島根県西ノ島町職員(当時)らが事務用品名目で架空請求を繰り返し、町から公金を詐取したとされる一連の事件で、町は、2012~22年度に議会事務局と八つある全ての課が断続的に「預け」と呼ばれる裏金作りにかかわっていたと28日に発表した。
坂栄一秀町長は県庁で記者会見を開き、「住民に迷惑と心配をかけたことを心よりおわびする」と頭を下げた。(阪悠樹、玉田響子)
町は事件を受け、今月2日に有識者でつくる「町公金管理特別調査チーム」を発足。一連の事件で「預け」に協力していたとされる文具店の会計資料を取り寄せ、町の記録が残る12~22年度の11年間に同店から購入した消耗品費などについて、町の支出と突き合わせた。
その結果、20~21年度に町民課、産業振興課、教育課が「預け」をし、20日現在の残高は計約15万円だったと説明。このほか、契約内容と異なる物品を納入する「差替え」が646万円分あった。差替えは「預け」と同様、不正経理の典型的な手口とされる。
一方、予算処理にかかわる職員71人を対象に無記名形式のアンケート調査をしたところ、27人が「過去に預けを行った」と回答。また、一部の職員が担当者間で引き継ぎがあったとした。さらに「預け」に関わっていた6人に聞き取り調査を実施したところ、うち5人が「法令違反だと知っていた」と述べ、「計画的な予算執行ができなかった」「補助金の返還作業が煩雑」などと説明した。
また、補助金の目的とは異なる用途に支出されるなど「調査がまだ完了していない」とする金額が3260万円分あるとし、町は引き続き調査を継続し、5月末までに最終的な調査結果を公表するという。私的流用については現状、確認されていないという。
坂栄町長は「長年にわたり職員の公金に対する認識が希薄だった」と述べ、「他の自治体で起きたことを基にチェックを行えばこんなことにならなかった」と陳謝。「公金の執行に対する意識を再認識させるべく、法令順守の徹底を図る」と話していた。
丸山知事は「県としては、最終的な町の調査結果を確認した上で、国や県の補助金で不適切な事案があった場合は、返還を含めた必要な対応を行う」とコメントした。
◇■組織の自浄作用、検証を
捜査幹部が「事件の温床」と指摘した西ノ島町の不正経理について、町がようやく存在を認めた。だが元職員の逮捕からすでに約3か月が経過しており、対応は遅きに失したと言わざるを得ない。組織としての自浄作用が正常に働いているのかも検証が必要だ。
読売新聞は2月から、町幹部に対し「預け」について繰り返し事実確認を求めた。複数の町幹部は「ない」と一貫して否定し、検察側が事件の公判で「預けが常態化していた」と指摘したことで一転して調査チームを設置した。職員の逮捕を重く捉え、自主的に対応したとは言い難い。
物品の架空発注による不正経理は帳簿上見抜くのが難しく、2000年代に全国の自治体で問題化した。町幹部はこれまでの取材に対し「全国的に問題になってからはない」とも述べていたが、28日の記者会見では、12年度以降も全ての課で不適切な処理があったことが明らかになった。
ある県幹部は「まだそんなことをやっていたのか」と驚きを隠さない。なぜ、旧態依然とした不正が今も続いていたのか。組織的な指示は本当になかったのか。調査を尽くさない限り、町民の理解は得られないだろう。(林興希)