あなたは、自分が住んでいる自治体の財政状況をご存じだろうか。
債務(借金)が多ければ、将来の返済負担が重く、いずれ行政サービスに支障を来しかねないことを意味する。
逆に借金より金融資産の方が多く実質無借金なら、余裕を持った行政運営ができる。多額の金融資産を保有していれば、新たな住民サービスを始めたり施設を建設したりすることも容易だ。
最も貧しい自治体はどこか――。市区では財政再建中の北海道夕張市が断トツの1位で、同じ北海道の士別市、赤平市、深川市などが上位に名を連ねた。一方で、北九州市や京都市など政令指定都市の苦しい懐事情も明らかになった。
地方自治体の財政状態を表す指標はいろいろある。税収に代表される自主財源の割合を示す財政力指数、義務的な経費を安定収入でどの程度賄えているかがわかる経常収支比率、債務の返済負担をみる実質公債費比率など。
官庁会計の歳入は税収と地方債のような借金が一緒になっており、歳出も人件費のような純粋な経費と資産が残る投資的経費が区別されていない。フロー(収支)で豊かさを評価するのは難しい。
そのため、今回は債務水準に焦点を当てる。2021年度末の住民1人当たり実質債務を算出し、ランキングしてみた。
普通会計ベースの地方債残高に有利子負債相当額を加え、積立金等を差し引いた実質債務の住民1人当たりが最大だったのは、2007年に財政破綻した夕張市で239万円にのぼっていた。
炭鉱閉鎖後に観光を振興するためスキー場やホテル、遊園地を自ら経営し、一時借入金などを悪用した“粉飾決算”で、負債を膨らませたことが主因だ。
破綻後は国の財政再生計画に基づいて粛々と債務を返済しており、5年前に比べると債務額自体は128億円(43%)減っている。だが、高齢化に加えて高い水道料金(※月額6966円)や住民票交付手数料(500円)など全国最低水準の行政サービスに嫌気した住民の流出が止まらない。
※日本水道協会『水道料金表』(2020年4月1日現在)より。
2022年1月時点で7055人だった人口が、12月末時点では6729人にまで減っていた。ピーク時の17分の1の水準で、このペースが続くと20年後には消滅してしまう。
過剰債務を招いたのは市の責任とはいえ、融資していた銀行や監督していたはずの国・道は責任を問われず債権も毀損(きそん)しなかった。負担をすべて住民と職員に押し付けた夕張市の再建スキーム自体に問題があったと言わざるを得ない。
2位の士別市(132万円)は地方債残高が262億円ある一方、基金などは少ない。2005年に朝日町と合併して発足した同市は、東京23区の1.8倍の面積を持つ。「面積が広い分、公共施設や道路を整備しなければならなかった」(財政課)。51億円かけてごみ処分場(環境センター)を建設したほか、老朽化していた庁舎も32億円で改築した。
借金部分は元利償還金の7割を国が交付税で補(ほてん)してくれる合併特例債や過疎対策事業債で充てているため、残高ほどの負担はないもよう。それでも、2020年12月には自主的に財政健全化計画を策定して改善に取り組んでいる。
例えば「(2025年度までの)5年間の起債額を52億円以下に抑え」(同)、収支を改善させていくという。住宅の新築や改修時に出していた補助金も廃止した。健全化と直接関係するわけではないが、2020年4月には体育館の使用料や病院の手数料も軒並み引き上げた。
このほか、4位の赤平市(103万円)、6位の深川市(98万円)など北海道の内陸部に財政の悪化したところが多い。 赤平市や21位の三笠市(80万円)、27位の芦別市(75万円)は旧産炭地で、炭鉱閉鎖後の人口減少を食い止めるため第三セクターなどが事業を始めて失敗したり、公立病院の赤字を放置して傷を広げたりした。
一方、都道府県から事務や権限を移譲されて仕事量が多いのに、地方交付税は小さな市町村に手厚いため割を食った格好なのが政令市だ。財政状態は総じて見劣りし、1人当たり実質債務が3位の北九州市(104万円)、7位の京都市(97万円)、11位の広島市(92万円)などは、実質債務自体が5年前と比べて増えている。
2017年度から小中学校の教職員の人件費負担が都道府県から政令市に移管されたことや、2019年10月から幼児教育・保育の無償化がスタートしたことも影響している。後者は、公立の保育所と幼稚園についてはすべて市町村負担となり、財政の圧迫要因となっている。名目上は財源とセットだが、政令市は待機児童の問題もあり持ち出しが多い。
1兆円を超す地方債残高を抱える北九州市は、「過去にかなりの規模で投資を行ってきた」(財政課)と認める。風力発電関連産業の拠点整備などに注力し、SDGs(持続可能な開発目標)の先端都市として評価されている面はある。
これまで年700億円以上使ってきた投資的経費について、2021年にようやく「620億円以内に抑える」(同)方針を決めたが、地方債残高は維持するのが精いっぱいで、「5年後に見直す」(同)としている。その間も、環境工場(ごみ処理施設)は別途200億~300億円かけて整備するというから、財政は当分健全化しない。
京都市の財政悪化ぶりは全国に轟いている。こちらも投資的経費が長らく高水準で、借金が積み上がった。平成前半の東北部クリーンセンター建設や梅小路公園整備、京都コンサートホール建設などが終了した後も、大阪市など他市と比べ公共事業の削減が緩やかだったことに起因する。
赤字続きの地下鉄事業への支援や重い人件費負担もあって、地方債償還のために積み立てた減債基金を取り崩す「禁じ手」を繰り出している。ここ3年間は、新型コロナウイルスの感染拡大でインバウンドを中心に観光客が大きく減ったのも誤算だった。
債務が多い市区に共通するのは、ハコモノ建設などに熱心で身の丈を超えた公共投資を続けてきた点だ。多くの自治体が財政健全化に舵を切る中、対応が後手に回ってしまったと言った方がよいかもしれない。
今後の他市との行政サービス競争を考えた場合、若い住民に選ばれなくなるリスクは高まる。
———-磯道 真(いそみち・まこと)行財政アナリスト、フリーライター1964年東京都生まれ。89年慶應義塾大学経済学部卒、日本経済新聞社入社。証券部や日経ビジネスの記者、地方部編集委員、大阪経済部編集委員などを経て、2018~22年日経グローカル編集長。22年7月に日本経済新聞社を早期退職。1999年には出向先の格付投資情報センター(R&I)で日本初の地方債格付けに携わる。著書に『地方自治体は大丈夫か』(共著)など。———-
(行財政アナリスト、フリーライター 磯道 真 図版作成=大橋昭一)