スマートフォン端末を転売して利ざやを稼ぐ転売ヤーの存在は社会問題になっている。携帯キャリアが販売代理店に“達成困難な”ノルマを課しているため、店舗は“転売ヤー依存”になっている–こうした業界的構造を「週刊文春」はこれまでも報じてきた。
【写真】大量に購入した端末の空き箱を披露する悪質転売ヤー
そんな中、業界2位のauの販売店「auショップ」店長A氏が小誌の取材に応じ、「auショップが“転売ヤー依存”に陥ったきっかけは、運営会社のKDDIが2016年に行った店舗の評価制度の変更にある」と証言した。
携帯キャリア2位のauも、転売ヤーと“共依存”の関係にあるという
スマホ市場が大きな転換点を迎えたのは、2015年頃のこと。
「この年、世界のスマホの出荷台数の伸びが大きく鈍化。日本でも、キャリアが新規購入から“買い替え需要”に頼る構図が出来上がっていきました」(総務省担当記者)
キャリアが“新たなノルマ”として力を入れたのが、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)による他社からのポートイン(乗り入れ)獲得数である。ここに目を付けたのが転売ヤーだ。ノルマを達成したい店舗と、端末の大量転売で利ざやを稼ぎたい転売ヤー。両者は“共依存”関係となって今に至る。
転売ヤーが登場し始めた2016年、KDDIはその後のauショップの運命を変える大きな制度変更を実施した。
A氏が振り返る。
「スマホ市場が成長していた時期、KDDIは成績が良ければどの店舗も評価される『絶対評価』を採用していました。あの頃は、店長同士で集まった時も『みんなで一緒に頑張ろう』という雰囲気で楽しかった。
ところが2016年、KDDIがauショップを成績順にS、A、B、C、Dと5段階にランク分けする『相対評価』に変更したのです」
新制度の内容でA氏らを特に苦しめたのが、「最低ランクのDを取った店舗は、KDDIからの“支援金”が打ち切られてしまう」というルール。auショップは「人員体制支援金」「総合指標支援金」などの名目でKDDIから支払われる資金がないと、人件費を含めた店舗の収支が成り立たない構造になっている。支援金は「auショップの“命綱”」(A氏)になっていたという。「支援金の打ち切りは実質、店舗の“閉鎖宣告”なのです」(同前)転売ヤーの囲い込み合戦が始まった 飽和するスマホ市場の中で、“敗者切り捨て”の評価方法に舵を切ったKDDI。こうしてauショップは生き残りをかけた戦いの中に放り込まれた。最低ランクのDを取った店舗は閉店の危機に陥る。他店に構っていられない。泥仕合が始まった。「相対評価の下では、自分たちの店舗が生き残るためには他店を蹴落としてまで高成績を挙げなければならなくなった。そのため、2016年の評価方法変更以降は、各地のauショップによって、転売ヤーの囲い込み合戦が始まりました。“彼ら”は確実に端末販売の数字を上げてくれますから」(同前) KDDIでは、転売ヤーのことを「ホッパー」と呼ぶ。auショップはこぞって転売ヤーへの値引きを開始した。 転売ヤーに頼る店舗とそうでない店舗では月の売上が10倍以上に広がった。A氏の店舗は当初、転売ヤーに頼らずに運営していたが、支援金も細り、経営難に追い込まれていった。そして–。「結局、会社には言い出せないまま、私は数百万円の借金をしました。それをホッパーへの値引き資金に充てていたのです」(同前) その後もKDDIは複数回にわたり、評価制度を変更したが、店舗側の苦しみは変わらなかった。力尽きて閉店していくauショップも相次いだ。他社に代理店営業の権利を譲渡したオーナーもいた。A氏は言う。「KDDIはもはや私たちauショップを使ってゲームをしてるんじゃないか……絶望的な気持ちになりました」 auショップの転売ヤー依存を作ってきた評価制度やノルマについて、KDDIはどう考えているのか。取材を申し込むと、広報がこう回答した。「弊社営業戦略に関わる部分について、詳細な回答は差し控えさせていただきますが、適正な営業活動や健全な商取引が行われるように、代理店様と連携し、適時見直しを実施しております。具体的に2022年6月からは、代理店様自身が実態を踏まえて選択する目標に応じた評価制度も導入しております。また、転売等不健全な取引につながるものは問題だと考えており、『お1人さま1台限り』の販売等の運用を代理店様と協力して実施しているほか、繰り返しの乗り換えなど不自然な契約状況について把握し、問題があるケースにおいては店舗への指導を行うと共に、施策内容にも反映しております」 現在配信中の「週刊文春 電子版」では、「auショップ店長の告白」と題した前後編のレポートを掲載している。前編では、“転売ヤー依存”の発端となったKDDIによる2016年の評価方法変更の内容を詳しく報じている。後編では、その後行われた評価方法の再変更の詳細に加え、数百万円の借金を背負うことになったA氏の人生やauショップを追い詰めたKDDI担当者の態度などを報じている。(「週刊文春」編集部/週刊文春)
新制度の内容でA氏らを特に苦しめたのが、「最低ランクのDを取った店舗は、KDDIからの“支援金”が打ち切られてしまう」というルール。auショップは「人員体制支援金」「総合指標支援金」などの名目でKDDIから支払われる資金がないと、人件費を含めた店舗の収支が成り立たない構造になっている。支援金は「auショップの“命綱”」(A氏)になっていたという。
「支援金の打ち切りは実質、店舗の“閉鎖宣告”なのです」(同前)
飽和するスマホ市場の中で、“敗者切り捨て”の評価方法に舵を切ったKDDI。こうしてauショップは生き残りをかけた戦いの中に放り込まれた。最低ランクのDを取った店舗は閉店の危機に陥る。他店に構っていられない。泥仕合が始まった。
「相対評価の下では、自分たちの店舗が生き残るためには他店を蹴落としてまで高成績を挙げなければならなくなった。そのため、2016年の評価方法変更以降は、各地のauショップによって、転売ヤーの囲い込み合戦が始まりました。“彼ら”は確実に端末販売の数字を上げてくれますから」(同前)
KDDIでは、転売ヤーのことを「ホッパー」と呼ぶ。auショップはこぞって転売ヤーへの値引きを開始した。
転売ヤーに頼る店舗とそうでない店舗では月の売上が10倍以上に広がった。A氏の店舗は当初、転売ヤーに頼らずに運営していたが、支援金も細り、経営難に追い込まれていった。そして–。
「結局、会社には言い出せないまま、私は数百万円の借金をしました。それをホッパーへの値引き資金に充てていたのです」(同前)
その後もKDDIは複数回にわたり、評価制度を変更したが、店舗側の苦しみは変わらなかった。力尽きて閉店していくauショップも相次いだ。他社に代理店営業の権利を譲渡したオーナーもいた。A氏は言う。「KDDIはもはや私たちauショップを使ってゲームをしてるんじゃないか……絶望的な気持ちになりました」 auショップの転売ヤー依存を作ってきた評価制度やノルマについて、KDDIはどう考えているのか。取材を申し込むと、広報がこう回答した。「弊社営業戦略に関わる部分について、詳細な回答は差し控えさせていただきますが、適正な営業活動や健全な商取引が行われるように、代理店様と連携し、適時見直しを実施しております。具体的に2022年6月からは、代理店様自身が実態を踏まえて選択する目標に応じた評価制度も導入しております。また、転売等不健全な取引につながるものは問題だと考えており、『お1人さま1台限り』の販売等の運用を代理店様と協力して実施しているほか、繰り返しの乗り換えなど不自然な契約状況について把握し、問題があるケースにおいては店舗への指導を行うと共に、施策内容にも反映しております」 現在配信中の「週刊文春 電子版」では、「auショップ店長の告白」と題した前後編のレポートを掲載している。前編では、“転売ヤー依存”の発端となったKDDIによる2016年の評価方法変更の内容を詳しく報じている。後編では、その後行われた評価方法の再変更の詳細に加え、数百万円の借金を背負うことになったA氏の人生やauショップを追い詰めたKDDI担当者の態度などを報じている。(「週刊文春」編集部/週刊文春)
その後もKDDIは複数回にわたり、評価制度を変更したが、店舗側の苦しみは変わらなかった。力尽きて閉店していくauショップも相次いだ。他社に代理店営業の権利を譲渡したオーナーもいた。A氏は言う。
「KDDIはもはや私たちauショップを使ってゲームをしてるんじゃないか……絶望的な気持ちになりました」
auショップの転売ヤー依存を作ってきた評価制度やノルマについて、KDDIはどう考えているのか。取材を申し込むと、広報がこう回答した。
「弊社営業戦略に関わる部分について、詳細な回答は差し控えさせていただきますが、適正な営業活動や健全な商取引が行われるように、代理店様と連携し、適時見直しを実施しております。具体的に2022年6月からは、代理店様自身が実態を踏まえて選択する目標に応じた評価制度も導入しております。また、転売等不健全な取引につながるものは問題だと考えており、『お1人さま1台限り』の販売等の運用を代理店様と協力して実施しているほか、繰り返しの乗り換えなど不自然な契約状況について把握し、問題があるケースにおいては店舗への指導を行うと共に、施策内容にも反映しております」
現在配信中の「週刊文春 電子版」では、「auショップ店長の告白」と題した前後編のレポートを掲載している。前編では、“転売ヤー依存”の発端となったKDDIによる2016年の評価方法変更の内容を詳しく報じている。後編では、その後行われた評価方法の再変更の詳細に加え、数百万円の借金を背負うことになったA氏の人生やauショップを追い詰めたKDDI担当者の態度などを報じている。(「週刊文春」編集部/週刊文春)
現在配信中の「週刊文春 電子版」では、「auショップ店長の告白」と題した前後編のレポートを掲載している。前編では、“転売ヤー依存”の発端となったKDDIによる2016年の評価方法変更の内容を詳しく報じている。後編では、その後行われた評価方法の再変更の詳細に加え、数百万円の借金を背負うことになったA氏の人生やauショップを追い詰めたKDDI担当者の態度などを報じている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)