新型コロナウイルスの感染症法上の分類が、この春にも季節性インフルエンザと同等に引き下げられることになる。若い世代を中心に「歓迎」の声が上がるなか、ルール変更によって私たちの生活はどう変わるのか。お金の問題や変質する感染リスクなど、新たに直面する課題を検証した。
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【写真を見る】手腕を試される加藤厚労相と医師会会長の松本氏 1月20日、岸田文雄首相は今春に新型コロナの感染症法上の位置づけを現在の「2類相当」から「5類」へ引き下げる方針を示し、加藤勝信厚労相らに対応を指示した。

「感染症法は危険性の高い順に感染症を1~5類に分け、コロナは現在、別枠の〈新型インフルエンザ等〉に含まれ、SARSや結核などと同じ2類相当に分類されます。季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられると、国や都道府県知事による感染者への入院勧告や就業制限、外出自粛要請などの法的根拠はなくなります」(全国紙厚労省担当記者) また引き下げでコロナ病床や発熱外来もなくなる方向にむかい、感染者は一般医療機関へ入院するなど「平時」と変わらぬ社会へと移行する。決断の吉凶は…(岸田首相) そんななか、議論の焦点の一つとなっているのが医療費の問題だ。全額自己負担になるといくらかかる?「現在は検査や医療費の窓口負担分は公費で賄われていますが、5類は自己負担が原則。“お金がかかるなら…”や“治療費を払えない”などの理由で受診控えが起きる可能性が指摘され、日本医師会の松本吉郎会長は19日、首相官邸を訪れて“公費負担の継続”を岸田首相に要望しました」(同) 東京歯科大学市川総合病院(呼吸器内科部長)の寺嶋毅教授が言う。「現在、コロナにかかる検査や診療だけでも実質計2万円くらいの費用となり、5類引き下げで保険診療となると、その3割の約6000円が自己負担になる計算です。コロナで入院すると軽症(入院期間約5日間)だと約50万円、中等症(同約10日間)では100万円程度の費用がかかるので、自己負担分は軽症で約15万円(3割)、中等症で約30万円(同)になる。少額ではないため、患者の自己負担額に上限を設けるか、公費での負担継続が妥当と考えます」 政府内でもコロナ治療薬には高額なものも含まれるため、公費負担をなくすと治療そのものが受けられなくなる患者が出ることへの懸念があり、「当面は公費負担を一部継続し、段階的に縮小する案が検討されている」(前出・厚労省担当記者)という。「ノーマスク」のリスク 無料で進められているワクチン接種についても、自己負担になると接種率の低下に繋がるとして「無料接種は当面、継続される方針」(同)という。 一方でマスクに関しては「緩和」の方向で検討が始まっている。現在、屋外でのマスク着用は「原則不要」となっているが、屋内では会話を伴う、あるいは十分な距離を確保できない場合にはマスクの着用が推奨されている。 岸田首相は春以降、「屋内でも原則、マスク不要」とする意向と伝えられるが、その「メリット・デメリット」について、寺嶋氏はこう話す。「新型コロナは飛沫感染にとどまらず、エアロゾル感染でも広がるため、マスクを着けることで感染を防ぐ効果が薄れているのは事実です。しかし自覚症状のない感染者が知らぬうちに感染を広げる、“ウイルス拡散”を抑制する効果は一定程度あると考える医師は多い。社会全体で見た時、“マスク着用で感染の広がりを抑える”プラス面についても考慮する必要がある」減じない高齢者の感染リスク しかし年齢や年代によってマスクの意義が大きく変わったのも事実だ。「およそ3年間にわたりマスク着用が日常化したことで、小さな子供にとって、本来であれば風邪やインフルエンザなどの感染症に罹ることで得ていた免疫の獲得・蓄積の機会が減少しました。子供たちだけでなく、重症化リスクの低い若者にとってもマスクの有用性が失われつつあるのは否定できません」(寺嶋氏) 他方、高齢者に関しては違う視点からの議論が必要という。「コロナに感染すると高齢者ほど重症化・死亡リスクが高い点に変わりはなく、クラスター発生の約7割を占めるのも依然、高齢者施設です。そのため一律にマスク着用を不要とすると今後、局所的には大きな混乱も予想されます。たとえば高齢者施設や病院でマスク着用をなくすと、万が一、施設内で感染が広がった際に重篤な患者を多く生み出す危険性がある。また皆がマスクをしなくなった電車やレストランは、高齢者にとって逆にリスクの高い場所ともなり得ます。“ノーマスク”に舵を切る機運が高まっていますが、状況を見極めつつ、段階を踏んでの移行が望ましい」(寺嶋氏) マスクを外しても“コロナと共生”する日常は変わらない。国民にとって「悪夢のシナリオ」は“5類引き下げ後に感染爆発”が起こることだ。デイリー新潮編集部
1月20日、岸田文雄首相は今春に新型コロナの感染症法上の位置づけを現在の「2類相当」から「5類」へ引き下げる方針を示し、加藤勝信厚労相らに対応を指示した。
「感染症法は危険性の高い順に感染症を1~5類に分け、コロナは現在、別枠の〈新型インフルエンザ等〉に含まれ、SARSや結核などと同じ2類相当に分類されます。季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられると、国や都道府県知事による感染者への入院勧告や就業制限、外出自粛要請などの法的根拠はなくなります」(全国紙厚労省担当記者)
また引き下げでコロナ病床や発熱外来もなくなる方向にむかい、感染者は一般医療機関へ入院するなど「平時」と変わらぬ社会へと移行する。
そんななか、議論の焦点の一つとなっているのが医療費の問題だ。
「現在は検査や医療費の窓口負担分は公費で賄われていますが、5類は自己負担が原則。“お金がかかるなら…”や“治療費を払えない”などの理由で受診控えが起きる可能性が指摘され、日本医師会の松本吉郎会長は19日、首相官邸を訪れて“公費負担の継続”を岸田首相に要望しました」(同)
東京歯科大学市川総合病院(呼吸器内科部長)の寺嶋毅教授が言う。
「現在、コロナにかかる検査や診療だけでも実質計2万円くらいの費用となり、5類引き下げで保険診療となると、その3割の約6000円が自己負担になる計算です。コロナで入院すると軽症(入院期間約5日間)だと約50万円、中等症(同約10日間)では100万円程度の費用がかかるので、自己負担分は軽症で約15万円(3割)、中等症で約30万円(同)になる。少額ではないため、患者の自己負担額に上限を設けるか、公費での負担継続が妥当と考えます」
政府内でもコロナ治療薬には高額なものも含まれるため、公費負担をなくすと治療そのものが受けられなくなる患者が出ることへの懸念があり、「当面は公費負担を一部継続し、段階的に縮小する案が検討されている」(前出・厚労省担当記者)という。
無料で進められているワクチン接種についても、自己負担になると接種率の低下に繋がるとして「無料接種は当面、継続される方針」(同)という。
一方でマスクに関しては「緩和」の方向で検討が始まっている。現在、屋外でのマスク着用は「原則不要」となっているが、屋内では会話を伴う、あるいは十分な距離を確保できない場合にはマスクの着用が推奨されている。
岸田首相は春以降、「屋内でも原則、マスク不要」とする意向と伝えられるが、その「メリット・デメリット」について、寺嶋氏はこう話す。
「新型コロナは飛沫感染にとどまらず、エアロゾル感染でも広がるため、マスクを着けることで感染を防ぐ効果が薄れているのは事実です。しかし自覚症状のない感染者が知らぬうちに感染を広げる、“ウイルス拡散”を抑制する効果は一定程度あると考える医師は多い。社会全体で見た時、“マスク着用で感染の広がりを抑える”プラス面についても考慮する必要がある」
しかし年齢や年代によってマスクの意義が大きく変わったのも事実だ。
「およそ3年間にわたりマスク着用が日常化したことで、小さな子供にとって、本来であれば風邪やインフルエンザなどの感染症に罹ることで得ていた免疫の獲得・蓄積の機会が減少しました。子供たちだけでなく、重症化リスクの低い若者にとってもマスクの有用性が失われつつあるのは否定できません」(寺嶋氏)
他方、高齢者に関しては違う視点からの議論が必要という。
「コロナに感染すると高齢者ほど重症化・死亡リスクが高い点に変わりはなく、クラスター発生の約7割を占めるのも依然、高齢者施設です。そのため一律にマスク着用を不要とすると今後、局所的には大きな混乱も予想されます。たとえば高齢者施設や病院でマスク着用をなくすと、万が一、施設内で感染が広がった際に重篤な患者を多く生み出す危険性がある。また皆がマスクをしなくなった電車やレストランは、高齢者にとって逆にリスクの高い場所ともなり得ます。“ノーマスク”に舵を切る機運が高まっていますが、状況を見極めつつ、段階を踏んでの移行が望ましい」(寺嶋氏)
マスクを外しても“コロナと共生”する日常は変わらない。国民にとって「悪夢のシナリオ」は“5類引き下げ後に感染爆発”が起こることだ。
デイリー新潮編集部