働き方の多様化が進む中、「会社員からフリーランスに契約を切り替えるよう会社に迫られた」とのトラブルが国の相談窓口に寄せられている。
十分に理解しないまま、契約変更を受け入れているケースもあるという。会社側は労務管理の必要がなく、経費を削減できるメリットがあり、専門家は「違法な退職強要が一部で行われている恐れがある」と警鐘を鳴らす。(苅田円)
■会社側にメリット
政府は、会社などから雇用されず、店舗や従業員を持たないフリーランスは、2020年時点で約462万人と推計している。
会社員の場合、雇用する会社が健康保険料や厚生年金保険料の半額を、労災保険料の全額を負担する必要がある。しかし、フリーランスは会社と業務委託契約を結んで働く個人事業主という立場だ。会社は保険料などを負担する必要がなく、労働基準法の対象外なため、労働時間の規制もない。会社は一般的にコストを削減できるとされる。
関西地方のベンチャー企業で営業を担当していた30歳代の女性は昨夏、会社から「このまま仕事を続けるなら、業務委託という形になる」と突然告げられた。
昨春頃から会社の資金繰りが悪化し、社員の半数が同じ打診を受けていた。女性は仕事に愛着があり、フリーランスとして働くことを選んだ。以前の給与は基本給と出来高だったが、転換後は出来高だけに。収入が不安定になるため、別の仕事をして生活を維持している。「経費削減が会社の目的だったのは明らかだ」と振り返る。
■仕事内容変わらず
厚生労働省は20年に「フリーランス・トラブル110番」を設置し、これまで契約や報酬などに関する相談が1万件以上寄せられた。その中で「フリーランスへの転換を迫られた」との声が年数十件に上っている。
フリーランスは本来、働く時間や場所を個人の裁量で決めることができるが、契約だけ変わり、仕事内容は変わらないという相談が目立つ。「来月から業務委託契約に変更します」と突然書類を配られ、内容を理解せずにサインしたケースもあった。職種は事務や営業、スポーツインストラクターなどが多いという。
フリーランスへの転換は、手続き上は退職扱いになる。労働契約法は、合理的な理由がない解雇を禁じ、拒否しているのに何度も退職を促す行為は、民法上の不法行為に当たる。契約変更後も会社が指揮命令下に置くと雇用関係とみなされ、会社側には労働基準法に基づき残業代などの支払い義務が生じる。
東京都内で約100社と顧問契約を結ぶ社会保険労務士事務所代表の寺島有紀さんは「コロナ禍以降、経営悪化などで社員のフリーランス化を検討する会社が増えている。社員の合意が大前提で、安易な切り替えは会社にとってもリスクになる」と指摘する。
■適正化法が成立
制度として、社員からフリーランスへの転換を認めている会社もある。複数の会社は取材に「生産性が高まり、意欲の向上につながっている」と利点を挙げる。所属していた会社とは別の会社からも仕事を受けるなどして、収入アップにつながるケースもあるという。
政府は「多様な働き方」を推進しており、フリーランスとして働く人は今後さらに拡大するとみている。 一方、フリーランスは立場が弱く、トラブルになるケースも少なくない。フリーランスの働く環境を守るため、「フリーランス・事業者間取引適正化法」が先月28日、国会で成立した。会社側に契約内容の書面などでの明示を義務付け、報酬の不当な減額などを禁じる内容で、来年秋までに施行される予定だ。違反した企業には国が指導や命令などを行い、悪質な場合は50万円以下の罰金を科す。
フリーランス110番で相談に対応している山田康成弁護士(第二東京弁護士会)は「社員からフリーランスへの転換は、会社が対等な立場で提案し、合意を得ているかどうかが問題だ。一方的に転換を押しつけたり、フリーランスになった後も会社の指揮命令下に置いたりするケースがあるとみられ、疑問を感じた場合は、労働基準監督署などに相談してほしい」と話している。
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