子育ての悩みはつきないもの。ちまたには情報があふれ、「失敗はすべて自分のせい」「あとで後悔したくない」と感じているお母さんやお父さんも多いのではないでしょうか。親にできることは、「生まれてきてくれたわが子の底力を信じて、成長していく姿を楽しみに見守ること。」と語るのは、小児科医として40年間の経験を持つ高橋孝雄さん。その高橋さん「トンビがタカを産むことはありません」と言いますが――。
この記事のすべての写真を見る* * * * * * *「トンビがタカを産む」は、遺伝的にはありえません海辺を歩いていると空を大きく旋回しながらえさを探しているトンビに出会います。ピーヒロロロといななく鳴き声はそれだけでのどかな情景です。いっぽうのタカはくちばしや眼光も鋭く、鳥類のなかでも強くてしなやか。獲物をとらえたら離さない獰猛(どうもう)さがあります。トンビとタカは同じタカ科ですが、まったく別の鳥です。それがなぜ、「トンビがタカを産む」ということわざになったのでしょう。生まれた子どもが両親とはかけ離れた才能を持っていたり、優秀だったりすると、世間の人々は訳知り顔で「ああ、トンビがタカを産んだ」とつぶやくのです。負け惜しみなのか、「逆立ちしたってかなわない」とカブトを脱いだのか。いずれにしても、「トンビがタカを産む」ことはありません。トンビにみえた親も実はタカだったいやいや、ちょっと待ってください。両親ともに学業成績がふるわなかったのに、子どもの成績は学年1位。トップクラスの大学に現役合格している例だって、ありますよね。これは立派な「トンビがタカ」に見えるかもしれません。『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』(著:高橋孝雄/マガジンハウス)あるいは両親にまったく音楽の素養がなく、英才教育を受けたわけでもないのに、音楽家として成功している人もいるでしょう。これも「トンビがタカ」じゃないのか。実は違うのです。まずは勉強が得意じゃなかった両親からトップランクの大学に現役合格する子どもがなぜ生まれるのか、という謎から。そのご両親は、家庭の事情や時代状況などで、勉強する習慣がなかっただけかもしれないし、勉強のやり方がわからなかっただけかもしれません。よき指導者に出会って学習環境が整っていれば、相応の学力をつけていたかもしれない。その可能性は否定できないはずです。つまり、おとうさん、おかあさんも実はトンビではなくタカだったというふうに考えられるのです。突然変異はありえない音楽家のご家族もしかり。おとうさん、おかあさんも、なにかのきっかけで音楽に親しむ機会があれば、子どもと同じように才能を開花させていた可能性が十分にあります。おとうさん、おかあさんも実はトンビではなくタカだったというふうに考えられるのです(写真提供:Photo AC)こちらも「トンビのようで実はタカ」。今からでも楽器を習いはじめたら、めきめきと上達するかもしれないし、歌ってみたら、実は素晴らしい歌唱力があるかもしれませんね。突然変異という言葉を聞きます。突然変異があれば、トンビがタカを産むのでしょうか。これもありえませんね。ごく平凡な両親から超が付く優秀な子どもが生まれたとしても、それは、遺伝情報がもともと持っている正常な“振れ幅”に収まるていどのものなのです。遺伝子が決めたシナリオの“余白”のようなものですね。鳥の種類が違うだけでそこに優劣はないその逆もあります。おとうさんもおかあさんも、それぞれの道で才能を発揮して、活躍しているとしましょう。ところがおふたりの子どもは、あまりぱっとしない。「なぜ、わたしたちの子どもが……」となげくことがあるかもしれません。それも、心配ないですね。親がタカならば、子どもだってタカ。タカはトンビを産みません。お子さんも自分の才能に気づいていない、生かしきれていない、才能を持てあましている、というだけなのかもしれません。トンビはトンビの子を産み、タカはタカの子を生む。ツバメはツバメの子を産み、ヒバリはヒバリの子を産む。アンデルセン童話“みにくいアヒルの子”は実はアヒルの子ではなかった。ここで大事なことは、鳥の種類が違うだけでそこに優劣はない、ということです。教育の効果とは、親から受け継いだ遺伝子の特徴を上手に生かせるようにすることなのです。※本稿は、『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
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海辺を歩いていると空を大きく旋回しながらえさを探しているトンビに出会います。ピーヒロロロといななく鳴き声はそれだけでのどかな情景です。
いっぽうのタカはくちばしや眼光も鋭く、鳥類のなかでも強くてしなやか。獲物をとらえたら離さない獰猛(どうもう)さがあります。トンビとタカは同じタカ科ですが、まったく別の鳥です。
それがなぜ、「トンビがタカを産む」ということわざになったのでしょう。
生まれた子どもが両親とはかけ離れた才能を持っていたり、優秀だったりすると、世間の人々は訳知り顔で「ああ、トンビがタカを産んだ」とつぶやくのです。負け惜しみなのか、「逆立ちしたってかなわない」とカブトを脱いだのか。
いずれにしても、「トンビがタカを産む」ことはありません。
いやいや、ちょっと待ってください。両親ともに学業成績がふるわなかったのに、子どもの成績は学年1位。トップクラスの大学に現役合格している例だって、ありますよね。
これは立派な「トンビがタカ」に見えるかもしれません。
『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』(著:高橋孝雄/マガジンハウス)
あるいは両親にまったく音楽の素養がなく、英才教育を受けたわけでもないのに、音楽家として成功している人もいるでしょう。これも「トンビがタカ」じゃないのか。実は違うのです。
まずは勉強が得意じゃなかった両親からトップランクの大学に現役合格する子どもがなぜ生まれるのか、という謎から。
そのご両親は、家庭の事情や時代状況などで、勉強する習慣がなかっただけかもしれないし、勉強のやり方がわからなかっただけかもしれません。
よき指導者に出会って学習環境が整っていれば、相応の学力をつけていたかもしれない。その可能性は否定できないはずです。
つまり、おとうさん、おかあさんも実はトンビではなくタカだったというふうに考えられるのです。
音楽家のご家族もしかり。
おとうさん、おかあさんも、なにかのきっかけで音楽に親しむ機会があれば、子どもと同じように才能を開花させていた可能性が十分にあります。
おとうさん、おかあさんも実はトンビではなくタカだったというふうに考えられるのです(写真提供:Photo AC)
こちらも「トンビのようで実はタカ」。今からでも楽器を習いはじめたら、めきめきと上達するかもしれないし、歌ってみたら、実は素晴らしい歌唱力があるかもしれませんね。
突然変異という言葉を聞きます。突然変異があれば、トンビがタカを産むのでしょうか。
これもありえませんね。ごく平凡な両親から超が付く優秀な子どもが生まれたとしても、それは、遺伝情報がもともと持っている正常な“振れ幅”に収まるていどのものなのです。
遺伝子が決めたシナリオの“余白”のようなものですね。
その逆もあります。おとうさんもおかあさんも、それぞれの道で才能を発揮して、活躍しているとしましょう。ところがおふたりの子どもは、あまりぱっとしない。
「なぜ、わたしたちの子どもが……」となげくことがあるかもしれません。それも、心配ないですね。親がタカならば、子どもだってタカ。タカはトンビを産みません。
お子さんも自分の才能に気づいていない、生かしきれていない、才能を持てあましている、というだけなのかもしれません。
トンビはトンビの子を産み、タカはタカの子を生む。ツバメはツバメの子を産み、ヒバリはヒバリの子を産む。
アンデルセン童話“みにくいアヒルの子”は実はアヒルの子ではなかった。
ここで大事なことは、鳥の種類が違うだけでそこに優劣はない、ということです。
教育の効果とは、親から受け継いだ遺伝子の特徴を上手に生かせるようにすることなのです。
※本稿は、『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。