「〇〇(妻)を殺してしまいました。2人で決めたとは 言え 人殺しです。 皆さん 頑張って生きてください」
妻を絞殺したとして、殺人罪に問われている中村祐貴被告の第二審が、2023年2月9日から東京高裁で行われている。事件が起こったのは2021年11月23日。中村被告(当時44)は静岡県沼津市のラブホテルで飲酒中に妻と口論となり、両手で首を絞めて窒息死させた。
犯行直後の中村被告は、複数の知人に冒頭のようなLINEを送っていた。その文面からは妻と無理心中を図ったかのような意図が感じられる。LINE送信後まもなく、中村被告は自ら110番通報。取り調べに対して容疑を認めたものの、「同意のうえで殺してしまった」という趣旨の供述をしたという。
かつて、中村被告は内装会社社長として支店を複数展開し、豪勢な生活を送っていた。
「一時期、東京や大阪、名古屋、尼崎などに支店を展開しており、尼崎と沖縄などにマンションを借りていました。沖縄ではゴルフに明け暮れる日々。ベンツやランボルギーニ、レクサスなどの高級車を乗り回し、全身をブランドで固めていたそうです」(全国紙社会部記者)
絵に描いたような成功者の生活を送っていた中村被告が、なぜ妻を殺害するまでに至ったのか。その理由は2022年9月に沼津地裁で行われた第一審で判明する。「借金苦」が動機だったというのだ。
「中村被告は派手な生活を送る一方で、会社の資金繰りに苦しんでいたらしく、逮捕直前は7億円近い借金を抱えていたようです。ゴルフ三昧の生活に加えて、奥さんもかなりの浪費癖があり、ブランド品やエステ代を中村被告に払わせていたといいます。
グレーな人脈からも金を借りていたようで、事件直前には『殺される』といった趣旨の発言をしていました。事件の前日は、中村被告が設立した会社が事実上倒産した日。借金を返せる当てがなくなり、自暴自棄になって妻を殺したのではないでしょうか」(前出の記者)
検察は、中村被告が犯行に及んだ理由を「妻を殺害して検挙されることで債権者から逃れるため」と主張。これに対し、弁護側は「債権者から逃げるうちに精神的に追い詰められて衝動的に殺人を起こした」と訴えた。いずれにせよ、中村被告が債権者から追われていたのは事実のようだ。
家賃や高級車のローン、妻に貢いだカネなどで、莫大な負債を抱えていた中村被告には、懲役11年(求刑15年)が言い渡された。
気になるのは「同意のうえで殺した」という供述や、知人に送った無理心中を示唆するLINEだ。中村被告は情状酌量を狙って、刑期を軽くすべくウソをついたのだろうかーー。
中村被告は一審判決後に控訴し、上述の通り第二審が開かれている。中村被告は、白髪が目立つ短髪姿に黒いトレーナーにスウェット姿で法廷に現れた。逮捕からの1年余りでかなり老け込んだように見えた。
妻を殺害したことについて、中村被告は「後悔しかない」と反省の意を示したものの、無理心中については「自殺の意図があったと言われたらそうだったかもしれません」と回答を濁した。
被告が抱える7億円の借金はどうなるのか。弁護士法人・響に所属する古藤由佳弁護士はこう説明する。
「服役中も借金の返済義務は残ります。借金の消滅時効が成立する場合(借金の返済義務がなくなる場合)もありますが、債権者が収監者相手に『借金を返済してほしい』と訴訟を起こすことも可能です」
今後について聞かれると、中村被告は「出所を終えたら関西に戻って、もう一度建築関係の仕事に戻りたい。自分にはもうそこしか戻る場所はないので……」と答えた。
虚飾の生活を送った果てに妻を殺め、刑期を終えた後も莫大な借金が残る。どれだけ悔やんでも悔やみ切れない人生だろう。二審の判決は2023年3月2日に予定されている。
取材・文:佐藤隼秀