2023年になり、寿司チェーン店などの飲食店で客が不適切行為をし、動画に撮ってSNSに投稿して炎上する迷惑行為、ネットスラングで「客テロ」と言われる事件が続いている。損害を被った運営会社が訴えて逮捕者も出るなど、連日、報道が続いている状態だ。過去の、似たようなSNS投稿による炎上は、一週間もすれば落ち着いたものだが、今回は次々と新しい投稿が発見され炎上している。なぜ、炎上が続くのか。若者のSNS利用とトラブル実態に詳しい成蹊大学客員教授高橋暁子さんがレポートする。
【写真】炎上プラットフォームが拡大 * * *「なぜ炎上するとわからないのか。個人情報をさらされたり、訴えられたり、賠償金を請求されたりしているのに、なぜ投稿するのか。子どももSNSを使っているので心配で仕方がない」 ある40代男性は心底不思議そうに首をかしげる。同じように考えたことがある人は多いのではないか。 2023年1月、スシローで男性客が醤油差しや湯呑みをなめたり、レーンを回っている寿司に唾液をつけたりした挙げ句、動画に撮ってSNSに投稿、大炎上した。株価が時価総額で168億円下がるなどの損害を受け、運営会社は男性を刑事民事で訴えるとし、男性が通っていた高校も連日苦情の電話が鳴り止まない羽目に。男性は高校を自主退学したという。 くら寿司で醤油差しをなめる動画を撮影、投稿した男性たち3人は、威力業務妨害罪の疑いで逮捕され、その後、保護観察処分となった。その他、カラオケ店で消毒用のスプレー缶とライターで火炎噴射させたり、うどん店で共用スプーンで天かすを食べたりする動画などが投稿され、炎上している。 動画の撮影現場となった店舗にとっては、店舗内で不適切な行為を働かれるだけでなく、その様子を不特定多数に拡散され、風評被害に繋がるなど被害は甚大だ。客であるはずの人物が、大勢の他の客を巻き添えにして、心理的にも経済的にも打撃を与えているのだから、この迷惑行為が「客テロ」と呼ばれるのもうなずける。不利益しかないのに炎上はなぜ続く? このような投稿は、内容によって威力もしくは偽計業務妨害罪、詐欺罪、器物損壊罪、窃盗罪などに問われることもある。たとえば迷惑行為を撮影した動画や写真をSNSなどに投稿した場合は、威力業務妨害罪などが該当する。店の清掃や消毒費用、売上が減少した場合の逸失利益、損害賠償請求を求められる可能性もある。 さらに、個人情報が特定されてさらされデジタルタトゥーとなったり、学校や会社などに通報されて停学や退学、退職処分。就活生の場合、内定が出ていたのに内定取り消し処分となった例もある。 2013年頃には、Twitterでの不適切写真による炎上が続いた。バイトによる不適切投稿が多かったため、「バイトテロ」とも呼ばれた。それ以来、毎年のように炎上は続き、2021年にはInstagramでの炎上が増え、TikTokによる炎上も起きている。そのたびに訴訟なども起きており、毎回のように大きく報道されている。不特定多数が見ると思わず”身内ウケ”で投稿 YouTubeなどに残っている炎上した動画を見ると、その多くを友だちが撮影しており、「やば」「キャハハ」などの笑い声も入っている。撮影者が笑うと、それに反応するようにさらに新たな行動に出る。友だちの前だからこそ、そのような行動に出ている、つまり身内ウケのつもりで撮影しているのだ。 昔から、友だちの前で粋がり、一人の時にはしない過激行動に及ぶ若者はいた。そもそもそのような行動自体いけないことだが、その場にいる人しか見ることがなく、残ることもなかった。迷惑だと叱られたときには関係者に謝罪し、現実的な弁償などを相談した。しかし今はそれを撮影、SNSに投稿するため、文字通り数え切れないほど多くの人が見ることになる。 最近の炎上動画の多くは、Instagramのストーリーズに投稿されたものだ。しかも、フォローを許可制にした鍵アカウントで投稿されたものも多い。限られた友だちだけが見る場であり、24時間で消えるからと油断して投稿し、炎上につながっているのだ。多くの若者はSNSで友だち中心につながっており、フォロワーではない人が見る可能性をほとんど考えていない。 2004年に米フェイスブックが開始し、同年に日本でもミクシィがサービス開始、2006年にはTwitterが始まった。今もよく使われるSNSが生まれてから19年経つ。Z世代の若者は、生まれた頃からSNSがあるネイティブ世代であり、投稿が当たり前の中で育ってきている。学校で友達からの注目を集めるために、少し変わった言動をしてみるというのは、昔も今も思春期ならよくあることだろう。その場所として日常使いするところを選んだ結果、SNSでは普通の投稿をしていては埋もれてしまい「いいね」が集まらないため、奇をてらったり過激なものを投稿しがちだ。 SNSで友だちにウケるつもりで投稿したことが、他人にとっては不快な迷惑行為だったため、炎上につながっていると考えられるのだ。「炎上事件」を知らず繰り返す若者たち 炎上には不利益しかなく、あえてやる理由はない。それにも関わらず繰り返されるのは、単純に「そのような行為を撮影、投稿したら炎上する」ことを知らないためではないか。 筆者はSNSのリスクやトラブル、安全な使い方などをテーマに講演活動を多数行っている。過去に学校で炎上をテーマに講演を行った際、その当時メディアを賑わせていた炎上事件を例として取り上げたことがある。「この炎上事件、有名だから知っているよね」と聞いたところ、目の前にいた学生が驚いた顔をして首を横に振ったので、こちらの方が驚いた。その場にいた学生に聞いたところ、知らない学生が少なくなかった。 若者たちは新聞やテレビなどのニュースを見ない。ネットニュースでも、SNSでシェアされたものしか見ないという学生は多い。若者がSNSにシェアするのはエンタメ系やスポーツ系中心で、社会面のニュースが対象になることはまずない。 勤務する大学で講義の折に聞いたところ、新聞をとっている学生はゼロ、ニュースアプリでニュースを見ている学生も数名程度だった。最近でこそ炎上についての認知度が上がってきたが、それでも知らない学生はいる状態だ。 つまり、いくら報道されていても当事者たる若者たちが炎上事件をニュース経由で知ることはほとんどないのだ。どのような投稿をすれば炎上するか、炎上するとどうなるかも知らないまま。だからこそ、警戒しないで同じような投稿をしてしまうのだ。 一方で、一般の人達はそのような炎上が続くと、他にも同じような投稿があるかもと積極的に探すようになる。検索数が多いほど、閲覧回数が多いほど、検索エンジンでもSNSでも「おすすめ」として多くの人の目に触れやすくなる。それを見た人がまた、さらに検索してと繰り返される。それ故、問題ある投稿が探し出されて、同じような炎上事件が続くというわけだ。偶然だけで寿司チェーン店の同じような炎上がここまで続くことはないだろう。 今回の一連の炎上の中には数年前のものも混じっており、そのときには炎上しなかったものや、企業の広報が「既に解決済み」と述べたものもある。つまり、同じ動画でも炎上するときとしないときがある。注目度が高まっている時期は炎上しやすくなっているため、古いものでも掘り返されることで大炎上につながっているのだ。 いきなり不特定多数が見る場に自由に投稿してしまうと、このような炎上事件につながりやすくなる。そこで、最近のInstagramやTikTokでは未成年を保護する機能が強化されており、どちらも16歳未満の新規ユーザーはデフォルトで非公開となり、TikTokではおすすめ表示もされなくなっている。しかし子ども自身で設定を変えることは容易であり、投稿内容に関する指導や見守りなどは必要だ。 炎上してしまうと深刻な影響を受けるため、近年では学校の情報リテラシー授業などで取り上げるところもある。多くの教員や保護者世代は詳しくないため、実施は学校と教員によるところが大きい。しかし、炎上した場合の影響は甚大であり、教員や保護者世代も炎上のリスクについて学び、子ども世代に伝えていくべきだろう。 そもそも周囲に迷惑をかける不適切行為は決してするべきではない。同時に、SNSに投稿したものは不特定多数が見る可能性があること、炎上したらデジタルタトゥーになり、罰せられる可能性があることは知っておくべきだろう。しかし若者世代はそのようなことを知らない可能性があるので、周囲の大人は積極的に伝えてあげてほしい。
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「なぜ炎上するとわからないのか。個人情報をさらされたり、訴えられたり、賠償金を請求されたりしているのに、なぜ投稿するのか。子どももSNSを使っているので心配で仕方がない」
ある40代男性は心底不思議そうに首をかしげる。同じように考えたことがある人は多いのではないか。
2023年1月、スシローで男性客が醤油差しや湯呑みをなめたり、レーンを回っている寿司に唾液をつけたりした挙げ句、動画に撮ってSNSに投稿、大炎上した。株価が時価総額で168億円下がるなどの損害を受け、運営会社は男性を刑事民事で訴えるとし、男性が通っていた高校も連日苦情の電話が鳴り止まない羽目に。男性は高校を自主退学したという。
くら寿司で醤油差しをなめる動画を撮影、投稿した男性たち3人は、威力業務妨害罪の疑いで逮捕され、その後、保護観察処分となった。その他、カラオケ店で消毒用のスプレー缶とライターで火炎噴射させたり、うどん店で共用スプーンで天かすを食べたりする動画などが投稿され、炎上している。
動画の撮影現場となった店舗にとっては、店舗内で不適切な行為を働かれるだけでなく、その様子を不特定多数に拡散され、風評被害に繋がるなど被害は甚大だ。客であるはずの人物が、大勢の他の客を巻き添えにして、心理的にも経済的にも打撃を与えているのだから、この迷惑行為が「客テロ」と呼ばれるのもうなずける。
このような投稿は、内容によって威力もしくは偽計業務妨害罪、詐欺罪、器物損壊罪、窃盗罪などに問われることもある。たとえば迷惑行為を撮影した動画や写真をSNSなどに投稿した場合は、威力業務妨害罪などが該当する。店の清掃や消毒費用、売上が減少した場合の逸失利益、損害賠償請求を求められる可能性もある。
さらに、個人情報が特定されてさらされデジタルタトゥーとなったり、学校や会社などに通報されて停学や退学、退職処分。就活生の場合、内定が出ていたのに内定取り消し処分となった例もある。
2013年頃には、Twitterでの不適切写真による炎上が続いた。バイトによる不適切投稿が多かったため、「バイトテロ」とも呼ばれた。それ以来、毎年のように炎上は続き、2021年にはInstagramでの炎上が増え、TikTokによる炎上も起きている。そのたびに訴訟なども起きており、毎回のように大きく報道されている。
YouTubeなどに残っている炎上した動画を見ると、その多くを友だちが撮影しており、「やば」「キャハハ」などの笑い声も入っている。撮影者が笑うと、それに反応するようにさらに新たな行動に出る。友だちの前だからこそ、そのような行動に出ている、つまり身内ウケのつもりで撮影しているのだ。
昔から、友だちの前で粋がり、一人の時にはしない過激行動に及ぶ若者はいた。そもそもそのような行動自体いけないことだが、その場にいる人しか見ることがなく、残ることもなかった。迷惑だと叱られたときには関係者に謝罪し、現実的な弁償などを相談した。しかし今はそれを撮影、SNSに投稿するため、文字通り数え切れないほど多くの人が見ることになる。
最近の炎上動画の多くは、Instagramのストーリーズに投稿されたものだ。しかも、フォローを許可制にした鍵アカウントで投稿されたものも多い。限られた友だちだけが見る場であり、24時間で消えるからと油断して投稿し、炎上につながっているのだ。多くの若者はSNSで友だち中心につながっており、フォロワーではない人が見る可能性をほとんど考えていない。
2004年に米フェイスブックが開始し、同年に日本でもミクシィがサービス開始、2006年にはTwitterが始まった。今もよく使われるSNSが生まれてから19年経つ。Z世代の若者は、生まれた頃からSNSがあるネイティブ世代であり、投稿が当たり前の中で育ってきている。学校で友達からの注目を集めるために、少し変わった言動をしてみるというのは、昔も今も思春期ならよくあることだろう。その場所として日常使いするところを選んだ結果、SNSでは普通の投稿をしていては埋もれてしまい「いいね」が集まらないため、奇をてらったり過激なものを投稿しがちだ。
SNSで友だちにウケるつもりで投稿したことが、他人にとっては不快な迷惑行為だったため、炎上につながっていると考えられるのだ。
炎上には不利益しかなく、あえてやる理由はない。それにも関わらず繰り返されるのは、単純に「そのような行為を撮影、投稿したら炎上する」ことを知らないためではないか。
筆者はSNSのリスクやトラブル、安全な使い方などをテーマに講演活動を多数行っている。過去に学校で炎上をテーマに講演を行った際、その当時メディアを賑わせていた炎上事件を例として取り上げたことがある。
「この炎上事件、有名だから知っているよね」と聞いたところ、目の前にいた学生が驚いた顔をして首を横に振ったので、こちらの方が驚いた。その場にいた学生に聞いたところ、知らない学生が少なくなかった。
若者たちは新聞やテレビなどのニュースを見ない。ネットニュースでも、SNSでシェアされたものしか見ないという学生は多い。若者がSNSにシェアするのはエンタメ系やスポーツ系中心で、社会面のニュースが対象になることはまずない。
勤務する大学で講義の折に聞いたところ、新聞をとっている学生はゼロ、ニュースアプリでニュースを見ている学生も数名程度だった。最近でこそ炎上についての認知度が上がってきたが、それでも知らない学生はいる状態だ。
つまり、いくら報道されていても当事者たる若者たちが炎上事件をニュース経由で知ることはほとんどないのだ。どのような投稿をすれば炎上するか、炎上するとどうなるかも知らないまま。だからこそ、警戒しないで同じような投稿をしてしまうのだ。
一方で、一般の人達はそのような炎上が続くと、他にも同じような投稿があるかもと積極的に探すようになる。検索数が多いほど、閲覧回数が多いほど、検索エンジンでもSNSでも「おすすめ」として多くの人の目に触れやすくなる。それを見た人がまた、さらに検索してと繰り返される。それ故、問題ある投稿が探し出されて、同じような炎上事件が続くというわけだ。偶然だけで寿司チェーン店の同じような炎上がここまで続くことはないだろう。
今回の一連の炎上の中には数年前のものも混じっており、そのときには炎上しなかったものや、企業の広報が「既に解決済み」と述べたものもある。つまり、同じ動画でも炎上するときとしないときがある。注目度が高まっている時期は炎上しやすくなっているため、古いものでも掘り返されることで大炎上につながっているのだ。
いきなり不特定多数が見る場に自由に投稿してしまうと、このような炎上事件につながりやすくなる。そこで、最近のInstagramやTikTokでは未成年を保護する機能が強化されており、どちらも16歳未満の新規ユーザーはデフォルトで非公開となり、TikTokではおすすめ表示もされなくなっている。しかし子ども自身で設定を変えることは容易であり、投稿内容に関する指導や見守りなどは必要だ。
炎上してしまうと深刻な影響を受けるため、近年では学校の情報リテラシー授業などで取り上げるところもある。多くの教員や保護者世代は詳しくないため、実施は学校と教員によるところが大きい。しかし、炎上した場合の影響は甚大であり、教員や保護者世代も炎上のリスクについて学び、子ども世代に伝えていくべきだろう。
そもそも周囲に迷惑をかける不適切行為は決してするべきではない。同時に、SNSに投稿したものは不特定多数が見る可能性があること、炎上したらデジタルタトゥーになり、罰せられる可能性があることは知っておくべきだろう。しかし若者世代はそのようなことを知らない可能性があるので、周囲の大人は積極的に伝えてあげてほしい。