メルカリをはじめとしたフリマアプリには、古本や衣服など多くの私物が出品される。そのなかに小学生の女児の下着が、しかも母親の手によって密かに売りに出されているとは、決して看過できない。
【写真4枚】実際にハルナさんが売買した娘のインナー。他、「白系の履いた物」等と書かれたサヤカさんと“買い手”のやりとり等も「どこにいったんだろうね」「コロナで夫の手取りの給料が3割削られ、私もバイトをクビになりました。3人目の子が生まれて貯金が底を突きかけた時、ツイッターで偶然『売り子』の界隈を見つけて。子供にお菓子を買えない日が3日続いた時に、『もうやっちゃおう』と夫に内緒で決断しました」
こう語るのは30代前半の3児の母親・ユカさん(仮名)。生活苦に陥った彼女が藁をも掴む思いで始めたのは「娘のパンツを売る」ことだった。「ツイッターで買ってくれる人を募集して、9歳の長女のパンツを1枚5000円で売ります。売り上げは月4万~5万円ですね。パンツはネットや量販店でなるべく安く買って、買い手さんが見つかり次第新しいものを娘に穿かせて出品します。娘にもお気に入りのガラや色があるから、それを売ると『あれ、なくなっちゃった』と言われることはある。その時は『どこにいったんだろうね』と必死にごまかすしかないですね」(ユカさん) 未成年のパンツを売る行為と言えば、1990年代初頭のブルセラブームを思い出すが、「本人じゃなく親が娘の下着を売るなんてあり得なかった」と当時を知る風俗業界関係者は言う。「ブルセラブームでは、専門店で女子高生本人が使用済みのパンツやルーズソックスを売っていました。今はフリマアプリが普及して個人販売で私物を何でも売れるようになり、中学生、小学生の下着や衣服が簡単に売買できてしまう。子供の下着も、親が『何でも売れる』感覚の延長線上で売っているのかもしれない」 正常とは言い難い世界だが、もはや後戻りはできないとユカさんは話す。「最初は抵抗がありましたが、バイトと比べたら楽にお金が入るし、簡単にはやめられません。外で働いていないから1歳の子は認可保育園には入れないし、無認可は月4万円かかるのでとても預けられない。コロナになってから夫も遅番が増えて、私が夜働くこともできないんです」 その上で、「消費者金融にお金も借りてる。生活のためにも、娘のパンツを売るしかありません」と言い張るのだ。「下着は2日間洗わず」 30代前半で4児の母親のサヤカさん(仮名)は、なんと夫公認で娘の下着を売っているという。「子供の世話があるのでパートに出られず、最初は私の『母乳』を売りたいと夫に相談したら、猛反対。代わりに家族の様々な私物を売るようになりました。なかでも一番の売れ筋は小学4年生の娘のパンツです」(サヤカさん) 具体的にどう売買されるのか。「ツイッターで、隠語のハッシュタグを用いて使用済み商品を告知すれば、その手の買い手は気づいてくれる。『白系のパンツが欲しい』などとDM(ダイレクトメッセージ)で問い合わせてくる買い手さんとやり取りします。交渉がまとまったら『今から出品します』と確認を取ってから、メルカリにハンカチなどダミーの商品写真を使って匿名で出品し、すぐに買ってもらう。金銭の受け渡しもメルカリを通せばスムーズだし、お互いの本名や住所を知られることはありません」(同前) メルカリでは出品の際、お互いの名前を匿名に設定することができる。出品時はコンビニ等で送付票出力を行なうが、送り先は運送会社だけがわかる仕組みになっている。物品がメルカリを経由しないため、下着などのやりとりに“悪用”されているのが現状だ。 このような“悪用”の利用状況についてメルカリに聞くと、「個別の案件に対する回答は差し控えさせていただきますが、メルカリではSNSなど外部のサービスへ誘導すること、また商品の詳細がわからない取引をガイドラインで禁止しております」(広報担当者) との回答だった。 匿名性が高い市場だけに、取引されるのはパンツばかりではないとサヤカさんが続ける。「子供用品はパンツだけでなく靴や靴下も人気で、子供の使用済みの学習用品もよく売れます。買い手に尋ねたら、『使い終わったノートを見て、自分の小学生時代を思い出してノスタルジーに浸る』とのことでした。本当に“それだけ”なのかはわかりませんが……」 サヤカさんは子供を寝かしつけた後、自室で子供のパンツや靴下などを梱包し、商品画像の編集をするという。 小学2年生の娘がいる20代後半の専業主婦・ハルナさん(仮名)は、コロナ禍で働き口が見つからず、「高収入」「楽」などのワードで検索し“裏取引”の存在を知った。 ハルナさんのSNSにも、買い手から様々な要望が寄せられる。「『下着は2日間洗わず』というリクエストもありますし、9歳の娘の爪とか、唾液を欲しがる人もいます。 最初は私の唾液だけ販売していましたが、娘の唾液のほうがよく売れるから、母娘セットで売るようになりました。娘には、『喉のコロナ菌を調べるから、よだれをちょうだい』と嘘をついて唾液をもらっています」 売買される“私物”は多岐にわたるが、それにしても小学生のパンツを誰が、何のために買うのだろうか。前出のサヤカさんが話す。「高校生の娘がいる50代の常連客は『匂いが好きなので女子小学生のパンツや靴下を購入し、匂ったり被ったりした後、ジッパー袋に入れて保存します』と言っていました。なかには小学生の子供がいる買い手さんもいます」 あっけらかんと語るサヤカさんの傍らで、その夫が複雑な胸中を明かす。「最初に妻から話を聞いた時は、正直バカじゃないかと思いましたよ。子供のパンツに対する性癖も理解できず、購入者に対する嫌悪感は消えません。それでも自分がガンガン稼げるわけでもなく、家計のため最終的に受け入れるしかなかった。子供や嫁の下着を他人に差し出すのは今も抵抗があり、モヤモヤは残ったままですが……」 それでもサヤカさんは胸を張って語る。「娘のパンツを売って特定の人の性癖を満足させることで、子供への性犯罪リスクが減るかもしれません。この取引は誰も不幸になっていないし、稼いだ分子供にもお金を使える。現時点で誰からもお咎めはなく、取引を続けるつもりです」 堂々とこう言ってのけるのだ。下着の所有権は親側 本当に法的な問題はないのか。児童ポルノや性犯罪に詳しい奥村徹弁護士が語る。「現状で未成年者から着用済みの下着を買うことは、大都市圏を中心に条例で禁じられています。しかし親が自分の子供の着用済み下着を売り、誰かが買った場合は、売り手が成人のため売り手も買い手も処分の対象にならない。通常下着などの衣類は親が子に買い与えるので、下着の所有権は基本的に親側に認められます。子供の意に反して親が勝手に下着を売ったとしても、処罰の対象にするのは難しい」 違法性がないからといって、行為を正当化することはできないだろう。児童虐待や性被害に詳しいライターの森鷹久氏は、子供が母親の行為を知った時の危険性を指摘する。「幼いころに性被害に遭った少女は、自分が男性から性的な対象として見られていたことに後から気づき、自分自身を汚らわしい存在だと思い心を閉ざしてしまうケースが多くある。 今回のケースの少女は、味方であるべき母親が、自分の性的な価値を認めていたと気づくことになる。そのショックは計り知れないでしょう」 1枚5000円の売買が、お金では手に入らない娘の尊厳を奪うかもしれないのだ。※週刊ポスト2022年9月16・23日号
「コロナで夫の手取りの給料が3割削られ、私もバイトをクビになりました。3人目の子が生まれて貯金が底を突きかけた時、ツイッターで偶然『売り子』の界隈を見つけて。子供にお菓子を買えない日が3日続いた時に、『もうやっちゃおう』と夫に内緒で決断しました」
こう語るのは30代前半の3児の母親・ユカさん(仮名)。生活苦に陥った彼女が藁をも掴む思いで始めたのは「娘のパンツを売る」ことだった。
「ツイッターで買ってくれる人を募集して、9歳の長女のパンツを1枚5000円で売ります。売り上げは月4万~5万円ですね。パンツはネットや量販店でなるべく安く買って、買い手さんが見つかり次第新しいものを娘に穿かせて出品します。娘にもお気に入りのガラや色があるから、それを売ると『あれ、なくなっちゃった』と言われることはある。その時は『どこにいったんだろうね』と必死にごまかすしかないですね」(ユカさん)
未成年のパンツを売る行為と言えば、1990年代初頭のブルセラブームを思い出すが、「本人じゃなく親が娘の下着を売るなんてあり得なかった」と当時を知る風俗業界関係者は言う。
「ブルセラブームでは、専門店で女子高生本人が使用済みのパンツやルーズソックスを売っていました。今はフリマアプリが普及して個人販売で私物を何でも売れるようになり、中学生、小学生の下着や衣服が簡単に売買できてしまう。子供の下着も、親が『何でも売れる』感覚の延長線上で売っているのかもしれない」
正常とは言い難い世界だが、もはや後戻りはできないとユカさんは話す。
「最初は抵抗がありましたが、バイトと比べたら楽にお金が入るし、簡単にはやめられません。外で働いていないから1歳の子は認可保育園には入れないし、無認可は月4万円かかるのでとても預けられない。コロナになってから夫も遅番が増えて、私が夜働くこともできないんです」
その上で、「消費者金融にお金も借りてる。生活のためにも、娘のパンツを売るしかありません」と言い張るのだ。
30代前半で4児の母親のサヤカさん(仮名)は、なんと夫公認で娘の下着を売っているという。
「子供の世話があるのでパートに出られず、最初は私の『母乳』を売りたいと夫に相談したら、猛反対。代わりに家族の様々な私物を売るようになりました。なかでも一番の売れ筋は小学4年生の娘のパンツです」(サヤカさん)
具体的にどう売買されるのか。
「ツイッターで、隠語のハッシュタグを用いて使用済み商品を告知すれば、その手の買い手は気づいてくれる。『白系のパンツが欲しい』などとDM(ダイレクトメッセージ)で問い合わせてくる買い手さんとやり取りします。交渉がまとまったら『今から出品します』と確認を取ってから、メルカリにハンカチなどダミーの商品写真を使って匿名で出品し、すぐに買ってもらう。金銭の受け渡しもメルカリを通せばスムーズだし、お互いの本名や住所を知られることはありません」(同前)
メルカリでは出品の際、お互いの名前を匿名に設定することができる。出品時はコンビニ等で送付票出力を行なうが、送り先は運送会社だけがわかる仕組みになっている。物品がメルカリを経由しないため、下着などのやりとりに“悪用”されているのが現状だ。
このような“悪用”の利用状況についてメルカリに聞くと、
「個別の案件に対する回答は差し控えさせていただきますが、メルカリではSNSなど外部のサービスへ誘導すること、また商品の詳細がわからない取引をガイドラインで禁止しております」(広報担当者)
との回答だった。
匿名性が高い市場だけに、取引されるのはパンツばかりではないとサヤカさんが続ける。
「子供用品はパンツだけでなく靴や靴下も人気で、子供の使用済みの学習用品もよく売れます。買い手に尋ねたら、『使い終わったノートを見て、自分の小学生時代を思い出してノスタルジーに浸る』とのことでした。本当に“それだけ”なのかはわかりませんが……」
サヤカさんは子供を寝かしつけた後、自室で子供のパンツや靴下などを梱包し、商品画像の編集をするという。
小学2年生の娘がいる20代後半の専業主婦・ハルナさん(仮名)は、コロナ禍で働き口が見つからず、「高収入」「楽」などのワードで検索し“裏取引”の存在を知った。
ハルナさんのSNSにも、買い手から様々な要望が寄せられる。
「『下着は2日間洗わず』というリクエストもありますし、9歳の娘の爪とか、唾液を欲しがる人もいます。
最初は私の唾液だけ販売していましたが、娘の唾液のほうがよく売れるから、母娘セットで売るようになりました。娘には、『喉のコロナ菌を調べるから、よだれをちょうだい』と嘘をついて唾液をもらっています」
売買される“私物”は多岐にわたるが、それにしても小学生のパンツを誰が、何のために買うのだろうか。前出のサヤカさんが話す。
「高校生の娘がいる50代の常連客は『匂いが好きなので女子小学生のパンツや靴下を購入し、匂ったり被ったりした後、ジッパー袋に入れて保存します』と言っていました。なかには小学生の子供がいる買い手さんもいます」
あっけらかんと語るサヤカさんの傍らで、その夫が複雑な胸中を明かす。
「最初に妻から話を聞いた時は、正直バカじゃないかと思いましたよ。子供のパンツに対する性癖も理解できず、購入者に対する嫌悪感は消えません。それでも自分がガンガン稼げるわけでもなく、家計のため最終的に受け入れるしかなかった。子供や嫁の下着を他人に差し出すのは今も抵抗があり、モヤモヤは残ったままですが……」
それでもサヤカさんは胸を張って語る。
「娘のパンツを売って特定の人の性癖を満足させることで、子供への性犯罪リスクが減るかもしれません。この取引は誰も不幸になっていないし、稼いだ分子供にもお金を使える。現時点で誰からもお咎めはなく、取引を続けるつもりです」
堂々とこう言ってのけるのだ。
本当に法的な問題はないのか。児童ポルノや性犯罪に詳しい奥村徹弁護士が語る。
「現状で未成年者から着用済みの下着を買うことは、大都市圏を中心に条例で禁じられています。しかし親が自分の子供の着用済み下着を売り、誰かが買った場合は、売り手が成人のため売り手も買い手も処分の対象にならない。通常下着などの衣類は親が子に買い与えるので、下着の所有権は基本的に親側に認められます。子供の意に反して親が勝手に下着を売ったとしても、処罰の対象にするのは難しい」
違法性がないからといって、行為を正当化することはできないだろう。児童虐待や性被害に詳しいライターの森鷹久氏は、子供が母親の行為を知った時の危険性を指摘する。
「幼いころに性被害に遭った少女は、自分が男性から性的な対象として見られていたことに後から気づき、自分自身を汚らわしい存在だと思い心を閉ざしてしまうケースが多くある。
今回のケースの少女は、味方であるべき母親が、自分の性的な価値を認めていたと気づくことになる。そのショックは計り知れないでしょう」
1枚5000円の売買が、お金では手に入らない娘の尊厳を奪うかもしれないのだ。
※週刊ポスト2022年9月16・23日号