人を寄せ付ける強い引力を秘めた地域は、世界各地にある。ひとくくりに観光地とされる土地は、今も昔も多くの人を惹きつける。
国内の観光地とされる場所--日本一標高の高い富士山しかり、伝統と歴史の息づく京都しかり、海の幸や山の幸の豊富な地域や寺社仏閣の集まる古都、最先端の文化の集結した東京など、数え上げればキリがない。
ところが、観光ガイドにもその詳細は掲載されず、昼も夜も人知れず多くの人たちを集めている地域がある。新宿区歌舞伎町。「不夜城」とも称されるこの土地は、昼も夜も多くの人を魅了して止まない。
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そんな歌舞伎町の「新宿東宝ビル」周辺――通称「トー横」エリアでは、近年、事件やトラブルが絶えず、世間の注目度や関心も高まっている。悪化する治安にどう対処すべきか。事態を重く見た行政も、取り締まりを強化している。
「今日もここに来てしまいました」
歌舞伎町の一角にある、大久保公園の外周を覆う柵にもたれながら、清潔な出で立ちの男性がそうつぶやいた。
取材で何度か通ううちに顔なじみになったその初老の中沢義久さん(仮名)は、中部地方の出身で大学を卒業後、中規模の商社を勤め上げ、今では孫を4人も抱える70代だ。
襟付きシャツの首元に緑色のスカーフを巻いている。その理由を聞くと「首の皺で年齢がバレるのがいやだから」と中沢さんは恥ずかしげに答えた。
果たして、スカーフが狙い通りの効果を生むのか、逆の効果を発揮しているのかは分からない。だが、何事にも前向きな中沢さんは、自分の男前を上げる「武器」と信じているようだ。
彼がここに足を向けるようになったのは、新宿で開かれた故郷の高校の同窓会がきっかけだった。二次会が終わり、仲間と別れ帰宅のためのタクシーを求めて通りかかった際、これまで見たこともなかった情景に出くわしたのだ。
夜の公園付近に何人もの女性が立っている――。
「最初は誰かとの待ち合わせなのかと思ったのです。でも違った…」
その日はそのまま帰宅した。しかし、どうしても気になって仕方がなかった。
「それでもう一度訪ねてみました」
中沢さんはその日、一人の女性と思いを遂げたという。
「お金を払えば、好みの女性を抱くことができる。本気ではなく浮気とも違う、誰も分かってくれない自分の欲望を受け入れてくれるんだと、最初の頃はそう思いました」
気心が知れると男性は能弁である。
「仕事が中心の人生でした。同期の中でも出世は早く、やりがいのある仕事に出会えたことは幸せでした。子供たちもそれぞれ所帯を持って、孫もできて、何不自由はなかった」
中沢さんは子供の頃から親の期待に添うよう懸命に勉強をし、希望の国立大学を出て就職をし、世間から決められた枠を出ることなく、常にできあがった共同体に所属してきたと話す。
「そういうところがいやだったのかもしれない。妻とは別の女性を知る機会など、これまでありませんでしたから…」
男性は遠い目をしながらそう語った。
大久保公園に繰り出し、お金で女性を買うことを、中沢さんはどう考えているのか。
後編記事『新宿・大久保公園で20代ゴスロリ女性を狙う70代「トー横じいさん」のヤバすぎる「本音」…「同年代のライバルがいるから燃えるんです」』では、中沢さんの心の奥にさらに迫る。