花粉症対策に国が本腰を上げて取り組む姿勢を見せ始めた。事実、専門家によると「花粉症による経済損失」は無視できるものではなくなっているといい、すでに民間では「花粉症手当」を支給する企業まで登場している。花粉症を克服する日は来るか。
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【写真】大見得を切った岸田首相と“バカ売れ”最新「花粉治療薬」 4月3日、岸田文雄首相は参院決算委員会の場で「もはや日本の社会問題といっていい」と花粉症について述べ、続けて「発生源対策、発生の予測、予防、治療と様々な対策が求められる。ぜひ結果を出したい」と強い口調で語った。

担当官庁に当たる織田央・林野庁長官も、花粉の少ない杉の苗木の年間生産量を10年以内に「約7割にまで増加させる」ことを目標にすると表明。“花粉撲滅”に向けて国が本気で取り組む姿勢をアピールした。「克服」へ期待高まる(スギ花粉) 遅きに失した感はあるものの、国の危機感は「妥当だ」と話すのは、10年以上前から花粉症が日本経済に及ぼす影響を考察してきた「第一生命経済研究所」首席エコノミストの永濱利廣氏である。「花粉の飛散量は前年夏の平均気温や日照時間と関係があるとされます。昨夏の記録的猛暑の影響で、今年の花粉飛散量は“過去10年で最多”といわれるなか、日本経済への悪影響も懸念されていた。実際、試算の結果、今年1月~3月の個人消費は3800億円程度押し下げられた可能性があります」気温1度上昇で家計消費0.5%減 過去のデータから、前年7~9月の平均気温が1度上昇すると、翌年1~3月の実質家計消費支出は0.5%押し下げられる関係にあるという。「昨夏の平均気温が例年より1.4度上昇したことに基づけば、今年1~3月の実質家計消費支出は約3831億円減少した可能性があります。花粉の大量飛散によって、花粉症患者を中心に外出控えが起き、個人消費に悪影響をおよぼしたと考えられるためです」(永濱氏) 外出が減るということは、外食や旅行などのレジャー消費の減少を意味し、また洋服などへの支出も減る。一方で、薬やマスクなどに使われる保険医療費や、家に籠もりがちになることで光熱・水道費は増加することになる。「同じ業態でも、わざわざ百貨店へ足を伸ばす機会は減る反面、近所のスーパーやネットショッピングへの支出は増えるなど温度差はありますが、全体として消費は抑制されると試算されます」(永濱氏)「花粉症手当」の気になる中身 他にも明確な数値化は難しいが、花粉症によって企業の生産性が低下するとの指摘は以前からあった。そんななか、「花粉症手当」を支給する会社も近年増えており、企業向け健康管理システムなどを開発する「ラフール」もその一つだ。「社員が花粉症で医療機関を受診した際の診療費や薬代を全額補助する制度で、1回の支給上限額は約5000円となっています。診察時の領収書を提出すれば翌月の給与と一緒に支給する仕組みで、症状を放置して社員の仕事の能率が落ちるのを防ぐために18年から導入しました」(同社広報部) そもそも同社社長が花粉症だったことから制度化の話が持ち上がったといい、現在、社員の半数にあたる約40人が利用しているという。また運送会社でも花粉症の放置が重大事故へと繋がるリスクを低減させるため、点鼻薬などをドライバーに支給しているところもある。「本来は“花粉の少ない苗木を植える”のと“花粉を大量発生させている杉などの伐採”は両輪で行われるべきものです。日本は先進国のなかでも国土に占める森林面積が高い一方で、林業は衰退傾向にある。花粉症対策を機に林業の活性化につなげる“逆転の発想”こそ、いま政治に求められているのではないでしょうか」(永濱氏)デイリー新潮編集部
4月3日、岸田文雄首相は参院決算委員会の場で「もはや日本の社会問題といっていい」と花粉症について述べ、続けて「発生源対策、発生の予測、予防、治療と様々な対策が求められる。ぜひ結果を出したい」と強い口調で語った。
担当官庁に当たる織田央・林野庁長官も、花粉の少ない杉の苗木の年間生産量を10年以内に「約7割にまで増加させる」ことを目標にすると表明。“花粉撲滅”に向けて国が本気で取り組む姿勢をアピールした。
遅きに失した感はあるものの、国の危機感は「妥当だ」と話すのは、10年以上前から花粉症が日本経済に及ぼす影響を考察してきた「第一生命経済研究所」首席エコノミストの永濱利廣氏である。
「花粉の飛散量は前年夏の平均気温や日照時間と関係があるとされます。昨夏の記録的猛暑の影響で、今年の花粉飛散量は“過去10年で最多”といわれるなか、日本経済への悪影響も懸念されていた。実際、試算の結果、今年1月~3月の個人消費は3800億円程度押し下げられた可能性があります」
過去のデータから、前年7~9月の平均気温が1度上昇すると、翌年1~3月の実質家計消費支出は0.5%押し下げられる関係にあるという。
「昨夏の平均気温が例年より1.4度上昇したことに基づけば、今年1~3月の実質家計消費支出は約3831億円減少した可能性があります。花粉の大量飛散によって、花粉症患者を中心に外出控えが起き、個人消費に悪影響をおよぼしたと考えられるためです」(永濱氏)
外出が減るということは、外食や旅行などのレジャー消費の減少を意味し、また洋服などへの支出も減る。一方で、薬やマスクなどに使われる保険医療費や、家に籠もりがちになることで光熱・水道費は増加することになる。
「同じ業態でも、わざわざ百貨店へ足を伸ばす機会は減る反面、近所のスーパーやネットショッピングへの支出は増えるなど温度差はありますが、全体として消費は抑制されると試算されます」(永濱氏)
他にも明確な数値化は難しいが、花粉症によって企業の生産性が低下するとの指摘は以前からあった。そんななか、「花粉症手当」を支給する会社も近年増えており、企業向け健康管理システムなどを開発する「ラフール」もその一つだ。
「社員が花粉症で医療機関を受診した際の診療費や薬代を全額補助する制度で、1回の支給上限額は約5000円となっています。診察時の領収書を提出すれば翌月の給与と一緒に支給する仕組みで、症状を放置して社員の仕事の能率が落ちるのを防ぐために18年から導入しました」(同社広報部)
そもそも同社社長が花粉症だったことから制度化の話が持ち上がったといい、現在、社員の半数にあたる約40人が利用しているという。また運送会社でも花粉症の放置が重大事故へと繋がるリスクを低減させるため、点鼻薬などをドライバーに支給しているところもある。
「本来は“花粉の少ない苗木を植える”のと“花粉を大量発生させている杉などの伐採”は両輪で行われるべきものです。日本は先進国のなかでも国土に占める森林面積が高い一方で、林業は衰退傾向にある。花粉症対策を機に林業の活性化につなげる“逆転の発想”こそ、いま政治に求められているのではないでしょうか」(永濱氏)
デイリー新潮編集部