住民課の職員に聞くと、
「堺市では5月頭から6月20日までの時点で44件の返納がございました。5月以降の報道をきっかけに増えているのではないかと思います」
高齢者を含め、マイナカードそのものへの警戒感が増幅しているということのようなのだ。そうした感覚は高齢者を介護する立場の事業者にも広がっている。
「マイナ保険証に切り替え始めたという施設はウチも含めてほかでも聞いたことがありません。あまりにトラブルが多いので、どこも慎重になっているのではないでしょうか。安心して使えるレベルにならないとちょっとね‥…」
と困惑を隠さないのは、さる都内の特別養護老人ホームの施設長である。
「現在、ウチの施設には36名の入居者がいますが、そのほとんどが認知症を患っています。パートを含め、45名の介護スタッフが交代制で介護にあたっており、正直言って息つく暇もない、手一杯の状況です。これ以上煩雑な業務や手続きが増えたらと考えると、不安しかありません」
この施設では入居者のマイナカードを管理しておらず、所有の有無も把握していないという。
「マイナカードが必要になる局面はこれまでありませんでした。マイナ保険証に移行すれば、医療分野以外の個人情報もひもづいているわけで、抵抗感がありますし、スタッフの負担が増えると予想しています」(同)
施設側が最も懸念を感じているのが、マイナカードの暗証番号の管理である。
例えば、一般にマイナ保険証で医師の診察を受ける場合、病院での「オンライン資格確認」が必要になる。その際、カードリーダーにマイナカードをかざし「顔認証」もしくは「暗証番号の入力」で本人確認をすることになっている。
東京都目黒区にある特別養護老人ホーム「青葉台さくら苑」の坂井祐施設長が語るには、
「現在の紙の保険証は事務所内の鍵付きのキャビネットで保管し、開けられる者は限られています。最近の医療機関だと保険証のコピーを保険証として認めてくれないところもあるので、厳重に管理しつつも、夜間の救急搬送などに備え、いつでも取り出せる状態にしておく必要があります」
マイナ保険証になった場合、どう対応するのか。
「うちには、身寄りも成年後見人もいない、認知症を患う入居者がおられます。その場合、マイナ保険証の申請時に職員が暗証番号を設定し、管理するしかありません。入居者全員の暗証番号を紙でリスト化して、これも鍵をかけて管理することになるのか、わかりませんが、情報漏洩が最も怖いと感じています。泥棒でも入って、マイナ保険証と暗証番号をセットで盗まれたら大変なことになりますから」
こうした状況に業を煮やしたのか、今月4日、松本剛明総務相は高齢者に向けて暗証番号の設定がなくても、マイナカードを交付できるようにする方針だと明かした。さらに、河野太郎デジタル大臣も2日、NHKの番組で突然、
「マイナンバー制度とカードが世の中で混乱してしまっている」
「次の更新でマイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」
と、語った。
この発言のウラにあるのは「マイナカードのICチップに格納された電子証明書にはマイナンバーが記録されていない」という不都合な真実であろう。実はマイナンバーカードという名称にもかかわらず、プライバシーに配慮し、行政機関間で情報連携する際もマイナンバーは使われない。いわば、カードに記されたマイナンバー自体にそれほど意味はないのである。
7月6日発売の「週刊新潮」では、窮地に立たされた河野大臣の今後の処遇などと併せて詳報する。
「週刊新潮」2023年7月13日号 掲載