〈私たちの愛し合う様子を投稿してるよ! 月額980円で顔出しプランもあるから入会してね!〉。絵文字付きの文字が躍るインターネット上の画面。検索欄には「個人撮影」「素人」などのキーワードが並び、その下にはマスクを着けたカップルたちの動画がズラリと並ぶ──有料会員制ファンサイト「ファンティア」の一画面だ。
【写真34枚】「バレないように森の中で」逮捕の「RYO&YUU」が語っていた野外撮影の“対策” 実際は公園、海岸でも裸に ファンティアは誰でも無料でファンクラブが開設でき、イラストや小説などを手軽に投稿できるサイト。昨今、このようなファンサイトに個人撮影のアダルト動画をアップし、大金を稼ぐケースが急増している。

画面に映るのは、顔バレを防ぐためにマスクをして自室で行為に及ぶカップル。多くは局部にモザイクが入っており、“プロさながら”の動画も投稿されており、視聴者は無料から月額2980円など、様々なプランを選ぶことができる。 一般の素人カップルが自分たちのアダルト動画をアップするという風景は2000年代以降細々と存在したが、それが爆発的に増えるきっかけのひとつになったのは、昨年5月にAbemaTVで放送された『給与明細』という番組だとされる。 ごく普通の日本人カップルがスマホで撮った自らの行為の動画を世界最大級のアダルト動画投稿サイトで配信し、最高月収4000万円を稼いだと公表。放送終了後、我先にと一攫千金を夢見た新規参入者が相次いだ。その番組で紹介されたのが彼氏のドM(24)と彼女のあゆみ(22)『えむゆみカップル』だ。「私たちのウリはなんと言ってもリアル感だと思う。特に台本も作りませんし、派手な動画は撮りません。お互いが“したくなった”時に、ぶっつけ本番でスマホと定点カメラで撮影し編集したものがほとんどです」(あゆみ) リアル感溢れる動画で大人気を博しえむゆみに続けとネット上に動画を上げる人々が溢れた。「有料会員制のファンサイトは一度会員になってもらえれば再生数にかかわらずお金が入ってきます。僕らもファンティアなどいくつか掛け持ちで展開していて、『ポルノハブ』など無料で動画が観られるサイトはファンサイトへの誘致のために使っていました」(ドM) 月額1000円のファンサイトに1000人のファンがつけば、サイトに払う手数料を除いても月50万円以上の固定給が得られる、というわけだ。ファンサイト内では、ファンがリクエストし、カップルが「こう?」と実演で応える密なやりとりもうかがえる。 さらに素人動画サービス隆盛の裏には、今年6月に制定されたAV出演被害防止・救済法、いわゆる「AV新法」による、AV業界の締め付け強化があったという。現役のAV男優で自身もファンティアの『[MugAi]森林原人の実践的性教育チャンネル』で動画配信している森林原人氏が説明する。「通常のAV作品の撮影は1か月前に契約を交わさなければならず、撮影本数が減り月収が下がった女優は多い。ファンサイトであれば自分で好きに撮って投稿できますから、副業的に動画配信する女優も出てきました。私自身は新法の適用内でやっていますが、素人は規制を外れた動画が多いです」 規制が強まるばかりの業界を尻目に、「エロを売る一般人」は自由に大金を稼いでいるのだ。野外撮影で逮捕例も アダルト系ファンサイトが隆盛を極める一方、配信にはリスクもある。今年7月、有名配信カップルが観光地で野外プレイの撮影を行なったとして、公然わいせつ容疑で逮捕された。逮捕については動画の視聴者から警察に通報があったとされ、界隈は騒然となった。大阪グラディアトル法律事務所の森山珍弘弁護士が解説する。「野外撮影時の公然わいせつで逮捕されるリスクがあるのはもちろん、基本的に『わいせつ』と認定される動画を国内で撮影し投稿すると、罪に問われる可能性があります。現状、モザイクが入っていれば摘発の対象となる可能性は低いと言えるが、『わいせつ』の基準が幅のあるものなので、今後さらに規制が厳しくなることも考えられます」 また視聴者も罪に問われるケースがあるという。「アップロードされたアダルト動画を視聴するだけなら、視聴者が刑事罰に問われることは基本的にないと考えてよい。ただし、無修正動画や児童ポルノの可能性がある動画など、日本で違法とされる動画をダウンロードして自身の端末内に所持すると、刑事罰の対象になります。ファンサイト内は適切に管理されているとは言いがたく、違法動画が出回る可能性もあるため、自身の端末に保存することは絶対に避けましょう」(森山氏) また一方で、一攫千金を狙えるからこそ、配信を持ちかけられた女性が性的に搾取されるケースも考えられる。カップルの関係が破綻した時にアップした動画を削除したいと思っても、既にネット上で無限に拡散されているリスクはあるだろう。素人が切り開いたアダルトの新境地は、危ういバランスで成り立っている。取材・文河合桃子(かわい・ももこ)/ジャーナリスト。1977年東京都生まれ。AV業界について長年取材するほか、ハプニングバーや一般人によるアダルト動画配信など、性風俗に関する最先端事情を追う。※週刊ポスト2022年12月2日号
ファンティアは誰でも無料でファンクラブが開設でき、イラストや小説などを手軽に投稿できるサイト。昨今、このようなファンサイトに個人撮影のアダルト動画をアップし、大金を稼ぐケースが急増している。
画面に映るのは、顔バレを防ぐためにマスクをして自室で行為に及ぶカップル。多くは局部にモザイクが入っており、“プロさながら”の動画も投稿されており、視聴者は無料から月額2980円など、様々なプランを選ぶことができる。
一般の素人カップルが自分たちのアダルト動画をアップするという風景は2000年代以降細々と存在したが、それが爆発的に増えるきっかけのひとつになったのは、昨年5月にAbemaTVで放送された『給与明細』という番組だとされる。
ごく普通の日本人カップルがスマホで撮った自らの行為の動画を世界最大級のアダルト動画投稿サイトで配信し、最高月収4000万円を稼いだと公表。放送終了後、我先にと一攫千金を夢見た新規参入者が相次いだ。その番組で紹介されたのが彼氏のドM(24)と彼女のあゆみ(22)『えむゆみカップル』だ。
「私たちのウリはなんと言ってもリアル感だと思う。特に台本も作りませんし、派手な動画は撮りません。お互いが“したくなった”時に、ぶっつけ本番でスマホと定点カメラで撮影し編集したものがほとんどです」(あゆみ)
リアル感溢れる動画で大人気を博しえむゆみに続けとネット上に動画を上げる人々が溢れた。
「有料会員制のファンサイトは一度会員になってもらえれば再生数にかかわらずお金が入ってきます。僕らもファンティアなどいくつか掛け持ちで展開していて、『ポルノハブ』など無料で動画が観られるサイトはファンサイトへの誘致のために使っていました」(ドM)
月額1000円のファンサイトに1000人のファンがつけば、サイトに払う手数料を除いても月50万円以上の固定給が得られる、というわけだ。ファンサイト内では、ファンがリクエストし、カップルが「こう?」と実演で応える密なやりとりもうかがえる。
さらに素人動画サービス隆盛の裏には、今年6月に制定されたAV出演被害防止・救済法、いわゆる「AV新法」による、AV業界の締め付け強化があったという。現役のAV男優で自身もファンティアの『[MugAi]森林原人の実践的性教育チャンネル』で動画配信している森林原人氏が説明する。
「通常のAV作品の撮影は1か月前に契約を交わさなければならず、撮影本数が減り月収が下がった女優は多い。ファンサイトであれば自分で好きに撮って投稿できますから、副業的に動画配信する女優も出てきました。私自身は新法の適用内でやっていますが、素人は規制を外れた動画が多いです」
規制が強まるばかりの業界を尻目に、「エロを売る一般人」は自由に大金を稼いでいるのだ。
アダルト系ファンサイトが隆盛を極める一方、配信にはリスクもある。今年7月、有名配信カップルが観光地で野外プレイの撮影を行なったとして、公然わいせつ容疑で逮捕された。逮捕については動画の視聴者から警察に通報があったとされ、界隈は騒然となった。大阪グラディアトル法律事務所の森山珍弘弁護士が解説する。
「野外撮影時の公然わいせつで逮捕されるリスクがあるのはもちろん、基本的に『わいせつ』と認定される動画を国内で撮影し投稿すると、罪に問われる可能性があります。現状、モザイクが入っていれば摘発の対象となる可能性は低いと言えるが、『わいせつ』の基準が幅のあるものなので、今後さらに規制が厳しくなることも考えられます」
また視聴者も罪に問われるケースがあるという。
「アップロードされたアダルト動画を視聴するだけなら、視聴者が刑事罰に問われることは基本的にないと考えてよい。ただし、無修正動画や児童ポルノの可能性がある動画など、日本で違法とされる動画をダウンロードして自身の端末内に所持すると、刑事罰の対象になります。ファンサイト内は適切に管理されているとは言いがたく、違法動画が出回る可能性もあるため、自身の端末に保存することは絶対に避けましょう」(森山氏)
また一方で、一攫千金を狙えるからこそ、配信を持ちかけられた女性が性的に搾取されるケースも考えられる。カップルの関係が破綻した時にアップした動画を削除したいと思っても、既にネット上で無限に拡散されているリスクはあるだろう。素人が切り開いたアダルトの新境地は、危ういバランスで成り立っている。
取材・文河合桃子(かわい・ももこ)/ジャーナリスト。1977年東京都生まれ。AV業界について長年取材するほか、ハプニングバーや一般人によるアダルト動画配信など、性風俗に関する最先端事情を追う。
※週刊ポスト2022年12月2日号