1月末、「メンズ地下アイドル」 (通称メン地下)の男2人が、自身のファンである未成年の女性にみだらな行為をしたとして警視庁に逮捕された、というニュースが大々的に報道された。
メン地下の運営に深く関わるA氏は「いつかこういう事件が起きると思っていました。メン地下業界にいる人はそんなに驚いてないと思います」と苦汁の表情を浮かべた。A氏が「絶対匿名」を条件に、新聞やテレビが報じないメン地下の悲惨な内部事情を語る。
「メン地下は“男性版地下アイドル” というカテゴリーですが、しょせんはただの素人です。運営もそう。ジャニーズや大手事務所のイケメンユニットには絶対に入れないレベル男の子と、芸能の仕事なんてしたこともない一般人で成り立っている小さな、小さな世界です」
A氏の業界歴は10年を超える。メン地下だけでなく、女性のライブアイドルやグラビアアイドル、子役など多岐にわたってマネージメントしてきた。
「6~7年前からメン地下業界にも関わるようになったのですが、コロナ前の2018年くらいがバブルだった感じがします。『メン地下が儲かる!』と噂になり、本当に芸能の”げ”の字も知らないド素人がたくさん参入してきました」
A氏が「素人」を連呼するのにはワケがあった。「地下」であってもアイドルを名乗る以上、当然、オリジナル曲や衣装を制作している……と世間は考えるがが、A氏は「そんなのはほんの一部」だと苦笑する。
「Tシャツを着て、著名アイドルの曲のカラオケ音源を流して、自分たちで考えた振り付けで踊る……そんなモンです。ヘタしたら高校の文化祭レベル以下です。でも、本人達も運営も”売り上げがあがればいい”という考えだから、成立してしまうんですよ」
A氏いわく、メン地下には“動員力がなく大きなイベントには出られないが、売り上げは安定している” というユニットが多いという。
「簡単に言うと”数少ないファンがたくさん課金してくれている”ってことです。本当はライブに100人のお客さんがきてくれて、みんながチェキを1枚買ってくれるのが理想です。でも、ほとんどのメン地下は、メンバーとファンの数が同じくらい。10人も動員できていないのにファン1人が10枚、多い子だと30枚チェキを買ってくれる。ファンの子も“たくさんの人にこのユニットを広めたい” という気持ちはなく、“自分が1番の客でいたい” というモチベーションだったりする。だから、曲や衣装のクオリティがそこまで求められないんですよ」
売上の大半を占めるのがライブ終了後に行われるチェキ撮影で、お値段は1枚1000円。1分間、好きなメンバーを独占できる。
「チェキ撮影の際に手を繋ぐ、肩を抱く、ハグなんて当たり前。ポッキーの両端に口づけたり、ラップ越しにキス、なんてサービスもありました。マスク越しにキスをしたり、スタッフの目を盗んでファンの胸を触ってるメンバーもいましたね。これ、女性の地下アイドルなら絶対ありえないですよ」(A氏)
本気でメジャーを目指すメン地下もいるにはいるが、大半は「現状維持で満足」で、上昇志向がないそうだ。背景には、ある事情があった。
「メン地下アイドルは、童貞が多いんですよ。童貞じゃなくても、女性経験が極端に少ない男が多い。スクールカーストで下~最下位のモテない学生時代を過ごしてきた子たちが『垢抜けたい!』『自分を変えたい!』と、メン地下になるパターンが多い。だから、人前に出て少し垢抜けて、今までだったら相手にされなかった女の子達にチヤホヤされただけで満足してしまう。本当に芸能界で頑張りたい子なら、メン地下だと絶対に物足りないはずです」(A氏)
ファンを巡ってトラブルになったり、ユニット内でイジメが起こりやすいのが「メン地下あるある」なのだという。
「新規のファンを開拓しようという発想はヤツらにはない。それより、自分たちのユニットについている太客(たくさん課金してくれる人のこと)を自分の客にすべく、他のメンバーから横取りをしようとしたりする(笑)。ライブ中に過剰なファンサービスをしたり、隠れてDM(ダイレクトメール)を送って気がある素振りを見せたりする。アホだなと思いますが実際、それで”推し変”するファンもいますから、本当に頭が痛い。そして、それがバレてグループ内でイジメ起きるわけです。1人のファンをユニット内で取り合う。クソとしか言いようがないですよね」(A氏)
「ファンの取り合いには別の問題もある。ファンの子達は”メイクのうまい中高生”と言われたら、たしかにそう見える。”若く見える20代”といえばそう見えてしまう。とくにIDチェックもしてないのでなんともいえませんが……。未成年淫行は犯罪ですが、結局ファンと繋がってしまうメン地下はたくさんいます。ファンに自分からアプローチするメン地下を何人みたかわかりませんよ」(A氏)
ファンに自らアプローチした結果、ファンと繋がってセフレ関係や恋人関係になるも、結局ファンに捨てられた挙げ句、SNSで晒されて地獄をみたメン地下もいるようだ。
「チェキを撮るときに密着するからか、勘違いするというか好きになっちゃうんですかね。ただ、付き合ったり身体の関係を持ってしまうと、もともとはクソばかりですからファン側が飽きて捨てられてしまう。最終的にSNSに関係や交際があった事実を書き込まれてしまうんです」
運営側もメンバーと特定のファンが怪しい、と気がつくこともあるというが、決定的な証拠がないと行動を起こせない。しかし、本来なら迷惑なはずのファンの晒し行為が功を奏すこともあるという。
「ユニットにすごく貢献しているメンバーは厳重注意や減給で残留させることもあるんですが、人気のないメンバーや売上が今後見込めないメンバーに関してはファンと関係を持ったことで“クビにするいいキッカケ”になる(笑)」(A氏)
最後にA氏に今後のメン地下業界について聞いてみた。
「う~ん……僕はもともと芸能畑の人間だから、メジャーを目指せるユニットを作りたい。ですが、今のメン地下の子たちを見ていると、厳しいなと思います。『メジャーに行きたい!』『芸能界で結果を残したい!』っていう気持ちを持ってる子が少ないですから。『成長が見られない』と憤然と去っていくファンもいれば、チェキだけ撮れればいいと気に留めないファンもいる。かといって、チェキ制度をなくしてしまえば運営は回らないし……難しいです」
そう言い残すと、A氏は自身の担当するユニットの現場があるとライブハウスに消えて行った。この日の予約は8人。「平日ですが、最低50枚はチェキを売りたいです」との最後のセリフに哀しみが滲んでいた。
取材・文:吉沢さりぃ85年、山梨県生まれ。100僖ーバーの巨乳を武器にグラビアアイドルとして活躍。2016年「ミスFLASH」ファイナリスト。ライターとしても活躍中で近著に『現役グラドルがカラダを張って体験してきました』(彩図社)がある。最新動向はTwitter(@sally_y0720)をチェック