今や男女は平等でなくてはならない時代。男女とも働き、ふたりで家事育児をするのが定番となっている。だが、お互いにずっと元気でいられるわけではない。どちらかが倒れたり精神的に弱ったりしたときが問題となる。
経済的には夫、家事は私がメインのはずだったナオミさん(38歳)が結婚したのは8年前。2歳年上の夫は食品メーカー、彼女は建設関係の企業に勤めている。ふたりは大学時代の先輩後輩だったが、ナオミさんが28歳のときに再会、交際に発展した。
「共働きは当然、子どもが生まれたらふたりで育てていこうということも話しました。夫はひとり暮らしが長いので家事もできる。互いに自立しているふたりが一緒に生活していくのを大前提としました。私たちにとってはごく自然にそういう生活を目指すことになったと思います」
32歳で長女が生まれ、ふたりは約束通り、共働きをしながら「楽しみながら」子育てをしていた。少なくともナオミさんはそうしていたし、夫も生活を楽しんでいると信じていた。
ところが1年ほど前、ちょうどコロナ禍になったころ、夫はある日突然、会社を辞めた。
「何の相談もなく、急に『今日、仕事を辞めてきたんだ』と。は?という感じでした。この先、どうするのと聞いたらわからない、と。少なくとも相談くらいしてほしかったと言ったら、『だってお互いに自立した関係なんだから』という返事。でも生活をともにしているのだから相談くらいあってもよかったのにと言うと、夫は黙っていました」
最初はうつ状態なのだろうかとか具合が悪いのかと心身を心配したのだが、夫は特にどこかが悪いわけではなさそうだった。共通の友人から、職場の人間関係に悩んでいたようだとあとから聞いたが、やめるほどの悩みだったかどうかはわからない。
「その後、夫は失業手当をもらっていましたが、1年後に切れるのがわかっていても、本気で仕事を探そうとしない。しかもその間、家事も育児もきっちり半分しかしないんですよ。家にいるならもう少しやってくれてもいいのに」
これはおかしいんじゃないかとナオミさんは夫に迫った。
「大黒柱になってよ」という夫の無責任自分の収入だけで、この先は暮らしていけない。2カ月ほど前、彼女はそう言った。
「すると夫は『わかった。じゃあ、オレがきみの扶養に入る。専業主夫になるよ』と。いや、そういう約束じゃなかったよねと言っても、状況は変わるんだからしかたがないでしょって。そもそもどういうつもりなのか聞いても、納得できるような答えが返ってこないんです」
ナオミさんには、夫が仕事をしない理由がわからない。仕事をするつもりがないなら、なぜなのかを教えてほしいと頼み込んだ。すると夫は「何もかも嫌になってしまった」とつぶやいた。
「脱力しましたよ。そんなこと言うなら私だって会社辞めたいわと叫びました。生活するために働かなくてはならない。子どもだっているんだよって。私たちは親なの、子どもを大人にして社会に送り出すのが責任でしょうと」
もっと自立した人間だと思っていたと辛辣な言葉を投げつけても、夫は堪えた様子はなかった。オレは結婚してよかったと思ってるとしれっと言うのだ。
「悩みましたね。このまま夫に主夫をしてもらったほうがいいのか、あるいは離婚を選択するか。私だけの収入で一家3人暮らしていくのはむずかしい。女性の給与が男性と同一になればなんとかやっていけるかもしれないけど、うちの会社も職種は同じでも男女で給与が違いますから。
夫が前のまま仕事を続けていて、私が専業主婦になったほうがよっぽどよかったんじゃないかと思うことがあります」
あと1カ月で失業保険は切れる。彼女の気持ちは離婚に傾いているという。夫は今も、家事を一手には引き受けていない。まだ収入があるからだ。失業保険がなくなったら全部やるよと言っているが、その言い草もナオミさんの神経を逆なでする。
「失業保険も収入ではあるかもしれないけど、収入のあるなしより、彼自身に働くつもりがないのが問題なんです。それがわかってない。そもそもなぜ働く気持ちがなくなったのか。何度聞いても答えがないのですが、もしかしたら彼自身も何も考えていないのかもしれない」
6歳になった娘は来年から小学生だ。父と娘の関係は悪くはないが、このまま働かない父親の姿を見せていていいのだろうかともナオミさんは考えている。
「夫は離婚しても娘に会えるならそれでいいと言っています。この結婚生活を続ければ続けるほど自分がつらくなる。そろそろ離婚どきなんでしょうね。私自身がどうやったら思い切れるのか、今はそんな自分との闘いが続いています」
夫の気持ちに共感できない人が大半だろう。とにかく働かない理由を開示してほしい。そうでなければ離婚の話し合いも進まないのではないだろうか。