ゴールデンウィークなどの大型連休に帰省して久しぶりに家族や親戚と顔を合わせると、口喧嘩になったりもめたりすることがよくある。じつは、そうした親族間のトラブルの多くが、お金の貸し借りや遺産相続をめぐる金銭絡みというのがひとつのパターンだ。
【写真】この記事の写真を見る(3枚) 具体的にはどのような金銭トラブルがあるのだろうか。家族や親戚とお金絡みでもめた経験をもつ3人の当事者に「親族間の金銭トラブル」について話を聞いた。(取材・文=押尾ダン/清談社)

◆◆◆競馬にハマって親族から借金 中堅規模のメーカーに勤務する斎藤栄輔さん(仮名、45歳)には3つ下の弟がいる。斎藤さんの弟は数年前まで関西地方で飲食店を経営し、多くの常連客に支えられて店の経営は順調だったという。 しかし、常連客のひとりから事業立ち上げの融資の保証人になってほしいと頼まれ、無下にできずに弟さんが引き受けてしまったのがトラブルの始まりだった。斎藤さんが経緯を振り返る。「案の定というべきか、それから数カ月後、常連客は行方をくらまして連絡が取れなくなり、保証人である弟が総額300万円の借金の肩代わりをすることになりました。しかも、経営者でありながら貯金がほとんどなかった弟は『競馬で大穴を当てて借金を返済する』という無謀すぎる返済方法を思いつき、実行に移したのです」※写真はイメージ iStock.com 当然ながら競馬で借金を返せるわけがなく、斎藤さんの弟は元金と利息返済のために複数の消費者金融から新たに借金をする。「おそらく消費者金融だけじゃなく、ヤバい筋からも借りていたのでしょう。ある日、弟が『300万貸してくれ! 3日以内に返済できなければ、もう俺は死ぬしかない』と泣きついてきたのです。それで仕方なく、子どもの学資保険などを解約して300万貸しました。おかげで妻と大喧嘩になり、夫婦関係が険悪になりましたよ」帰省してわかった“新事実” もっとも、話はそれで終わらなかった。年末に帰省した斎藤さんは母親から新事実を知らされることとなる。じつは、弟は斎藤さんだけでなく母親からも約500万円を借金していたのだという。「それもこれもギャンブルのせいです。借金返済のためといいながらミイラ取りがミイラになり、弟は競馬にどっぷりとハマっていたんです。私や母、消費者金融などに多額の借金をしても競馬をやめられないのだから、完全にギャンブル依存症だったのでしょう。 このまま弟を放置していたら取り返しのつかないことになる。かといって私も母も弟に貸す金はもうありません。そこで私は恥を忍んで弟と一緒に資産家の叔父を訪ね、事情を話して頭を下げ、すべての借金を清算できるまとまったお金を貸してもらったのです」 ところが、弟のためにそこまでしたにもかかわらず、斎藤さんが貸したお金は1円たりとも返済されなかった。斎藤さんだけでなく、お母さんや叔父さんにもいっさい返済されないのだという。「毎月1万円、いや1000円でもいいから返してくれれば、まだ誠意が感じられるのですが、弟には返す意思がまったくないんです。帰省時に親族が集まったときにその話をすると、不機嫌になって怒り出すくらい。今後はもう、弟と関わるのをいっさいやめます」遺産相続をめぐる骨肉の争い 斎藤さんのケースがギャンブルを原因とする親族間のトラブルだとすれば、それ以上に多いと思われるのが、親から相続する遺産をめぐって兄弟同士でもめる「骨肉の争い」パターンだろう。 中部地方で設計関係の仕事をしている山崎研二郎さん(52歳)には2人の兄がいる。山崎さんは3人兄弟の末っ子だ。しかし、山崎さんは末っ子にもかかわらず、父親の死後に独居老人となっていた高齢の母親を引き取り、妻と2人で身の回りの世話をしていた。 とくに88歳で亡くなる前の数年間は寝たきりだったので、家を改築して母親の部屋をつくり、介護用ベッドも購入し、山崎さん夫婦がつきっきりで面倒を見ていた。費用の負担だけでなく、介護のために息抜きする時間さえなかったという。山崎さんが振り返る。「でも、一番上の兄は長男なのに『仕事が忙しい』といって母の面倒を見ず、お金もいっさい出そうとしない。次男も同じでした。それなのに、母親が亡くなった途端、2人の兄が『遺産相続は大変だから俺たちも手伝う』といってしゃしゃり出てきたのです」遺産総額がはっきりしないワケ 母親には総額数千万は下らない現金や有価証券などの金融資産があり、実家のあった土地などの不動産も所有していた。その遺産を「自分たちにもよこせ」と2人の兄が主張してきたわけだ。「母が残した遺産総額はいくらだったのか、いまもハッキリしていません。なぜなら、母の葬儀に乗じて長男が弁護士や銀行の担当者と勝手に話を進め、預金通帳や印鑑、証券会社の口座などを押さえてしまったからです。総額を聞いても教えてくれないんです」 もちろん、山崎さんも自分たちが母親の面倒を見てきたこと、その介護に多くの費用や時間がかかっていることを主張したが、2人の兄はまったく聞く耳を持たなかった。最終的に山崎さんが受け取ったのは、法律で定められた割合の法定相続分だけだったという。「お金が絡むと、人間って家族同士でもこんなに汚くなるんだということがよくわかりました。その後、兄たちとは法事で顔を合わせることはありましたが、基本的に関係はいっさい断っています」父親がつくった借金のせいで一家離散 もうひとつ家族間でも金銭トラブルになりやすいのが、異性が絡んだとき、男性なら「女」に夢中になったときかもしれない。 映像制作会社で働く田島栄斗さん(仮名、35歳)の実家は地方の中核都市にあり、父親は日本を代表する企業の一次下請け会社で役員手前まで出世し、母親は東京の名門女子大を卒業したお嬢様だった。 そう聞けば、田島さんはお金の面で何ひとつ不自由しなかったと思うかもしれない。しかし、田島さんは大学入学直後から生活費すべてを自分で稼ぎ、つい最近まで奨学金の返済をしていた。 というのも、田島さんの父親は金遣いが荒く、フィリピンパブのホステスに入れあげて推定数千万円ものお金を貢いでいたからだ。田島さんの学資保険や生命保険も解約されていたというから、あちこちに借金も相当あったに違いないだろう。田島さんが説明する。「就職して3年目、奨学金の保証人になっていた叔父から『債権回収会社が奨学金の滞納分を払えと言ってきているぞ!』と僕に連絡がきたんです。そのとき初めて、父親が僕の学費を使い込み、これから300万以上の借金を返済しなければならないことを知りました」数年後、とんでもない出来事が… 田島さんを襲った父親の金銭トラブルはこれだけではなかった。それから数年後、さらにとんでもない出来事が起きたという。「僕の携帯にヤミ金業者から電話がかかってきたんです。『お父さんがうちの会社から金を借りているんだけど、いきなり連絡が取れなくなった。お父さんに連絡を取ってもらえないか?』って。 なぜヤミ金業者とわかったかというと、2回目の電話から態度が豹変したからです。連絡を取らずに放置していたら、『お前、ナメてんのか!』『真面目にやらねえとテメエの会社に乗り込んで拉致するぞ!』『ブッ殺されてえのか!』とめちゃくちゃ脅されました」 こうしたヤミ金業者からの電話が4~5回続き、同じころに今度は実家にいる母親からも田島さんの携帯に電話がかかってきた。「母の用件は『離婚して家を出るから荷造りを手伝って』というものでした。僕もその後、父親と絶縁しましたから、あのとき逃げ出した母の気持ちはよくわかります。本当、父にはウンザリです」 田島さんのケースはやや極端だが、ギャンブルにしても遺産相続にしても、親族間における金銭のやり取りはトラブルになりやすいのは事実だろう。ゴールデンウィークに帰省して家族や親戚と顔を合わす際には、お金のやり取りをしないほうが無難といえそうだ。(清談社)
具体的にはどのような金銭トラブルがあるのだろうか。家族や親戚とお金絡みでもめた経験をもつ3人の当事者に「親族間の金銭トラブル」について話を聞いた。(取材・文=押尾ダン/清談社)
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中堅規模のメーカーに勤務する斎藤栄輔さん(仮名、45歳)には3つ下の弟がいる。斎藤さんの弟は数年前まで関西地方で飲食店を経営し、多くの常連客に支えられて店の経営は順調だったという。
しかし、常連客のひとりから事業立ち上げの融資の保証人になってほしいと頼まれ、無下にできずに弟さんが引き受けてしまったのがトラブルの始まりだった。斎藤さんが経緯を振り返る。
「案の定というべきか、それから数カ月後、常連客は行方をくらまして連絡が取れなくなり、保証人である弟が総額300万円の借金の肩代わりをすることになりました。しかも、経営者でありながら貯金がほとんどなかった弟は『競馬で大穴を当てて借金を返済する』という無謀すぎる返済方法を思いつき、実行に移したのです」
※写真はイメージ iStock.com
当然ながら競馬で借金を返せるわけがなく、斎藤さんの弟は元金と利息返済のために複数の消費者金融から新たに借金をする。
「おそらく消費者金融だけじゃなく、ヤバい筋からも借りていたのでしょう。ある日、弟が『300万貸してくれ! 3日以内に返済できなければ、もう俺は死ぬしかない』と泣きついてきたのです。それで仕方なく、子どもの学資保険などを解約して300万貸しました。おかげで妻と大喧嘩になり、夫婦関係が険悪になりましたよ」
もっとも、話はそれで終わらなかった。年末に帰省した斎藤さんは母親から新事実を知らされることとなる。じつは、弟は斎藤さんだけでなく母親からも約500万円を借金していたのだという。
「それもこれもギャンブルのせいです。借金返済のためといいながらミイラ取りがミイラになり、弟は競馬にどっぷりとハマっていたんです。私や母、消費者金融などに多額の借金をしても競馬をやめられないのだから、完全にギャンブル依存症だったのでしょう。
このまま弟を放置していたら取り返しのつかないことになる。かといって私も母も弟に貸す金はもうありません。そこで私は恥を忍んで弟と一緒に資産家の叔父を訪ね、事情を話して頭を下げ、すべての借金を清算できるまとまったお金を貸してもらったのです」
ところが、弟のためにそこまでしたにもかかわらず、斎藤さんが貸したお金は1円たりとも返済されなかった。斎藤さんだけでなく、お母さんや叔父さんにもいっさい返済されないのだという。
「毎月1万円、いや1000円でもいいから返してくれれば、まだ誠意が感じられるのですが、弟には返す意思がまったくないんです。帰省時に親族が集まったときにその話をすると、不機嫌になって怒り出すくらい。今後はもう、弟と関わるのをいっさいやめます」
斎藤さんのケースがギャンブルを原因とする親族間のトラブルだとすれば、それ以上に多いと思われるのが、親から相続する遺産をめぐって兄弟同士でもめる「骨肉の争い」パターンだろう。
中部地方で設計関係の仕事をしている山崎研二郎さん(52歳)には2人の兄がいる。山崎さんは3人兄弟の末っ子だ。しかし、山崎さんは末っ子にもかかわらず、父親の死後に独居老人となっていた高齢の母親を引き取り、妻と2人で身の回りの世話をしていた。
とくに88歳で亡くなる前の数年間は寝たきりだったので、家を改築して母親の部屋をつくり、介護用ベッドも購入し、山崎さん夫婦がつきっきりで面倒を見ていた。費用の負担だけでなく、介護のために息抜きする時間さえなかったという。山崎さんが振り返る。
「でも、一番上の兄は長男なのに『仕事が忙しい』といって母の面倒を見ず、お金もいっさい出そうとしない。次男も同じでした。それなのに、母親が亡くなった途端、2人の兄が『遺産相続は大変だから俺たちも手伝う』といってしゃしゃり出てきたのです」
母親には総額数千万は下らない現金や有価証券などの金融資産があり、実家のあった土地などの不動産も所有していた。その遺産を「自分たちにもよこせ」と2人の兄が主張してきたわけだ。
「母が残した遺産総額はいくらだったのか、いまもハッキリしていません。なぜなら、母の葬儀に乗じて長男が弁護士や銀行の担当者と勝手に話を進め、預金通帳や印鑑、証券会社の口座などを押さえてしまったからです。総額を聞いても教えてくれないんです」
もちろん、山崎さんも自分たちが母親の面倒を見てきたこと、その介護に多くの費用や時間がかかっていることを主張したが、2人の兄はまったく聞く耳を持たなかった。最終的に山崎さんが受け取ったのは、法律で定められた割合の法定相続分だけだったという。
「お金が絡むと、人間って家族同士でもこんなに汚くなるんだということがよくわかりました。その後、兄たちとは法事で顔を合わせることはありましたが、基本的に関係はいっさい断っています」
父親がつくった借金のせいで一家離散 もうひとつ家族間でも金銭トラブルになりやすいのが、異性が絡んだとき、男性なら「女」に夢中になったときかもしれない。 映像制作会社で働く田島栄斗さん(仮名、35歳)の実家は地方の中核都市にあり、父親は日本を代表する企業の一次下請け会社で役員手前まで出世し、母親は東京の名門女子大を卒業したお嬢様だった。 そう聞けば、田島さんはお金の面で何ひとつ不自由しなかったと思うかもしれない。しかし、田島さんは大学入学直後から生活費すべてを自分で稼ぎ、つい最近まで奨学金の返済をしていた。 というのも、田島さんの父親は金遣いが荒く、フィリピンパブのホステスに入れあげて推定数千万円ものお金を貢いでいたからだ。田島さんの学資保険や生命保険も解約されていたというから、あちこちに借金も相当あったに違いないだろう。田島さんが説明する。「就職して3年目、奨学金の保証人になっていた叔父から『債権回収会社が奨学金の滞納分を払えと言ってきているぞ!』と僕に連絡がきたんです。そのとき初めて、父親が僕の学費を使い込み、これから300万以上の借金を返済しなければならないことを知りました」数年後、とんでもない出来事が… 田島さんを襲った父親の金銭トラブルはこれだけではなかった。それから数年後、さらにとんでもない出来事が起きたという。「僕の携帯にヤミ金業者から電話がかかってきたんです。『お父さんがうちの会社から金を借りているんだけど、いきなり連絡が取れなくなった。お父さんに連絡を取ってもらえないか?』って。 なぜヤミ金業者とわかったかというと、2回目の電話から態度が豹変したからです。連絡を取らずに放置していたら、『お前、ナメてんのか!』『真面目にやらねえとテメエの会社に乗り込んで拉致するぞ!』『ブッ殺されてえのか!』とめちゃくちゃ脅されました」 こうしたヤミ金業者からの電話が4~5回続き、同じころに今度は実家にいる母親からも田島さんの携帯に電話がかかってきた。「母の用件は『離婚して家を出るから荷造りを手伝って』というものでした。僕もその後、父親と絶縁しましたから、あのとき逃げ出した母の気持ちはよくわかります。本当、父にはウンザリです」 田島さんのケースはやや極端だが、ギャンブルにしても遺産相続にしても、親族間における金銭のやり取りはトラブルになりやすいのは事実だろう。ゴールデンウィークに帰省して家族や親戚と顔を合わす際には、お金のやり取りをしないほうが無難といえそうだ。(清談社)
もうひとつ家族間でも金銭トラブルになりやすいのが、異性が絡んだとき、男性なら「女」に夢中になったときかもしれない。
映像制作会社で働く田島栄斗さん(仮名、35歳)の実家は地方の中核都市にあり、父親は日本を代表する企業の一次下請け会社で役員手前まで出世し、母親は東京の名門女子大を卒業したお嬢様だった。
そう聞けば、田島さんはお金の面で何ひとつ不自由しなかったと思うかもしれない。しかし、田島さんは大学入学直後から生活費すべてを自分で稼ぎ、つい最近まで奨学金の返済をしていた。
というのも、田島さんの父親は金遣いが荒く、フィリピンパブのホステスに入れあげて推定数千万円ものお金を貢いでいたからだ。田島さんの学資保険や生命保険も解約されていたというから、あちこちに借金も相当あったに違いないだろう。田島さんが説明する。
「就職して3年目、奨学金の保証人になっていた叔父から『債権回収会社が奨学金の滞納分を払えと言ってきているぞ!』と僕に連絡がきたんです。そのとき初めて、父親が僕の学費を使い込み、これから300万以上の借金を返済しなければならないことを知りました」
田島さんを襲った父親の金銭トラブルはこれだけではなかった。それから数年後、さらにとんでもない出来事が起きたという。
「僕の携帯にヤミ金業者から電話がかかってきたんです。『お父さんがうちの会社から金を借りているんだけど、いきなり連絡が取れなくなった。お父さんに連絡を取ってもらえないか?』って。
なぜヤミ金業者とわかったかというと、2回目の電話から態度が豹変したからです。連絡を取らずに放置していたら、『お前、ナメてんのか!』『真面目にやらねえとテメエの会社に乗り込んで拉致するぞ!』『ブッ殺されてえのか!』とめちゃくちゃ脅されました」
こうしたヤミ金業者からの電話が4~5回続き、同じころに今度は実家にいる母親からも田島さんの携帯に電話がかかってきた。
「母の用件は『離婚して家を出るから荷造りを手伝って』というものでした。僕もその後、父親と絶縁しましたから、あのとき逃げ出した母の気持ちはよくわかります。本当、父にはウンザリです」 田島さんのケースはやや極端だが、ギャンブルにしても遺産相続にしても、親族間における金銭のやり取りはトラブルになりやすいのは事実だろう。ゴールデンウィークに帰省して家族や親戚と顔を合わす際には、お金のやり取りをしないほうが無難といえそうだ。(清談社)
「母の用件は『離婚して家を出るから荷造りを手伝って』というものでした。僕もその後、父親と絶縁しましたから、あのとき逃げ出した母の気持ちはよくわかります。本当、父にはウンザリです」
田島さんのケースはやや極端だが、ギャンブルにしても遺産相続にしても、親族間における金銭のやり取りはトラブルになりやすいのは事実だろう。ゴールデンウィークに帰省して家族や親戚と顔を合わす際には、お金のやり取りをしないほうが無難といえそうだ。
(清談社)