「農協の独裁者」と呼ばれる男がいる。その名は中川泰宏。
中川が1995年から会長を務める「JAバンク京都信連」(京都府信用農業協同組合連合会)の貯金残高は、1兆2567億円に達する。副会長を務めるJA共済連(全国共済農業協同組合連合会)の保有契約高は、なんと227兆円だ。JA共済連で保険商品を売り歩く農協の職員数は、18万6000人にのぼる。
京都の農協で27年以上にわたってトップに君臨しながら、中川泰宏は農協の労働組合潰しや悪質な地上げに手を染めてきた。2005年には「小泉チルドレン」として政界に進出し、野中広務と骨肉の争いを繰り広げる。
「週刊ダイヤモンド」記者・千本木啓文氏は中川が関連する不正を批判する記事を書いてきた。それらの取材の締めくくりとして、複数回にわたって中川にインタビューなどを申し込んだが、梨の礫(つぶて)で実現しなかったため、千本木氏は二二年秋に、京都府南丹市にある中川の私邸を訪れる。「直撃取材」の一部始終を新刊『農協のフィクサー』から抜粋してお届けする。
『農協のフィクサー』連載第6回(前編)
中川の家は、八〇〇人規模のパーティーを開催できる広大な庭を有する。早朝、地元の住民が「泰宏通り」と呼ぶ、地域内でひときわ幅の広い道路を歩いていくと、三メートルほどの高さの白壁がそびえているのが見えてくる。壁の下部は石垣になっているが、人の背丈ほどの大きさの岩を含む贅沢なつくりだ。
家のある氷所という集落は、美しい山並みを望むことができる農村だが、中川邸だけが異彩を放っている。その豪邸ぶりにあっけにとられていると突然、動物のうめき声が聞こえてきてぎょっとした。周りを見渡しても家畜小屋は見当たらない。声のするほうへ歩いていくと、地下に畜舎が隠れていた。道路に面したコンクリートの地下室でガチョウが飼われているのだ。ガアガア、ガーアという低い鳴き声が、地下で反響すると、人間のうめき声のようにも聞こえ、ホラー感がある。ガチョウは二〇羽以上いて、畜舎から公共の排水溝へと自由に行き来している。ふん尿は垂れ流しで、匂いが鼻を突く。中川邸の地下の畜舎から排水路を通り、川に顔を出しているガチョウたち。茶色く汚れているこの環境汚染は数年前、近所で問題になったが、「誰も中川に対して面と向かって意見できず、うやむやになっている」(近隣住民)という。汚水が流れ込む小川を見ていると、排水溝の出口にガチョウたちが集まってきた。いずれも汚水で白い羽が茶色く汚れている。じめじめした地下室から、日の光を浴びにきているようにも見えた。中川は無類の動物好きだが、かわいがっているのか、虐待しているのかわからないところがある。異様な中川邸の様子を引き続き、後編記事【「農協の独裁者」へ直撃取材…! その自宅で見た想像を絶する光景…石畳はクソまみれ…無数の鉄パイプが散乱…猿の石像!】で読む
家のある氷所という集落は、美しい山並みを望むことができる農村だが、中川邸だけが異彩を放っている。その豪邸ぶりにあっけにとられていると突然、動物のうめき声が聞こえてきてぎょっとした。周りを見渡しても家畜小屋は見当たらない。声のするほうへ歩いていくと、地下に畜舎が隠れていた。道路に面したコンクリートの地下室でガチョウが飼われているのだ。ガアガア、ガーアという低い鳴き声が、地下で反響すると、人間のうめき声のようにも聞こえ、ホラー感がある。
ガチョウは二〇羽以上いて、畜舎から公共の排水溝へと自由に行き来している。ふん尿は垂れ流しで、匂いが鼻を突く。
中川邸の地下の畜舎から排水路を通り、川に顔を出しているガチョウたち。茶色く汚れている
この環境汚染は数年前、近所で問題になったが、「誰も中川に対して面と向かって意見できず、うやむやになっている」(近隣住民)という。汚水が流れ込む小川を見ていると、排水溝の出口にガチョウたちが集まってきた。いずれも汚水で白い羽が茶色く汚れている。じめじめした地下室から、日の光を浴びにきているようにも見えた。中川は無類の動物好きだが、かわいがっているのか、虐待しているのかわからないところがある。
異様な中川邸の様子を引き続き、後編記事【「農協の独裁者」へ直撃取材…! その自宅で見た想像を絶する光景…石畳はクソまみれ…無数の鉄パイプが散乱…猿の石像!】で読む