終わりの見えない、東京五輪の汚職捜査。昨年の高橋治之・元理事に続き、今度は組織委員会の運営局元次長が談合容疑で逮捕された。この森泰夫容疑者(55)、実は以前から「タカリ体質」で有名だったという。
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【写真を見る】談合事件のキーマンとされる森・運営局元次長「明日の女子マラソンのスタート1時間早めます……」 スタッフに伝えながら、電話で各方面との調整に追われる男。 河瀬直美監督による東京五輪記録映画。その中でヒーローとして描かれているのが、森元次長である。
一昨年の東京五輪では、猛暑を避けるため、女子マラソンのスタート時間が朝7時から6時に変更された。その決定は半日前。そんな無茶振りにも不満一つ漏らさず対処する一見“デキる風の男”にも、裏の顔があったのである。東京五輪開会式下と見た相手には居丈高 森容疑者は横浜国立大を卒業し、東急電鉄に入社。2004年に日本陸連に転職し、事業部長などを務めた。14年に組織委員会に出向した後、次長として会場運営の実務を担ってきた。「森は異質な存在でした」 と回想するのは、日本陸連のさる関係者である。「能力は高く、業者とのパイプが太かった。うちの事務局が移転した際には、森個人宛に花輪が送られてきてみな仰天していました。押しが強く、下と見た相手には居丈高になる。ある広告会社の陸連担当者が平社員だと知って、“局長クラスが来るのが当たり前だろ!”と出入り禁止にしたこともあります」 一方で、「上にはペコペコしますが、陰で悪口を言うタイプ。当時理事だった瀬古利彦さんのことが嫌いで、“あいつはバカだ”などとボロクソに言っていましたね」サッカー観戦も… その森容疑者、金に関する疑惑が取沙汰されたことも。「13年のこと。その頃、スポーツ団体で金にまつわる不正が相次いでいたことから、当時の財務委員長が念のためにと、うちの経理も調査してみたんです」 とは、別の陸連関係者だ。「すると、森がリオデジャネイロやケニアに出張した際、規程に反してビジネスクラスを使い、エコノミーと比べて140万円近い無駄遣いをしていたことがわかった。また、現地では経費でサッカー観戦や観光をし、クリーニング代も計上していたことが発覚。さらには、1年間でタクシーを250回使用していたことも……」 財務委員長は調査結果を文書にまとめた。そこには「大名旅行」「不正使用」「私物化」といった厳しい言葉が並び、「このまま何事もなく終わってしまえば『マスコミへ』と情報漏洩につながっていく可能性も」とも指摘されている。 関係者が続ける。「打ち合わせの合間に行った喫茶店のコーヒー代まで請求し、ひんしゅくを買っていました。文書には当時の専務理事・尾縣(貢)さんや、事務局長の風間(明)さんの経費使用の問題点についても記されています。文書は後に流出し、内部で広く知られることになりましたが、彼らが処分されたとの発表はありませんでした」 当時の財務委員長に聞くと、「文書にまとめたのは事実。ただ、“以後はしません”という話になって……」 と言葉を濁す。「どこかでタガが外れてしまったんでしょう」 この時きちんと処分していれば、森容疑者が五輪に関わることもなかったに違いない。ちなみに尾縣氏は現在、陸連の会長、風間氏は専務理事を務めている。 日本陸連に聞くと、「文書が作成され、理事等に共有されたことは認識しております。規程等に則って判断し、必要に応じて対応しました」 と述べる。 陸連で専務理事や副会長を務めた、順天堂大学の澤木啓祐・特任教授は言う。「森は非常に優秀でしたが、どこかでタガが外れてしまったんでしょう。しかし、文書が出た時にきちんと対処していればねえ……」 日本で五輪が開催される日は二度と来そうにない。「週刊新潮」2023年2月23日号 掲載
「明日の女子マラソンのスタート1時間早めます……」
スタッフに伝えながら、電話で各方面との調整に追われる男。
河瀬直美監督による東京五輪記録映画。その中でヒーローとして描かれているのが、森元次長である。
一昨年の東京五輪では、猛暑を避けるため、女子マラソンのスタート時間が朝7時から6時に変更された。その決定は半日前。そんな無茶振りにも不満一つ漏らさず対処する一見“デキる風の男”にも、裏の顔があったのである。
森容疑者は横浜国立大を卒業し、東急電鉄に入社。2004年に日本陸連に転職し、事業部長などを務めた。14年に組織委員会に出向した後、次長として会場運営の実務を担ってきた。
「森は異質な存在でした」
と回想するのは、日本陸連のさる関係者である。
「能力は高く、業者とのパイプが太かった。うちの事務局が移転した際には、森個人宛に花輪が送られてきてみな仰天していました。押しが強く、下と見た相手には居丈高になる。ある広告会社の陸連担当者が平社員だと知って、“局長クラスが来るのが当たり前だろ!”と出入り禁止にしたこともあります」
一方で、
「上にはペコペコしますが、陰で悪口を言うタイプ。当時理事だった瀬古利彦さんのことが嫌いで、“あいつはバカだ”などとボロクソに言っていましたね」
その森容疑者、金に関する疑惑が取沙汰されたことも。
「13年のこと。その頃、スポーツ団体で金にまつわる不正が相次いでいたことから、当時の財務委員長が念のためにと、うちの経理も調査してみたんです」
とは、別の陸連関係者だ。
「すると、森がリオデジャネイロやケニアに出張した際、規程に反してビジネスクラスを使い、エコノミーと比べて140万円近い無駄遣いをしていたことがわかった。また、現地では経費でサッカー観戦や観光をし、クリーニング代も計上していたことが発覚。さらには、1年間でタクシーを250回使用していたことも……」
財務委員長は調査結果を文書にまとめた。そこには「大名旅行」「不正使用」「私物化」といった厳しい言葉が並び、「このまま何事もなく終わってしまえば『マスコミへ』と情報漏洩につながっていく可能性も」とも指摘されている。
関係者が続ける。
「打ち合わせの合間に行った喫茶店のコーヒー代まで請求し、ひんしゅくを買っていました。文書には当時の専務理事・尾縣(貢)さんや、事務局長の風間(明)さんの経費使用の問題点についても記されています。文書は後に流出し、内部で広く知られることになりましたが、彼らが処分されたとの発表はありませんでした」
当時の財務委員長に聞くと、
「文書にまとめたのは事実。ただ、“以後はしません”という話になって……」
と言葉を濁す。
この時きちんと処分していれば、森容疑者が五輪に関わることもなかったに違いない。ちなみに尾縣氏は現在、陸連の会長、風間氏は専務理事を務めている。
日本陸連に聞くと、
「文書が作成され、理事等に共有されたことは認識しております。規程等に則って判断し、必要に応じて対応しました」
と述べる。
陸連で専務理事や副会長を務めた、順天堂大学の澤木啓祐・特任教授は言う。
「森は非常に優秀でしたが、どこかでタガが外れてしまったんでしょう。しかし、文書が出た時にきちんと対処していればねえ……」
日本で五輪が開催される日は二度と来そうにない。
「週刊新潮」2023年2月23日号 掲載