道路や水道など、生活を支えるインフラが全国各地で崩壊の一途を辿っている。しかし維持管理できない自治体も出てきているという。一体現場では何が起きているのか。全国で顕になりつつある“荒廃する日本”の実態に迫る。
◆道路との境目が見えず事故が相次ぐ“人食い用水路”岡山県岡山市/一帯に広がる用水路
田畑に水を引く用水路は農業にとって必要不可欠なインフラ。特に降水量の少ない岡山市では、全長4000劼發陵竸縅が広がるが、ここに転落し死亡する事故が後を絶たない。その危険性から“人食い用水路”とも呼ばれている。
地元住民は実態をこう明かす。
「’22年7月にも、女性の転落死がありましたが、地元では日常茶飯事です。なかには小川ほどの広さの用水路もありますが、ガードレールなどはほとんどない。足を踏み外した拍子に、用水路の底に頭を打ち、亡くなるケースは多い」
◆再発防止策を含めた整備が求められる
予算が足りず整備が難しいのかと思い、岡山市中区役所に尋ねるとこんな回答が。
「予算の問題というより、農家が水の流れを調整したり、掃除のために出入りするため、すべての用水路に柵や蓋をつけることはできません。反射材を用水路の脇に設置するなど対策を講じています」
しかし、同じく用水路で転落死した事故では、広島県福山市の転落防止策に瑕疵があると裁判所が認定している。岡山市にも再発防止策を含めた整備が求められる。
◆大都市の地下に走る“古く脆すぎる”水道管問題大阪府大阪市・東京都狛江市
水道管の劣化も都市部を中心に深刻さを増している。なかでも特筆すべきは水道管の老朽化率が52%と突出している大阪市。これまでにも東住吉区の地下・駒川中野付近で水道管が破裂。午前5時に1200屬糧楼呂泥水につかり、道路は冠水。交通規制が敷かれ、辺りは一時騒然となった。
近くの住民や、飲食店のスタッフは、「店に入ってきた泥水をモップやバケツでかき出すのが大変。道路にも大きな穴が開いていました」「大阪はよく水道が弱い、古いって言われるけど、まさか自分のところも関係あるなんて思わなかった」と、当時の心境を振り返る。
◆本当に工事が必要なのは水道が整備された初期の鋳鉄管
水道事業のマネジメントを専門とする、近畿大学経営学部の浦上拓也教授は、「老朽化した水道管にも、設置された時代や材質によって、危機的な状況のものとそうでないものがある」と語る。
「今本当に工事が必要なのは、水道が整備された初期の鋳鉄管。老朽化するとより劣化が激しくなる材質で、割れやすい。土壌の腐食性や環境によって差はありますが、これが使われている地域はいつ事故が起きてもおかしくありません」
大阪市内の水道管は、市内全体でこの鋳鉄管が401km残っており、その8分の1は水道を支える重要な管路である基幹管路に使われている。駒川中野で破裂した水道管も鋳鉄管の基幹管路だった。そんな状況に直面する大阪市水道局にも当面の方針を聞いた。
「鋳鉄管はどこかに集中的にあるのではなく、市内各所に点在している状態です。地震時の被害率が高い管種でもありますので、優先的に更新を進めています」
◆63年前に敷設されたまま放置されてきた水道管
大阪市と同じく東京都も、水道管の整備が重要課題だ。東京都狛江市の都営住宅で漏水の被害に遭った雑貨店を営む女性はこう語る。
「あるとき地下の配水管に500円玉大の穴が開き、店内が水浸しになりました。すぐ業者に原因を確認してもらうと、なんと63年前に敷設されたまま一度も交換されずに放置されてきた水道管だっていうんです」
◆「ひとごとだと思っている都民も一度は確認を」
この経緯を探ると、いままで水道管のメンテナンス責任について明確な線引きがされぬまま都営住宅側と物権購入者の間で売買契約が結ばれてきていたらしい。
「本当に『まさか!』と思うような出来事です。ひとごとだと思っている東京都民でも一度は水道管のメンテナンス状況について確認をしたほうがいい」
今や誰が劣化したインフラの落とし穴に遭遇してもおかしくないのだ。
【近畿大学教授・浦上拓也氏】経営学部・経営学科教授。公益事業論を専門とし、水道のマネジメントに精通する。諸外国の研究者と国際共同研究を行っている
取材・文/SPA!インフラの崩壊取材班