22歳の元自衛隊員・五ノ井(ごのい)里奈さんが告発した自衛隊のセクハラ実態。
【写真】セクハラを受けている最中に先輩隊員にLINEで助けを求めるも…返事が絶望的すぎた 当初、五ノ井さんは自らの身に起こった“恐怖”を、当時の上長や自衛隊内の調査機関に話したが取り合ってもらえず、やむなく実名と顔出しによるYouTubeで、自分の手で公開した。「問題が生じても、しっかりした対策をとらず、起きたことへの対処もせずにいたから、そういったセクハラ・パワハラが“許されちゃうんだ”って思う人が増えたのかなと思います」

というのは現役自衛隊幹部のAさん。「基本的には、自衛隊内部の体質の問題」だと自覚する。 五ノ井さんの行動に勇気を得て、元自衛官の女性・Bさんが当時を振り返って、新たな証言をしてくれた。男だけの組織だから感覚がおかしくなる「セクハラは日常茶飯事だったから、女性側も慣れちゃうんです。男性隊員から“お前パンツ何色よ?”“ちょっと脱いで見せてみろ”とか言われても“お前が先に見せろよ”って切り返せるようになったりして。嫌だけど、強くなるしかなかった。私は立場が弱かったので、男性隊員らが日頃のキツい訓練や規律で溜まった鬱憤を晴らす標的になっていた」 Bさんは高校を卒業した後の1999年4月に入隊。6か月後、北海道の中枢を担う『札幌駐屯地』に配属された。当時、その駐屯地にいた女性はBさんを含めて2人。もう1人の女性は別部隊だった。「配属された初日からセクハラは始まりました。廊下で男性隊員とすれ違った際に“しゃぶれよ”って言われて……。男だけの組織だから、感覚がおかしくなっているんです」(Bさん、以下同) 入隊した1999年の年末には忘年会を兼ねた慰安旅行があり、それも嫌な記憶として今も残っている。「当時は18歳でしたけど、当たり前のようにお酒を飲まされました。飲まないと怒られる雰囲気もあって。新人隊員がお酌をして回ることになっていましたが、実際にお酌をするのは女性だけ。男性の新入隊員は免除されていました。 宴会がようやく終わって、深夜に同僚たちと遊んでいたら、内線電話が鳴ったので出たんです。一歳上の男性隊員からでした。“俺の部屋に来い”“脱がせてやるから”などと、かなり酔っぱらって卑猥なことを延々と言われました」 女性というだけで服を引っ張られたり、腕をつかまれたりといった直接的なハラスメントから、“妊娠した”“誰々とヤッていた”といったありもしない噂話や落書きが横行した。つらくなって頼ったのが、もう1人いた先輩の女性自衛官だったが……。「相談したら“やられるアナタもアナタなんだから、身を引き締めなよ”って言われました。気持ちをわかってもらえないどころか、逆に“チヤホヤされて嬉しいんでしょ”みたいな感じで。10歳くらい上の先輩でした」転属しても続く下劣な行為の数々 転属願を出したBさんは『千歳』に移る。そこでも強烈なセクハラにあってしまった。「私が夜勤のとき、たまたま隊長も遅くまで残っていたんです。そこで“ちょっと来い”って呼ばれて部屋に入ったら鍵を閉められました。なんで鍵までと思っていたら“いいものを見せてあげる”って、隊長の席に座らされて、パソコンで外国人が出ている無修正のエロビデオを見せられました」 隊長は既婚者で、子どもがいた。若いBさんが抵抗できないと思ったのだろう。下劣な行為はエスカレートする。「後ろに立って、私の肩を揉み出して……。“疲れてるでしょう、筋肉ほぐしてあげる”と。やめてもらおうと振り返ろうとしたら、私の頬にくっつきそうなくらい、隊長が自分の頬を後ろから近づけていて。さすがに驚いて立ち上がったら“ごめん、ごめん、ちょっと近すぎたね”なんて言いつつ、私を椅子に戻して、そのまま30分ほど動画を見せられました」 その後、部屋を出て行くBさんに「内緒だからね」とクギを刺しつつ、別の日には「また、おいでよ」と声をかけてきたという。「とにかく気持ち悪くて。その隊長は、人がいないときを見計らって、私に近づいてくる。それで肩や手を触って、その手が胸の近くやデコルテまでタッチしてきて。触られると、ずっと鳥肌が立っていました」 Bさんより20歳以上も年上であり上司である男性が、それ以降も分別のない行為を続ける。「当時、私には彼氏がいたんですが、それが隊長に伝わった途端、隊長はあからさまに私に話しかけなくなったんです。それは良かったんですが、嫌がらせとしか思えない扱いを受けるようになりました。陸曹になる試験を受けさせてもらえなかったり、行きたかった海外派遣の打診も、伝えられず勝手に断られていたり……」 後日、Bさんが周囲の人に聞いたところ、隊長はBさんがすごくお気に入りだったが、彼氏がいることを知って「いい雰囲気だったのに、アイツには裏切られた」と語っていたという。「この隊長の下で頑張っても、嫌がらせが続くだけだと思って自衛隊を辞めることにしました」 もともとPKOで災害派遣や国際平和維持活動をしたいと思って自衛隊に入ったBさん。入隊6年目だったが努力が報われない状況に幻滅し、見切りをつけるしかなかった。「自衛隊に入りたいという人は、基本的には正義感があって、世の中をよくしたいとか、人を守りたいとか、優しい心を持っていると思います。でも、上司の言うことが絶対で、時には自分の意思に反することもやらなきゃいけない状況になってしまう。今回の告発をした五ノ井さんも、すごく素敵な夢をお持ちでしたよね。だからこそ、今の状況を許せないんです」組織を改善しようとしたら“マイナス評価” セクハラのみならず、業務内でも妨害をするとは許しがたい。 1999年から6年間、北海道の駐屯地にいたというBさんは当初、女性の先輩に相談した。「でも、返ってきたのが“セクハラをセクハラだと思ったら負け”と言われてしまって。チヤホヤされるだけ儲けもんだ、みたいなことを言う人もいるんです。これまでセクハラを告発しても“色仕かけしたお前が悪い”みたいに言われて泣く泣く辞めていった女性隊員もいました。自衛隊の内部にある、セクハラが容認されているような空気が、まずおかしい」 自衛隊に入り、PKOで国際平和などに貢献したいというBさんの夢を潰えさせてしまった罪は軽くない。「セクハラやパワハラなどの問題が起きても対処しないし、対策もとらない。だから、“あんなことが許されちゃうんだ”と考える人が増えていったのだと思います。幹部という立場からしても、そういう雰囲気を感じます」 というのは、現役の自衛隊幹部であるAさん。自衛隊での不祥事が増加することには理由があると感じている。「組織を改善しようとしたことが悪く取られて、人事面で影響を受けている人も確かにいます。パワハラを指摘した人について、マイナスになるような情報を人事異動の時期に上官が流し、出世を妨害するケースもある。 正義感がある人ほど、定年までそういった目で見られることになります」(Aさん) これでは内部からの自浄作用が働くはずがない。現役の自衛官であるCさんも、その隠ぺい体質が問題だという。パワハラ指揮官の行為は“もみ消して不問に”「私が所属していた部隊の上長である指揮官が、ある男性に酷いパワハラをしていたんです。そのことを男性から相談をされた方が、ほかの上長にかけあってパワハラをやめさせるように依頼したそうなんですが、結局“指揮官がやっていることだから目をつぶるしかない”と、もみ消されちゃって。指揮官のパワハラは収まったんですけど、今度はパワハラをやめさせるようかけあった人に対する陰湿なイジメが始まって。会議の時間を知らせないとか、仲間外れにするとか。結局、その人は他部署に異動させられました」 この件は、当時メディアでも取り上げられたという。「その部隊は、記事で“調査中”と回答していましたが、指揮官に対して調査なんかいっさいせず、もみ消したうえに不問にしていましたよ」(Cさん、以下同) こうした組織的な隠ぺいが染みついているのが自衛隊なのだという。「組織内での不祥事の調査を担当している人たちが、自分の出世や利益でしか考えてない人たちばかりなんです。自分の身を守りたいから、余計なことはしない。自分の出世を考えたときに“問題にしないほうがいいだろう”という結論に至ってしまっている。問題提起すると“なんで取り上げたんだ”と怒られる」 もちろん良心的な考えを持つ自衛官もいるのだが、それが組織の中では力になっていない。「被害者を助けようと通報した人は“通報した隊員”というレッテルを貼られ、いまだに不利益な扱いを受けています。その人は相談を受けたメールのやり取りや、上官がパワハラやセクハラを“問題ない”と発言した音声があるそうですが、それでも内部は動きません。 不祥事がわかっていても不問にして、隠ぺいするという体質が昔からの流れです」 五ノ井さんの勇気ある告発が、泣き寝入りしていた被害者の心を動かし、週刊女性に話を打ち明けてくれた。モラルが失われれば、組織は崩壊する。今回の騒動で、自衛隊の最後の良心が問われている。
当初、五ノ井さんは自らの身に起こった“恐怖”を、当時の上長や自衛隊内の調査機関に話したが取り合ってもらえず、やむなく実名と顔出しによるYouTubeで、自分の手で公開した。
「問題が生じても、しっかりした対策をとらず、起きたことへの対処もせずにいたから、そういったセクハラ・パワハラが“許されちゃうんだ”って思う人が増えたのかなと思います」
というのは現役自衛隊幹部のAさん。「基本的には、自衛隊内部の体質の問題」だと自覚する。
五ノ井さんの行動に勇気を得て、元自衛官の女性・Bさんが当時を振り返って、新たな証言をしてくれた。
「セクハラは日常茶飯事だったから、女性側も慣れちゃうんです。男性隊員から“お前パンツ何色よ?”“ちょっと脱いで見せてみろ”とか言われても“お前が先に見せろよ”って切り返せるようになったりして。嫌だけど、強くなるしかなかった。私は立場が弱かったので、男性隊員らが日頃のキツい訓練や規律で溜まった鬱憤を晴らす標的になっていた」
Bさんは高校を卒業した後の1999年4月に入隊。6か月後、北海道の中枢を担う『札幌駐屯地』に配属された。当時、その駐屯地にいた女性はBさんを含めて2人。もう1人の女性は別部隊だった。
「配属された初日からセクハラは始まりました。廊下で男性隊員とすれ違った際に“しゃぶれよ”って言われて……。男だけの組織だから、感覚がおかしくなっているんです」(Bさん、以下同)
入隊した1999年の年末には忘年会を兼ねた慰安旅行があり、それも嫌な記憶として今も残っている。
「当時は18歳でしたけど、当たり前のようにお酒を飲まされました。飲まないと怒られる雰囲気もあって。新人隊員がお酌をして回ることになっていましたが、実際にお酌をするのは女性だけ。男性の新入隊員は免除されていました。
宴会がようやく終わって、深夜に同僚たちと遊んでいたら、内線電話が鳴ったので出たんです。一歳上の男性隊員からでした。“俺の部屋に来い”“脱がせてやるから”などと、かなり酔っぱらって卑猥なことを延々と言われました」
女性というだけで服を引っ張られたり、腕をつかまれたりといった直接的なハラスメントから、“妊娠した”“誰々とヤッていた”といったありもしない噂話や落書きが横行した。つらくなって頼ったのが、もう1人いた先輩の女性自衛官だったが……。
「相談したら“やられるアナタもアナタなんだから、身を引き締めなよ”って言われました。気持ちをわかってもらえないどころか、逆に“チヤホヤされて嬉しいんでしょ”みたいな感じで。10歳くらい上の先輩でした」
転属願を出したBさんは『千歳』に移る。そこでも強烈なセクハラにあってしまった。
「私が夜勤のとき、たまたま隊長も遅くまで残っていたんです。そこで“ちょっと来い”って呼ばれて部屋に入ったら鍵を閉められました。なんで鍵までと思っていたら“いいものを見せてあげる”って、隊長の席に座らされて、パソコンで外国人が出ている無修正のエロビデオを見せられました」
隊長は既婚者で、子どもがいた。若いBさんが抵抗できないと思ったのだろう。下劣な行為はエスカレートする。
「後ろに立って、私の肩を揉み出して……。“疲れてるでしょう、筋肉ほぐしてあげる”と。やめてもらおうと振り返ろうとしたら、私の頬にくっつきそうなくらい、隊長が自分の頬を後ろから近づけていて。さすがに驚いて立ち上がったら“ごめん、ごめん、ちょっと近すぎたね”なんて言いつつ、私を椅子に戻して、そのまま30分ほど動画を見せられました」
その後、部屋を出て行くBさんに「内緒だからね」とクギを刺しつつ、別の日には「また、おいでよ」と声をかけてきたという。
「とにかく気持ち悪くて。その隊長は、人がいないときを見計らって、私に近づいてくる。それで肩や手を触って、その手が胸の近くやデコルテまでタッチしてきて。触られると、ずっと鳥肌が立っていました」
Bさんより20歳以上も年上であり上司である男性が、それ以降も分別のない行為を続ける。
「当時、私には彼氏がいたんですが、それが隊長に伝わった途端、隊長はあからさまに私に話しかけなくなったんです。それは良かったんですが、嫌がらせとしか思えない扱いを受けるようになりました。陸曹になる試験を受けさせてもらえなかったり、行きたかった海外派遣の打診も、伝えられず勝手に断られていたり……」
後日、Bさんが周囲の人に聞いたところ、隊長はBさんがすごくお気に入りだったが、彼氏がいることを知って「いい雰囲気だったのに、アイツには裏切られた」と語っていたという。
「この隊長の下で頑張っても、嫌がらせが続くだけだと思って自衛隊を辞めることにしました」
もともとPKOで災害派遣や国際平和維持活動をしたいと思って自衛隊に入ったBさん。入隊6年目だったが努力が報われない状況に幻滅し、見切りをつけるしかなかった。
「自衛隊に入りたいという人は、基本的には正義感があって、世の中をよくしたいとか、人を守りたいとか、優しい心を持っていると思います。でも、上司の言うことが絶対で、時には自分の意思に反することもやらなきゃいけない状況になってしまう。今回の告発をした五ノ井さんも、すごく素敵な夢をお持ちでしたよね。だからこそ、今の状況を許せないんです」
セクハラのみならず、業務内でも妨害をするとは許しがたい。
1999年から6年間、北海道の駐屯地にいたというBさんは当初、女性の先輩に相談した。
「でも、返ってきたのが“セクハラをセクハラだと思ったら負け”と言われてしまって。チヤホヤされるだけ儲けもんだ、みたいなことを言う人もいるんです。これまでセクハラを告発しても“色仕かけしたお前が悪い”みたいに言われて泣く泣く辞めていった女性隊員もいました。自衛隊の内部にある、セクハラが容認されているような空気が、まずおかしい」
自衛隊に入り、PKOで国際平和などに貢献したいというBさんの夢を潰えさせてしまった罪は軽くない。
「セクハラやパワハラなどの問題が起きても対処しないし、対策もとらない。だから、“あんなことが許されちゃうんだ”と考える人が増えていったのだと思います。幹部という立場からしても、そういう雰囲気を感じます」
というのは、現役の自衛隊幹部であるAさん。自衛隊での不祥事が増加することには理由があると感じている。
「組織を改善しようとしたことが悪く取られて、人事面で影響を受けている人も確かにいます。パワハラを指摘した人について、マイナスになるような情報を人事異動の時期に上官が流し、出世を妨害するケースもある。
正義感がある人ほど、定年までそういった目で見られることになります」(Aさん)
これでは内部からの自浄作用が働くはずがない。現役の自衛官であるCさんも、その隠ぺい体質が問題だという。
「私が所属していた部隊の上長である指揮官が、ある男性に酷いパワハラをしていたんです。そのことを男性から相談をされた方が、ほかの上長にかけあってパワハラをやめさせるように依頼したそうなんですが、結局“指揮官がやっていることだから目をつぶるしかない”と、もみ消されちゃって。指揮官のパワハラは収まったんですけど、今度はパワハラをやめさせるようかけあった人に対する陰湿なイジメが始まって。会議の時間を知らせないとか、仲間外れにするとか。結局、その人は他部署に異動させられました」
この件は、当時メディアでも取り上げられたという。
「その部隊は、記事で“調査中”と回答していましたが、指揮官に対して調査なんかいっさいせず、もみ消したうえに不問にしていましたよ」(Cさん、以下同)
こうした組織的な隠ぺいが染みついているのが自衛隊なのだという。
「組織内での不祥事の調査を担当している人たちが、自分の出世や利益でしか考えてない人たちばかりなんです。自分の身を守りたいから、余計なことはしない。自分の出世を考えたときに“問題にしないほうがいいだろう”という結論に至ってしまっている。問題提起すると“なんで取り上げたんだ”と怒られる」
もちろん良心的な考えを持つ自衛官もいるのだが、それが組織の中では力になっていない。
「被害者を助けようと通報した人は“通報した隊員”というレッテルを貼られ、いまだに不利益な扱いを受けています。その人は相談を受けたメールのやり取りや、上官がパワハラやセクハラを“問題ない”と発言した音声があるそうですが、それでも内部は動きません。
不祥事がわかっていても不問にして、隠ぺいするという体質が昔からの流れです」
五ノ井さんの勇気ある告発が、泣き寝入りしていた被害者の心を動かし、週刊女性に話を打ち明けてくれた。モラルが失われれば、組織は崩壊する。今回の騒動で、自衛隊の最後の良心が問われている。