「先日いきなり夫から離婚したいと言われました」。出産後に離婚危機に陥った女性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
夫は出張ばかりで家におらず、ほぼワンオペで初めての育児に奮闘していた女性。家にいるときも夫はあまり協力してくれず、日に日に夫に対してイライラが溜まり、感情的になって責め立ててしまったこともありました。
そんな中、夫から突然切り出された離婚。出産後に夫婦仲が悪くなる「産後クライシス」とも言える状況ですが、夫を責めるようなLINEなどが残っていた場合、夫の望むように離婚が成立してしまうのでしょうか。河内良弁護士に聞きました。
日本で最も割合の多い協議離婚は、夫婦で離婚届に署名押印して作成するということが必要なため、一方が離婚に応じないケースでは当てはまりません。
なお、離婚届の署名押印の欄のうち、夫が相談者である妻の署名押印を偽造して提出するおそれも捨てきれないので、すみやかに、「離婚届の不受理届」を提出してください。
今回のケースでは、夫は離婚したいという意思があり、妻は離婚を拒んでいるということですので、夫の側としては、どうしても離婚したければ、離婚調停の申立てをしなければなりません。
そして、調停においても離婚の話がまとまらず、調停が不成立となった場合には、夫が原告となり、離婚訴訟を起こすという流れが想定されます。
この離婚訴訟で初めて、「離婚したくない相談者の意思を押し切って、無理矢理離婚されるのか」が争われます。
この際に、この「産後クライシス」の状況や、夫を責めるようなLINEの内容が、裁判所が離婚を命じる根拠になり得るのか問題になります。
これは、このような状況・LINEの内容が、妻の有責原因として、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するか、という問題です。
こればかりは、裁判所の判断ですし、このほかにも夫が不満に思っている事柄がある可能性もあります。しかし、産後クライシスや子育てに非協力的な夫を責めるLINE以外に、夫が離婚事由だと思っている事柄がないのなら、乳飲み子を抱えた相談者の意向を無視して、裁判所が離婚を命じる可能性は、極めて低いものと思います。
なお、離婚したい意思を有する夫が別居を強行して、生活費を入れなくなるおそれもあります。このような場合は、「婚姻費用分担請求」という方法により、生活費を確保する手段もあります。いずれにせよ、早期に、弁護士に相談されることを、強くお勧めします。
【取材協力弁護士】河内 良(かわち・りょう)弁護士大学時代は新聞奨学生として過ごし、平成18年に旧司法試験に合格。平成28年3月に独立した。趣味はドライブと温泉めぐり。事務所名:河内良法律事務所事務所URL:http://www.kawachiryo-law.jp