数年前に、筆者が経営する私立文系大学専門のオンライン個別指導塾にやってきた、木村理恵さん(仮名、当時45歳)と一人息子の浩紀君(仮名、当時18歳)。現在では大学生活を謳歌している浩紀君だが、数年前の受験シーズンには総額120万円もの出費を強いられ、木村家は大きく揺れたという。
なぜそこまで費用がかさんでしまったのか。前編記事『エスカレーター式で内部進学し大学受験未経験だった45歳母親が、息子の受験で絶句した理由』に引き続き、解説していく。
前編で紹介した受験料の計算結果は「受験が順調に進んだ場合の金額」であることを忘れてはならない。なかなか合格できなければ、後から追加で中期試験や後期試験への出願が必要になることもあるだろう。そうすれば、また受験校につき3万5000円がかかってしまう。浩紀君の受験の場合も、まさにそのパターンであったようだ。
「息子の出願プランは、今考えれば実力を上回る大学が多く組み込まれた、かなり強気のものでした。私自身は、複数校を受験すればどこかしらに受かるだろうと考えて、2月の前半は息子が志望するままに志望する大学を複数学部受験させたんです。その時点で、当初想定していた予算を越えていました。
しかし残念ながら試験の手応えはなく、結果も不合格が続き、本人も私も焦りが募りました。当初は強気に出願し“前期試験だけで終わらせる”と息巻いていた息子も、現役進学を目指して後期も受験を続けることを決めたんです。
親として息子の進路は確保してあげたかったので、本人的には最も志望度が低いものの、合格していたA大学に入学金を振り込みました」(理恵さん、以下同)
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受験生の性格や考え方、周囲からのアドバイス次第で、出願戦略は大きく変化する。「行きたくない大学は最初から受験しない」というチャレンジ型もいれば、「確実に合格したい」としっかりポートフォリオを組む安全型もいる。どの方法が正解とは断定できないが、1つだけ覚えておかなければならないのは、出願時点でのテンションと、受験期または受験終盤のテンションは全く異なるという点である。出願した時点では挑戦意欲が高く、強気な戦略を描いていても、実際に試験の手応えや結果が悪いと人は弱気になっていくものだ。そのときの自分の精神状態を事前に一度きちんと想像したうえで出願戦略を確定しなければ、理恵さん親子のように対応が後手に回ってしまう。これは誰にでも起こり得ることなのだ。入学金は20万円以上大学受験では、理恵さんのように「入学金」を支払って初めて、入学の権利を保持することができ、その額は私立大学では一般的に20万円以上と設定されている。もし志望度の高い大学の合格発表の前に、滑り止め校の入学金の支払期日が来ていた場合、払って入学の権利を保持するか、払わずに合格を放棄するかの判断を迫られる。理恵さんは、20万円と引き換えに保持を選んだ。入学金という支出は、合格発表日や入学金の支払い締切日まで考慮して計画的に出願すれば、ある程度はコントロールが効く。すなわち入学金の締切より前に次の志望校の合格発表を確認できるようスケジュールを組み、そのサイクルをリレー形式で続けていけばよい。しかし受験したい大学学部のスケジュールによっては、必ずしもうまくリレーができるわけではないため、入学金の支払いを覚悟しておくべきケースも少なくない。photo by gettyimages また、国公立大学の志望者が私立大学を受験する場合、後者の入学金の支払締切は基本的に前者の合格発表よりも前となる。この場合も、私大に入学金を支払っておくかどうかという判断が求められる。3度目の入学金浩紀君は私立専願で国公立は受験しなかったのだが、なんと最終的に入学金を3回支払うことになったという。「後期試験でもたくさんの大学を受験した結果、先に入学金を支払っておいたA大学よりも志望度が高いB大学に合格できました。本人も喜び、進学先をB大学に決めたんです。そこで、3月中旬の入学金支払期限までにB大学に入学金を支払いしました。ただ、そのあとにC大学から合格通知が来たんです!」photo by gettyimages そう語る理恵さんは嬉しそうだったが、すぐに再び顔を曇らせた。「B大学よりも行きたいC大学から合格をもらえて、とても嬉しかったです。実はC大学の受験結果は、元々は補欠合格だったんですよ。1年前のデータを調べてみたら、補欠からの繰り上がり合格者はほとんど出ていなかったし、私も息子も“どうせ合格はまわってこないだろう”と期待していなかったんです。まさか3月の終わりになって、合格の連絡が来るとは思いませんでした。息子は大喜びで、私ももちろん嬉しかったのですが、お金の面では正直ヒヤヒヤでした。何しろ、3回目の入学金支払いが必要になってしまいますから……」受験生格差を助長している制度受験結果だけを見れば、とても嬉しい逆転劇である。しかし受験料と入学金だけで120万円の出費となった親の立場から考えれば、子どもの将来のためとは言え、やるせなさも残ることであろう。もちろんそれ以前に、経済的な理由で、木村家のように3回も入学金を支払うことができない家庭もたくさんあるはずだ。その観点から言えば、期日までに入学金を支払わなければ入学する権利を失う今の制度は、受験生同士の格差を助長している一因と捉えることもできる。photo by gettyimages 入学者数を把握し、追加合格数を調整するなど、大学側にも入学金締切日を早期に設定しなければならない事情がある。それならば、例えば入学辞退者への入学金一部返還など、柔軟な対応が生まれてくることを願いたい。
受験生の性格や考え方、周囲からのアドバイス次第で、出願戦略は大きく変化する。「行きたくない大学は最初から受験しない」というチャレンジ型もいれば、「確実に合格したい」としっかりポートフォリオを組む安全型もいる。
どの方法が正解とは断定できないが、1つだけ覚えておかなければならないのは、出願時点でのテンションと、受験期または受験終盤のテンションは全く異なるという点である。出願した時点では挑戦意欲が高く、強気な戦略を描いていても、実際に試験の手応えや結果が悪いと人は弱気になっていくものだ。
そのときの自分の精神状態を事前に一度きちんと想像したうえで出願戦略を確定しなければ、理恵さん親子のように対応が後手に回ってしまう。これは誰にでも起こり得ることなのだ。
大学受験では、理恵さんのように「入学金」を支払って初めて、入学の権利を保持することができ、その額は私立大学では一般的に20万円以上と設定されている。
もし志望度の高い大学の合格発表の前に、滑り止め校の入学金の支払期日が来ていた場合、払って入学の権利を保持するか、払わずに合格を放棄するかの判断を迫られる。理恵さんは、20万円と引き換えに保持を選んだ。
入学金という支出は、合格発表日や入学金の支払い締切日まで考慮して計画的に出願すれば、ある程度はコントロールが効く。すなわち入学金の締切より前に次の志望校の合格発表を確認できるようスケジュールを組み、そのサイクルをリレー形式で続けていけばよい。
しかし受験したい大学学部のスケジュールによっては、必ずしもうまくリレーができるわけではないため、入学金の支払いを覚悟しておくべきケースも少なくない。
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また、国公立大学の志望者が私立大学を受験する場合、後者の入学金の支払締切は基本的に前者の合格発表よりも前となる。この場合も、私大に入学金を支払っておくかどうかという判断が求められる。3度目の入学金浩紀君は私立専願で国公立は受験しなかったのだが、なんと最終的に入学金を3回支払うことになったという。「後期試験でもたくさんの大学を受験した結果、先に入学金を支払っておいたA大学よりも志望度が高いB大学に合格できました。本人も喜び、進学先をB大学に決めたんです。そこで、3月中旬の入学金支払期限までにB大学に入学金を支払いしました。ただ、そのあとにC大学から合格通知が来たんです!」photo by gettyimages そう語る理恵さんは嬉しそうだったが、すぐに再び顔を曇らせた。「B大学よりも行きたいC大学から合格をもらえて、とても嬉しかったです。実はC大学の受験結果は、元々は補欠合格だったんですよ。1年前のデータを調べてみたら、補欠からの繰り上がり合格者はほとんど出ていなかったし、私も息子も“どうせ合格はまわってこないだろう”と期待していなかったんです。まさか3月の終わりになって、合格の連絡が来るとは思いませんでした。息子は大喜びで、私ももちろん嬉しかったのですが、お金の面では正直ヒヤヒヤでした。何しろ、3回目の入学金支払いが必要になってしまいますから……」受験生格差を助長している制度受験結果だけを見れば、とても嬉しい逆転劇である。しかし受験料と入学金だけで120万円の出費となった親の立場から考えれば、子どもの将来のためとは言え、やるせなさも残ることであろう。もちろんそれ以前に、経済的な理由で、木村家のように3回も入学金を支払うことができない家庭もたくさんあるはずだ。その観点から言えば、期日までに入学金を支払わなければ入学する権利を失う今の制度は、受験生同士の格差を助長している一因と捉えることもできる。photo by gettyimages 入学者数を把握し、追加合格数を調整するなど、大学側にも入学金締切日を早期に設定しなければならない事情がある。それならば、例えば入学辞退者への入学金一部返還など、柔軟な対応が生まれてくることを願いたい。
また、国公立大学の志望者が私立大学を受験する場合、後者の入学金の支払締切は基本的に前者の合格発表よりも前となる。この場合も、私大に入学金を支払っておくかどうかという判断が求められる。
浩紀君は私立専願で国公立は受験しなかったのだが、なんと最終的に入学金を3回支払うことになったという。
「後期試験でもたくさんの大学を受験した結果、先に入学金を支払っておいたA大学よりも志望度が高いB大学に合格できました。本人も喜び、進学先をB大学に決めたんです。そこで、3月中旬の入学金支払期限までにB大学に入学金を支払いしました。ただ、そのあとにC大学から合格通知が来たんです!」
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そう語る理恵さんは嬉しそうだったが、すぐに再び顔を曇らせた。「B大学よりも行きたいC大学から合格をもらえて、とても嬉しかったです。実はC大学の受験結果は、元々は補欠合格だったんですよ。1年前のデータを調べてみたら、補欠からの繰り上がり合格者はほとんど出ていなかったし、私も息子も“どうせ合格はまわってこないだろう”と期待していなかったんです。まさか3月の終わりになって、合格の連絡が来るとは思いませんでした。息子は大喜びで、私ももちろん嬉しかったのですが、お金の面では正直ヒヤヒヤでした。何しろ、3回目の入学金支払いが必要になってしまいますから……」受験生格差を助長している制度受験結果だけを見れば、とても嬉しい逆転劇である。しかし受験料と入学金だけで120万円の出費となった親の立場から考えれば、子どもの将来のためとは言え、やるせなさも残ることであろう。もちろんそれ以前に、経済的な理由で、木村家のように3回も入学金を支払うことができない家庭もたくさんあるはずだ。その観点から言えば、期日までに入学金を支払わなければ入学する権利を失う今の制度は、受験生同士の格差を助長している一因と捉えることもできる。photo by gettyimages 入学者数を把握し、追加合格数を調整するなど、大学側にも入学金締切日を早期に設定しなければならない事情がある。それならば、例えば入学辞退者への入学金一部返還など、柔軟な対応が生まれてくることを願いたい。
そう語る理恵さんは嬉しそうだったが、すぐに再び顔を曇らせた。
「B大学よりも行きたいC大学から合格をもらえて、とても嬉しかったです。実はC大学の受験結果は、元々は補欠合格だったんですよ。1年前のデータを調べてみたら、補欠からの繰り上がり合格者はほとんど出ていなかったし、私も息子も“どうせ合格はまわってこないだろう”と期待していなかったんです。
まさか3月の終わりになって、合格の連絡が来るとは思いませんでした。息子は大喜びで、私ももちろん嬉しかったのですが、お金の面では正直ヒヤヒヤでした。何しろ、3回目の入学金支払いが必要になってしまいますから……」
受験結果だけを見れば、とても嬉しい逆転劇である。しかし受験料と入学金だけで120万円の出費となった親の立場から考えれば、子どもの将来のためとは言え、やるせなさも残ることであろう。
もちろんそれ以前に、経済的な理由で、木村家のように3回も入学金を支払うことができない家庭もたくさんあるはずだ。その観点から言えば、期日までに入学金を支払わなければ入学する権利を失う今の制度は、受験生同士の格差を助長している一因と捉えることもできる。
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入学者数を把握し、追加合格数を調整するなど、大学側にも入学金締切日を早期に設定しなければならない事情がある。それならば、例えば入学辞退者への入学金一部返還など、柔軟な対応が生まれてくることを願いたい。
入学者数を把握し、追加合格数を調整するなど、大学側にも入学金締切日を早期に設定しなければならない事情がある。それならば、例えば入学辞退者への入学金一部返還など、柔軟な対応が生まれてくることを願いたい。