お金が絡めば、人の本質がよくわかる。筆者は複数の「日掛け金融」に勤務してきたが、日々そのことを実感する。ちなみに日掛け金融とは、個人・法人を問わず経営者のみを対象に貸付をおこない、債務者から毎日集金をしていた特殊な金融会社である。 今回は、過去の栄光ばかりにしがみついて犯罪に手を染めた「美魔女」と呼ばれた元人気飲食店オーナーについて紹介する。なお、個人の特定を避けるために名前は匿名とし、事実を一部加工している。
◆「美魔女」が犯罪に手を染めるまで
アンティーク感のあるテーブルやイス、高価そうな絵画や食器類は気持ちホコリっぽく、店内全体が薄ぼけた印象の店。それでも、飲み物の料金設定は高め。当時より30年以上前の昔は、会社の重役や起業家のうち紳士と呼べるような男性がたくさん来ていたのだとか。
「注文した飲み物はじっくりと時間をかけて飲むわけだし、私との会話つき。この価格設定でも安いぐらいだと思う。いまは世の中が不景気だから昔に比べるとお客さんが減っているけど、すぐ挽回するはずよ。だって、このカウンターも昔は満席で座れなかったのだから」
オーナー兼ママである高木純子(仮名・50代後半)は、借用書に記入しながらよくしゃべった。だから融資にも時間がかかる。毎日の集金も同様で、「お疲れ様、コーヒー淹れるわね」からはじまり、断ってもなかなかお金を渡してくれないから5分以上は帰れない。
◆不満や愚痴ばかりが飛び出してきた
「実は、この前もお客さんが入院しちゃってね。また1人、お客さんが減っちゃった。この前は、よく2人で来ていたお客さんが1人で来てね、相棒が亡くなったって嘆いていたわ。お店をオープンしたときは20代だったのに、私も50代後半。そうなるわよね」
ママの口から飛び出すのは、よき昔のことと現在の状況に対する不満や愚痴ばかり。そしてまたいつか、昔のよき時代に戻れると信じて疑わない。そのため、メニューや料金の見直しを提案しても右から左。そのままになっていた。
「お客さんは、ここの雰囲気が好きで来てくれているわけだから、このままでいいの。そんなことより、これ、缶コーヒー。本当はお店で飲んで行ってほしいけど、忙しいものね。いっしょにコーヒーを飲めるのが、お金を再貸付してもらうときだけじゃ寂しいわ」
◆借り入れが増えて“要注意顧客”に
ママは貸付時だけでなく集金へ行くたびにコーヒーをすすめてくれ、断ると缶コーヒーやペットボトル飲料など強引に渡してくれた。ある日を境にペットボトルのフタは開封済となり、ベットリと口紅が付いていることもあったが、ママは“気前のいい”フリを継続。
「この前も借入金を増額してもらったばかりなのに、また今日も増額のお願いをしてしまってごめんなさい。返済が苦しいとかではないのよ。ただ、いまがちょっと苦しいだけ。こんな借金、すぐに返済してパーッと返り咲いてやるわ!」
鼻息と意気込みは十分だったが、この日は審査に通らず、増額はできなかった。それだけでなく、他社からの借り入れも相当増えていたため“要注意顧客”となり、次回以降の借り換えも(借金の更新)も難しい状況となってしまう。そのため改善点を再び伝えてみた。
◆営業スタイルを変えたくないママのこだわり
「常連のお客さんからも、『傷んだメニュー表は変えたほうがいい』『古い店だから、もう少し料金を安くしたほうがいい』『この辺は飲食店が少ないから、軽食だけじゃなく満足感のあるフードメニューを増やしたらどうか』なんてアドバイスをもらうけど、余計なお世話」

「満足感のあるフードメニューを作ろうと思ったらレシピも考えなくちゃいけないし、お客さんが多い時間はバタバタするから1人では絶対に無理。私はこれからも、お客さんとゆっくり会話を楽しみながら営業するスタイルを変えたくないの」
◆口座から現金を引き出そうとして逮捕
借金返済に困っていて、どうにか低予算で状況を変えないといけないという現状がまったくもって理解できないママ。話は平行線のまま「今日は県外へ行く」「今日は体調が悪い」などと言い訳をし、支払いを遅らせようとすることが増えていった。そんなある日のこと、新聞を広げていた社長が溜め息をつきながらこう言った。
「あれ? この高木純子って、ウチの客だな……。昔からずっと通っていた身よりのない年寄り客から、複数回にわたり財布からお金とキャッシュカードを抜き、口座から現金を引き出そうとして逮捕されたらしい」
どうやら社長は昔、ママの店に通っていたことがあったらしい。そして、「いい雰囲気の店だったのに、残念。過去の栄光にすがってばかりいると、現実がみえなくなって恐ろしいな」と続けた。
楽しかった思い出や成功体験は、色褪せずキレイなまま記憶の中に残ることも少なくない。けれど、その思い出にばかり浸って現実を見失っている顧客も多かった。事業主かどうかにかかわらず、まずは現状を冷静に把握し、アドバイスに耳を傾けるようにしたいものだ。
<TEXT/里羽真門>