今月6日、東京地検特捜部は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会元理事の高橋治之被告を受託収賄の罪で、AOKIホールディングス前会長の青木拡憲被告ら3人を贈賄の罪で起訴した。高橋被告は組織委員会理事の「みなし公務員」という立場で、大会スポンサー契約などで便宜を図る見返りに、2017年10月から50回以上にわたりAOKI側から合計5100万円の賄賂を受けとった罪に問われている。
高橋被告からスポンサー契約の提案を受けたAOKI側は、「値段が安ければやる」と承諾。そして、AOKIが契約した「オフィシャルサポーター」は、約15億円のスポンサー料を支払うことが基準となっていたのだが、支払った額は、その3分の1の金額。値引きされた金額にも驚きだが、そもそもスポンサー集めは「専任代理店」として組織委から業務委託された大手広告会社「電通」が担当していた。なぜ、理事としての立場がありながら、異例ともいえるスポンサー営業ができたのか?高橋元理事の人物像について、彼を知る関係者たちから話を聞いた。
高橋被告は、2011年まで株式会社電通に勤務し、専務取締役や顧問の地位まで上り詰めた。電通では主にスポーツ事業局での勤務が長く、国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター会長と親密な関係を築き、Jリーグの立ち上げ、日韓W杯開催などに大きく尽力した人物と言われている。
また、オリンピックにおいては、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と電話が出来る関係と言われており、東京大会のオリンピック招致に大きく貢献してきた。そんなコネクションと電通でのスポーツ事業の経歴から、オリンピックでは広告収入の最大化、スポーツマーケティングの仕切りを期待して理事に選任されたようだ。
オリンピック組織委員会の中で、広告収益やスポンサー調整は「マーケティング局」が主体で行っており、その部署には電通からの出向者が多く在籍。いわば古巣の人間が多く所属する部署を、高橋被告は監督、アドバイスする立場にあったと関係者は言う。そんな古巣・電通社内には、“高橋案件”という言葉まで存在した。
高橋被告はその華麗なる経歴から「電通スポーツ村のドン」と呼ばれ、スポーツ界、スポンサーサイドに幅広い人脈をもっていたという。また、高橋被告をよく知る関係者によると、その人脈の中でも特に高橋被告が懇意にしていたスポンサー幹部やスポーツ界の幹部の案件は、“高橋案件”とよばれていたのだ。
電通社員が“高橋案件”を取り扱う際は、特に注意が必要とされており、高橋被告が心を許す社員が毎回関わることになっていた。そのメンバーには役員クラスも肩を並べていたようだ。また、今回の事件で贈賄側のAOKIホールディングスは例に漏れず“高橋案件”とされ、高橋被告が経営する六本木のステーキ店では、青木被告などAOKI側が度々訪れていた。取材の中で、高橋被告とAOKI側がいかに密接だったかわかるエピソードを聞いた。
2020年1月、AOKIが手がけた東京五輪選手団の制服などの製品を紹介する披露記者会見が行われた。ところが、その際にモデルとして出席した“あるアスリート”が、後に私的な不祥事をおこし、連盟より年内の活動停止処分などが下った。
関係者によると、アスリートは大会に出られない上、相次ぐスポンサーの降板で心身ともに満足のいく練習も出来ない状況に陥った。そんな状況を見かね、手を差し伸べたのは高橋被告だったという。2020年12月、六本木のステーキ店に青木被告を招き、AOKI側に「何とか助けてあげられないか」と支援のお願いをしたというのだ。
結果として、AOKI側がこのアスリートの支援に名乗り出ることはなかったが、「高橋被告とAOKI側は何でも相談できる」、その蜜月ぶりが関係者への取材から伺うことが出来た。
6日の起訴と共に、高橋被告は知人と共謀し、出版大手「KADOKAWA」側からも大会スポンサーに選定されるよう便宜を図った見返りに約7600万円を受け取った、受託収賄の疑いで再逮捕された。また、特捜部はその前日に広告大手「大広」にも家宅捜索をおこなっている。
今回の高橋被告をめぐる複数の贈収賄事件の着手から、特捜部はオリンピックの不正、膿を出し切ろうと本腰を入れているようにみえる。大会総経費は約1兆4238億円。その中には税金も多分に含まれている。オリンピックは「平和の祭典」。クリーン、フェアが大原則のはずであり、一部の権力者が私腹を肥やして良いものでは決してない。
今回、一連の不正が全て明るみになり、東京オリンピックがフェアでクリーンなものであったとレガシーを残すため、特捜部の執念の捜査が今行われている。
(フジテレビ社会部・司法クラブ 森将貴)