広域強盗事件に関与した容疑者が次々と逮捕されるなか、異なる詐欺被害が広がり続けている。「ルフィ」に警察がかかりきりなのをいいことに詐欺師が跋扈しているのだ。水面下で被害者を増やし続ける新たな詐欺の実態を探った。◆詐欺の元加害者たちが語る「闇バイト」の末路
「一度、共犯関係になったら簡単に抜け出すことはできないんです」
そう話すのは、知らぬ間に特殊詐欺に関与し、最終的に強盗事件を起こしてしまった仮釈三郎氏(36歳)だ。現在は“元受刑者”としての経験を生かして闇バイトに警鐘を鳴らすかたわら、犯罪心理カウンセラーとしても活動している。
「先輩に『コンビニまで車に乗せてほしい』とお願いされたのが最初でした。5軒回っただけで数万円を渡されて、『これで共犯な』と。そのときに初めて、オレオレ詐欺で稼いだお金だと知りました。
以来、“出し子”の送迎役として呼ばれるようになったのですが、約束の時間に遅れたときに『お前のせいで口座が凍結した。300万円を補しろ』と脅されて……強盗を指示されたんです」
◆家族と婚約者の名前を出し脅してきた
仮釈氏は強盗致傷罪で現行犯逮捕。下された判決は重かった。
「逮捕2日後にその先輩が面会に来て、『手のひらを返すような態度を取ったらわかるな?』と、家族と婚約者の名前を出して脅してきた。それで単独犯だと証言したので4年の実刑判決が下りました」
◆追い詰められていて正常な判断ができなかった
一方、福田大輔さん(仮名・30歳)は借金で首が回らなくなり、闇バイトに手を出したクチだ。
「ツイッターで募集していた高額の怪しい案件だったので、説明を聞いた段階で受け子だと思いましたが、追い詰められていて正常な判断ができなかった。やめたいと言ったこともありますが、『お前の親がどうなるか考えてみろ』と言われて、抜けられなかった。
結局、逮捕・起訴されて実刑をくらいましたが、刑務所でも性加害、虫を食わせるなどのイジメが横行していて地獄だった……」
◆服役中の息子に代わり、両親が毎月被害弁済
罪を犯すことで苦しむのは当人だけではない。20代の息子が“受け子”に堕ち、最終的に収監された経緯を語ってくれたのは、伊藤妙子さん(仮名・60歳)だ。
「『起業したい』と語っていた息子は、SNSで見かけた『一撃で月収100万円』という誘い文句に惹かれ、起業の資金を稼ぐために“転職”したようです。入社して業務内容が怪しいことに勘づいても、バレなければ大丈夫だろうと甘く考えた。
『自己都合で退職する場合には違約金を支払う』と書かれた契約書にサインしていたこともあって、逮捕されるまで抜けられなかったのです。結局、息子が関与した詐欺の被害額は2000万円にも及んだため、今は服役中の息子に代わって、夫と私が毎月少しずつ被害弁済を続けています」
◆『逮捕はされない』というウソを信じ加担する若者も
このように闇バイトを通じて、犯罪に手を染めてしまう若者は増え続けている。仮釈氏が話す。
「ルフィ事件以降、過去に闇バイトで詐欺に関わってしまった人から、私のもとに多数の相談が寄せられるようになりました。『弁護士がついている』『逮捕はされない』というウソを真に受けて犯罪に加担する若者も多い。YouTuberが面白半分で闇バイトを取り上げている弊害も大きい」
闇バイトの闇は文字どおり深い。
◆元かけ子が明かす「詐欺師が敬遠する」ターゲットの特徴
詐欺から身を守るために必要な備えとは?広域強盗事件ルフィ一味の“かけ子”として活動した人物を取材した犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は次のように話す。

“上”からも留守電に繋がったり、『この通話は迷惑電話防止のために録音されます』というアナウンスが流れたら、すぐに切れと指示されているというのです。
防犯アナウンス機能がついている電話は1万円程度で購入できますから、ご両親にプレゼントすれば振り込め詐欺に引っかかる確率は劇的に下がるでしょう」
◆「甘い話には罠がある」と常に自制心を
一方で、サポート詐欺の対策は少々難しいとも。
「怪しいサイトを閲覧しないのが一番の防御策ですが、最近では還付金のお知らせを装ったメールで怪しいリンクを踏ませて、『ウイルスに感染した』と警告文を発するページに誘導されるケースも多い。
本物の国税庁も還付金の処理状況などについてメールで知らせることがあるため、類似のメールだろうと思ってリンクを踏んでしまう人がいるんです。詐欺被害撲滅のためには、国税庁からのお知らせは郵送に限るなどの対策が必要と考えています」
仮想通貨詐欺やFX詐欺などについては、「甘い話には罠がある」と常に自制心を働かせるほかなし。近年の投資系詐欺は勧誘者に多額の紹介ボーナスを用意するマルチの仕組みを取り入れたものが多く、知人・友人経由で詐欺案件に投資してしまうケースも少ない。
すべてが詐欺とは言い切れないが……少なくとも儲けのカラクリが理解できない案件には手を出すべきでない。
◆詐欺系闇バイト図鑑
・口座名義貸し報酬:一口座5万円前後銀行口座を開設して通帳・カードを提供する闇バイトは一口座当たり5万円以上で、困窮する主婦が手を染めるケースも。近年は仮想通貨取引所の口座名義貸しの闇バイトも増えている
・かけ子報酬:1週間で数十万円?電話をかけて言葉巧みにカネを振り込み、ないし届けるよう説得する役。近年は海外の”コールセンター”にかけ子を缶詰めにするパターンが多く、1~2週間のかけ子バイトで数十万円
・運び屋報酬:一回数万~10万円現金をハンドキャリーで海外に運ぶ場合の報酬は往復渡航費+10万円程度。フィリピン-日本を定期的に行き来するビジネスマンなどが、疑われにくいため運び屋として好まれるとか
・受け子・出し子報酬:回収額の3~10%など騙した被害者から現金を受け取るのが受け子で、騙し取ったカネをATMから引き出すのが出し子。面が割れやすく、かけ子よりも逮捕されるリスクが高いため回収額が大きいほど報酬UP
【犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏】元神奈川県警刑事。国際捜査課などで活躍し、’09年からジャーナリストに。YouTube「小川泰平の事件考察室」で事件情報や犯罪への備えなどについて発信中
【更生系YouTuber・仮釈三郎氏】脅されて強盗事件を起こした元受刑者。「仮釈放更生日記」で情報発信中。 現在は元受刑者の就労支援活動にも乗り出している
取材・文/SPA!詐欺被害対策班