茨城県内で特定外来生物のアライグマが急増し、農作物への被害が深刻化している。
捕獲数は過去最多を更新し、県や市町村は対策に頭を悩ませている。(寺倉岳)
■自腹で電気柵
「収穫間際のブドウを食い荒らされたが、まさかアライグマだとは思わなかった」。坂東市のブドウ農家の男性(62)は、初めて被害にあった時をそう振り返る。
約7年前、一晩でブドウが約10房取られる被害が1週間続いた。夕方に畑を見張ると、姿を現したのはアライグマだった。器用に木を登り、かぶせてある袋を破って実を食べていた。
倉持さんのブドウ畑は現在、電気柵を導入し、動物の侵入を防いでいる。餌を付けた専用の箱わなも近くに設け、収穫期が近づく今年6月末頃以降、10匹以上を捕獲した。被害はなくなったが、設置費用の約30万円は自腹だ。倉持さんは「アライグマは見た目はかわいいかもしれないが、農家にとっては厄介者。多方面で被害が出ていることを知ってほしい」と話す。
■10年で30倍
県環境政策課によると、県内では1993年度に初めてアライグマの捕獲が確認された。その後、2009年度頃から捕獲数が増え始め、昨年度は過去最多の2181匹で、11年度の約30倍の捕獲数となった。
生息域は県南や県西が中心だが、近年は県央や鹿行にも広がり、県北でも捕獲が確認されている。正確な生息数は把握できず、同課は「繁殖力が高く、県内ほぼ全域に定着している」とみている。
農業被害も深刻で、県農村計画課によると、20年度の県内のアライグマによる農作物の被害は約1244万円で、16年度の約7倍になった。栄養価の高い野菜や果物に被害が集中しているという。
■いたちごっこ
危機感を持った県は、10年に「茨城県アライグマ防除実施計画」を策定。捕獲用の箱わなを市町村に貸し出しているが、個体数の急増に対策が追いつかないのが現状だ。坂東市では、被害が多いトウモロコシやブドウ農家を中心にわなを貸し出し、昨年度は629匹を捕獲した。だが、今年度は前年を上回るペースで捕獲数が増え、いたちごっこが続いているという。
アライグマの生態などに詳しい県自然博物館の後藤優介学芸員(40)は「現状は、自治体ごとに捕獲への取り組みに温度差がある。隣接する自治体で足並みをそろえる必要があり、他県とも連携して対策をとるべきだ」と話す。
アライグマ=北米原産の哺乳類で、全長60センチ~1メートルで体重4~10キロ。日本には1970年代にテレビアニメ「あらいぐまラスカル」の放映をきっかけにペットとして輸入され、その後に野生化したとされる。繁殖能力が高く、年に3~6匹の子供を産む。2005年に外来生物法に基づき特定外来生物に指定されており、輸入や飼育などが原則禁止となっている。