撮り鉄とは、鉄道の写真・動画撮影を趣味にする人々を指す。大半は常識人だが、撮影現場で傍若無人な振る舞いに及ぶ狼藉者もいる。数々の問題行動は、新聞やテレビなどで報じられてきた。しかし最近、批判を甘んじて受けてきたはずの撮り鉄が、SNSなどで“反論”することが増えている。
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【写真5枚】寝台特急「北斗星」のラストランや、名列車が見せた勇姿 8月下旬、東京駅に入線する「ドクターイエロー」の動画がTwitterに投稿され、大きな反響を呼んだ。

だがツイートを見ると、《マナーが悪いパン人多数》などと最小限の説明しか書かれていなかった。 これだけで鉄道ファンには伝わるのだという。とはいえ、まさしくパン人(一般人)である我々にはさっぱり分からない。まずは撮り鉄の実情に詳しい編集者に解説を依頼した。2016年9月、お召し列車の撮影で陣取る撮り鉄「ドクターイエローは、東海道・山陽新幹線で線路の歪みや架線の状態などを計測する特殊車両です。目撃するのが難しいことや、『見ると幸せになれる』という都市伝説的な言い伝えが広まっていることもあり、新幹線のホームに入ってくると大騒ぎになるのです」 やっぱり撮り鉄が大騒ぎしているんじゃないか──そう考えてしまうのは素人だという。「ドクターイエローは一般人には珍しいものですが、筋金入りの鉄道ファンは見慣れており、特段の価値がある電車ではありません。件のツイートを“翻訳”すると、『常日頃から撮り鉄はマナーが悪いと批判されているが、一般人だってドクターイエローを撮影する時のマナーは悪いじゃないか』というニュアンスが汲み取れるのです」(同・編集者)狼藉者が増えた理由 Twitterで特に拡散されたドクターイエローの動画は3本。1本は先に紹介したものだが、もう2本は東京駅と京都駅で発車する際の騒動を撮影したものだ。どれも撮り鉄の姿が見当たらないのがポイントだと言える。「夏休み中ということもあり、3本の動画は親子連れの姿が大半でした。東京駅ではホームからスマホを突き出すようにして撮影していた人もいたため、発車できないドクターイエローが何度も警笛を鳴らしていました。京都駅でも同じ状態となり、駅員が『発車できませんので、車両から離れてください』と繰り返しアナウンスしました」(同・編集者) ちなみに京都駅の動画では、注意を呼びかける駅員の声は怒気を含んでいるようにも聞こえる。親子連れは全く従わないので、駅員の気持ちが分からないでもない。「鉄道写真という趣味は昔からありますが、撮り鉄のマナーが社会問題に発展したのは比較的最近のことです。背景の一つに、撮影機材が安価で手に入るようになったため、撮り鉄の裾野が広がったことがあります。昔のカメラは非常に高価なものでしたから、今ほど撮り鉄の数は多くありませんでした」(同・編集者) 撮り鉄の数が増えれば増えるほど、非常識な狼藉者の割合も上昇するというわけだ。地下鉄でも乱暴狼藉「もう一つは、SNSの発達でしょう。撮り鉄の問題行動そのものは昔からあった。ただ、それは趣味を同じくする“撮り鉄サークル”の中で言及されるだけで、外部に伝わることはありませんでした。ところが、誰もがSNSに投稿できる時代になると、一般の人も撮り鉄の乱暴狼藉を知るようになってしまったのです」(同・編集者) 新聞記事のデータベースで調べてみると、2010年ごろから撮り鉄のマナー違反が記事になっていったようだ。 代表的なSNSであるTwitterは、2006年に誕生しサービスが開始された。時系列としては矛盾がないことになる。それでは当時掲載された、各紙の見出しを紹介しよう。◆「撮り鉄」節度を 踏切侵入、はねられ死亡…目立つマナー違反 JR、対策に躍起(朝日新聞・2009年3月14日)◆「撮り鉄」運行妨害問題 JR西 異例の被害届提出へ(産経新聞・2010年2月16日)◆撮り鉄 マナー守って 500系のぞみ引退でラッシュ ホーム押し合い 東京駅(東京新聞・2010年2月26日)「ドクターイエローの問題が勃発した同じ8月には、東京メトロの駅構内で脚立を使って撮影しようとする撮り鉄の男が動画に撮影され、やはりTwitterで拡散されました。男は脚立に乗り、何とホームドアを乗り越えるような格好でカメラを構えようとしたのです」(同・関係者)撮り鉄の暴言 駅員は男が脚立に乗る前から危険だと注意していた。だが、男は全く耳を貸さなかった。「仕方なかったのでしょう、駅員は男を脚立から引きずり下ろしました。確かに動画を見る限り、男の身体が線路側に傾けば、転落してもおかしくない状態でした。こうした行動が非常識であるのは言うまでもありませんが、信じられないことに、男はあべこべに駅員へ罵声を浴びせたのです」(同・関係者) その罵声も酷い。「なに邪魔してんるんだよ! オマエいい加減にしろよ! どんだけ待ったと思ってんだよ! カスがよ!」と怒鳴り散らしたのだ。 当然ながらTwitterでは批判の声が溢れた。《撮り鉄は何様のつもりじゃ》、《人身事故が起きたらどうすんだよ》、《撮り鉄でなくクズ鉄》──。「こんな男は批判されて当然ですが、『マスコミは脚立問題を過剰に報道しすぎ』という反論が、撮り鉄から出るようになっています。前提として、鉄道各社は駅構内などでの脚立を用いた写真撮影を禁止しています。このため、新聞やテレビなどの大手マスコミは、『脚立を使う撮り鉄はけしからん』という報道を続けてきました」(同・編集者)脚立問題 ちなみにデータベースで「撮り鉄 脚立」というワードで検索すると、約50件の記事が表示された。「ところが、一部の大手マスコミは、撮り鉄が公道に置いた脚立も問題視したのです。大手マスコミも事故や事件が起きると、様々な撮影現場で脚立を使用します。時には3メートルを超える巨大なものも登場します。これに一部の撮り鉄が、『鉄道会社に注意されるのは分かるが、マスコミが他人のことをとやかく言えるとは思わない』という主旨の投稿をSNSで行っているのです」(同・編集者) 新聞社やテレビ局に勤務するプロのカメラマンが“職務”として脚立を使うのと、アマチュアの“撮り鉄”が使うのを一緒にしていいのか、賛否両論はあるだろう。だが、反論する撮り鉄も、そんなことは先刻承知なのかもしれない。「やはり大手マスコミによって、『撮り鉄は非常識で話の通じない、おかしなオタクの集まり』というイメージが持たれてしまったのは事実でしょう。一部の撮り鉄が問題行動を引き起こすのは事実なので、これまで彼らは表立った反論は控えてきたようです。しかし近年、特にテレビが撮り鉄を“イジる”報道が増えたことで、彼らも黙ってはいられなくなったのではないでしょうか」(同・関係者)フジテレビに批判 取材の手法を巡って、大騒動に発展した事例もある。千葉県を走る第三セクターの「いすみ鉄道」(本社・大多喜町)で、フジテレビの取材手法や報道内容に問題があるとTwitterで投稿され、大きな反響を呼んだのだ。「2021年12月、フジテレビは夕方のニュース番組などで、『いすみ鉄道で、一部の撮り鉄が立ち入り禁止の私有地で撮影を行うなど、迷惑行為が相次いでいる』と報じました。ところが、取材クルーから『鉄道敷地内で撮影していますね』と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明したというのです」(同・関係者) 男性は調査結果をTwitterで発表すると、賛意を示す投稿で溢れた。こうなると、いすみ鉄道も無視するわけにはいかなかったようだ。 フジテレビの報道内容には触れなかったが、公式サイトで《お客さまには不信感を与えてしまうこととなり、ご迷惑をお掛けしましたことをお詫び申し上げます》と謝罪した。 もちろん誤報を指摘するのは、当然の行為だ。とはいえ、悪化した撮り鉄のイメージを回復させるのは、そう簡単なことではないらしい。「Twitterで『撮り鉄 気持ち悪い』という文言で検索すると、悪口雑言の投稿が信じられないほど大量に表示されます。これを改善するには、『言うべきことは言う』と反論したほうがいいのか、これまでと同じように無視して、ひたすら受忍したほうがいいのか、鉄道ファンの間でも議論は割れています」(同・編集者)デイリー新潮編集部
8月下旬、東京駅に入線する「ドクターイエロー」の動画がTwitterに投稿され、大きな反響を呼んだ。
だがツイートを見ると、《マナーが悪いパン人多数》などと最小限の説明しか書かれていなかった。
これだけで鉄道ファンには伝わるのだという。とはいえ、まさしくパン人(一般人)である我々にはさっぱり分からない。まずは撮り鉄の実情に詳しい編集者に解説を依頼した。
「ドクターイエローは、東海道・山陽新幹線で線路の歪みや架線の状態などを計測する特殊車両です。目撃するのが難しいことや、『見ると幸せになれる』という都市伝説的な言い伝えが広まっていることもあり、新幹線のホームに入ってくると大騒ぎになるのです」
やっぱり撮り鉄が大騒ぎしているんじゃないか──そう考えてしまうのは素人だという。
「ドクターイエローは一般人には珍しいものですが、筋金入りの鉄道ファンは見慣れており、特段の価値がある電車ではありません。件のツイートを“翻訳”すると、『常日頃から撮り鉄はマナーが悪いと批判されているが、一般人だってドクターイエローを撮影する時のマナーは悪いじゃないか』というニュアンスが汲み取れるのです」(同・編集者)
Twitterで特に拡散されたドクターイエローの動画は3本。1本は先に紹介したものだが、もう2本は東京駅と京都駅で発車する際の騒動を撮影したものだ。どれも撮り鉄の姿が見当たらないのがポイントだと言える。
「夏休み中ということもあり、3本の動画は親子連れの姿が大半でした。東京駅ではホームからスマホを突き出すようにして撮影していた人もいたため、発車できないドクターイエローが何度も警笛を鳴らしていました。京都駅でも同じ状態となり、駅員が『発車できませんので、車両から離れてください』と繰り返しアナウンスしました」(同・編集者)
ちなみに京都駅の動画では、注意を呼びかける駅員の声は怒気を含んでいるようにも聞こえる。親子連れは全く従わないので、駅員の気持ちが分からないでもない。
「鉄道写真という趣味は昔からありますが、撮り鉄のマナーが社会問題に発展したのは比較的最近のことです。背景の一つに、撮影機材が安価で手に入るようになったため、撮り鉄の裾野が広がったことがあります。昔のカメラは非常に高価なものでしたから、今ほど撮り鉄の数は多くありませんでした」(同・編集者)
撮り鉄の数が増えれば増えるほど、非常識な狼藉者の割合も上昇するというわけだ。
「もう一つは、SNSの発達でしょう。撮り鉄の問題行動そのものは昔からあった。ただ、それは趣味を同じくする“撮り鉄サークル”の中で言及されるだけで、外部に伝わることはありませんでした。ところが、誰もがSNSに投稿できる時代になると、一般の人も撮り鉄の乱暴狼藉を知るようになってしまったのです」(同・編集者)
新聞記事のデータベースで調べてみると、2010年ごろから撮り鉄のマナー違反が記事になっていったようだ。
代表的なSNSであるTwitterは、2006年に誕生しサービスが開始された。時系列としては矛盾がないことになる。それでは当時掲載された、各紙の見出しを紹介しよう。
◆「撮り鉄」節度を 踏切侵入、はねられ死亡…目立つマナー違反 JR、対策に躍起(朝日新聞・2009年3月14日)
◆「撮り鉄」運行妨害問題 JR西 異例の被害届提出へ(産経新聞・2010年2月16日)
◆撮り鉄 マナー守って 500系のぞみ引退でラッシュ ホーム押し合い 東京駅(東京新聞・2010年2月26日)
「ドクターイエローの問題が勃発した同じ8月には、東京メトロの駅構内で脚立を使って撮影しようとする撮り鉄の男が動画に撮影され、やはりTwitterで拡散されました。男は脚立に乗り、何とホームドアを乗り越えるような格好でカメラを構えようとしたのです」(同・関係者)
駅員は男が脚立に乗る前から危険だと注意していた。だが、男は全く耳を貸さなかった。
「仕方なかったのでしょう、駅員は男を脚立から引きずり下ろしました。確かに動画を見る限り、男の身体が線路側に傾けば、転落してもおかしくない状態でした。こうした行動が非常識であるのは言うまでもありませんが、信じられないことに、男はあべこべに駅員へ罵声を浴びせたのです」(同・関係者)
その罵声も酷い。「なに邪魔してんるんだよ! オマエいい加減にしろよ! どんだけ待ったと思ってんだよ! カスがよ!」と怒鳴り散らしたのだ。
当然ながらTwitterでは批判の声が溢れた。《撮り鉄は何様のつもりじゃ》、《人身事故が起きたらどうすんだよ》、《撮り鉄でなくクズ鉄》──。
「こんな男は批判されて当然ですが、『マスコミは脚立問題を過剰に報道しすぎ』という反論が、撮り鉄から出るようになっています。前提として、鉄道各社は駅構内などでの脚立を用いた写真撮影を禁止しています。このため、新聞やテレビなどの大手マスコミは、『脚立を使う撮り鉄はけしからん』という報道を続けてきました」(同・編集者)
ちなみにデータベースで「撮り鉄 脚立」というワードで検索すると、約50件の記事が表示された。
「ところが、一部の大手マスコミは、撮り鉄が公道に置いた脚立も問題視したのです。大手マスコミも事故や事件が起きると、様々な撮影現場で脚立を使用します。時には3メートルを超える巨大なものも登場します。これに一部の撮り鉄が、『鉄道会社に注意されるのは分かるが、マスコミが他人のことをとやかく言えるとは思わない』という主旨の投稿をSNSで行っているのです」(同・編集者)
新聞社やテレビ局に勤務するプロのカメラマンが“職務”として脚立を使うのと、アマチュアの“撮り鉄”が使うのを一緒にしていいのか、賛否両論はあるだろう。だが、反論する撮り鉄も、そんなことは先刻承知なのかもしれない。
「やはり大手マスコミによって、『撮り鉄は非常識で話の通じない、おかしなオタクの集まり』というイメージが持たれてしまったのは事実でしょう。一部の撮り鉄が問題行動を引き起こすのは事実なので、これまで彼らは表立った反論は控えてきたようです。しかし近年、特にテレビが撮り鉄を“イジる”報道が増えたことで、彼らも黙ってはいられなくなったのではないでしょうか」(同・関係者)
取材の手法を巡って、大騒動に発展した事例もある。千葉県を走る第三セクターの「いすみ鉄道」(本社・大多喜町)で、フジテレビの取材手法や報道内容に問題があるとTwitterで投稿され、大きな反響を呼んだのだ。
「2021年12月、フジテレビは夕方のニュース番組などで、『いすみ鉄道で、一部の撮り鉄が立ち入り禁止の私有地で撮影を行うなど、迷惑行為が相次いでいる』と報じました。ところが、取材クルーから『鉄道敷地内で撮影していますね』と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明したというのです」(同・関係者)
男性は調査結果をTwitterで発表すると、賛意を示す投稿で溢れた。こうなると、いすみ鉄道も無視するわけにはいかなかったようだ。
フジテレビの報道内容には触れなかったが、公式サイトで《お客さまには不信感を与えてしまうこととなり、ご迷惑をお掛けしましたことをお詫び申し上げます》と謝罪した。
もちろん誤報を指摘するのは、当然の行為だ。とはいえ、悪化した撮り鉄のイメージを回復させるのは、そう簡単なことではないらしい。
「Twitterで『撮り鉄 気持ち悪い』という文言で検索すると、悪口雑言の投稿が信じられないほど大量に表示されます。これを改善するには、『言うべきことは言う』と反論したほうがいいのか、これまでと同じように無視して、ひたすら受忍したほうがいいのか、鉄道ファンの間でも議論は割れています」(同・編集者)
デイリー新潮編集部