「富山の薬売り」で知られる富山県で薬剤師が大幅に不足している。
県出身者で全国の大学の薬学部に在籍する学生数も全国最少だ。人材確保に向け、富山大薬学部は2024年度入試から県内で働く意志を持つ学生のための「地域枠」を創設し、県も奨学金制度を整える。(川尻岳宏)
富山の薬売り文化は江戸時代に発達した。売薬商人が柳行李(ごうり)を背負って全国を渡り歩き、昭和期はおまけの四角い紙風船が多くの人に知られた。そのため富山県では医薬品が産業化し、1人当たりの医薬品生産額は63万9000円(20年)と全国トップ。全国平均(7万4000円)を大きく上回る。
一方、薬剤師の数は20年までの10年間で、全国では16・4%増加したのに対し、富山県は6・6%減少した。県のアンケートでは、22年度の薬剤師採用は県内23の公的病院で募集人員の53%にとどまった。県薬事指導課は「本来は薬剤師が務めるべき役職を、一時的に別の人で埋めて対応している」と明かす。
大学の薬学部に進む高校生も少ない。一般社団法人「薬学教育協議会」によると、全国の薬学部に在籍する県出身者は356人(昨年5月時点)で、人口比では全国最低だった。
その要因について、県病院薬剤師会の脇田真之会長は「6年制になって国立大の薬学部は定員が減り、富山大の薬学部には地元よりも県外の学生が入ってくるようになった」と分析する。その上で、「都市部を中心に私大の薬学部は増えたが、富山県の一般家庭では、一人暮らしをしてまで私大の薬学部に行くのは敬遠される」と推測する。
こうした事情を踏まえ、富山大は24年度入試から薬学部の定員70人のうち10人を地域枠とすることを決めた。同大によると、国立大の薬学部では初めて。受験生には、入試の面接で地域医療に関するプレゼンテーションを課す。入学後は県内の病院や製薬会社で就業体験する機会を設ける。
大学を後押しするため、県も5月から奨学金制度を創設する検討を始めた。卒業後に9年間県内で働けば、貸与された学費や生活費の返還を免除する仕組みを想定している。県は富山大の入試要項が発表される7月下旬頃までに制度の概要をとりまとめる予定だ。