長野県中野市で25日、わずか15分ほどの間に、刃物や猟銃で4人が次々と襲われた事件の状況が、捜査関係者や目撃者らへの取材で明らかになってきた。
青木政憲容疑者(31)は以前から、自宅前の道を竹内靖子さん(70)と村上幸枝さん(66)が、談笑しながら散歩する姿を見かけていた。「悪口を言われていると思い、殺してやろうと考えていた」。逮捕後の調べに、そう供述している。県警は、青木容疑者が勝手な思い込みから、2人を憎悪するようになったとみている。
襲撃は25日午後4時20分過ぎ、青木容疑者の自宅前で始まった可能性が高い。青木容疑者は事前に用意したサバイバルナイフのような刃物で、散歩中の2人に襲いかかり、竹内さんを刺した後、逃げ出した村上さんを追いかけたとみられる。村上さんは約150メートル離れた畑で追いつかれ、背後から刺された。
近くで農作業をしていた造園業の男性(63)は「女性が刺された」と聞き、午後4時25分過ぎ、村上さんのもとに駆けつけた。携帯電話で119番し、消防職員の指示を受けながら心臓マッサージを続けた。救急車やパトカーのサイレンの音が近づいてきたその時、そばに青木容疑者が立っているのに気づいた。近所同士、昔から知った顔だ。「政憲も手伝え」と呼ぼうとしたが、猟銃を手にしているのが見えた。
青木容疑者は到着したパトカーに近づいていった。午後4時37分頃。ためらう様子もなく、運転席側の窓ガラス越しに車内に銃を向けた。男性が恐怖を感じて逃げ出すと、直後に「バーン、バーン」と2発の銃声が響いた。振り返ると、青木容疑者が何事もなかったかのように自宅の方向に歩いていた。撃たれた警察官は車内でぐったりしていた。パトカーの窓ガラスは粉々に割れ、二つの薬きょうが近くに落ちていた。
近所の別の男性(60)は畑の方から戻り、自宅前で銃を構える青木容疑者を目撃していた。撃たれた警察官2人に続いて現場に駆けつけた私服姿の捜査員の男女2人が「銃を下ろして」と何度も呼びかけたが、青木容疑者は応じることなく、午後4時40分過ぎ、自宅に入った。
12時間に及ぶ籠城の末、青木容疑者は26日午前4時37分に投降した。頭の上に両手をあげ、捜査員に囲まれても抵抗するそぶりはなかった。