虐待などが原因で家出をした少年少女たち。彼らは数年前から、東京の歌舞伎町にある“トー横”や大阪にある“グリ下”というたまり場に集まるようになった。孤独と貧困に直面し、夜の街をさまよう若者たちを追った。【写真を見る】「売春してお金もらって。5000円」、“トー横”や“グリ下”・・・“家に居場所がない”漂流する若者達【報道特集】“居場所”求め 漂流する若者達新宿・歌舞伎町。飲食店や風俗店が軒を連ねる歓楽街の片隅に「その場所」はある。海老桂介記者「歌舞伎町の“トー横”と呼ばれるエリアです。若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしています」
東宝シネマズの横、略して“トー横”行き場を失った若者たちの、たまり場になっている。―親は心配しない?若者「縁切っている」―なんで?若者「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉(の暴力)もあるし、歯を折られたとか、そういう暴力もあるし」―“トー横”ってどういう場所?若者「キショ溜め」―キショ溜めって何?若者「“気色が悪い”の溜め、『キショ溜め』。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げたりし続けているヤツの集まりだと思うし」―でも、そこに来てしまうでしょ?それは何で?若者「一人だとやるせなくて。なんもできないから。『下』を見て安心している…みたいな」スーツケースに、荷物を詰め込んだ若者も。―どこから来た?若者「北海道です」―どういう理由で?若者「親の虐待。殴る、蹴る、首絞める、噛む、投げる、そんな感じ」路上で夜を明かすことに対して「もはや抵抗はなくなった」という。一帯が“トー横”と呼ばれるようになったのは5年前。SNSを介して知り合い、本名などを明かさないまま緩やかにつながっている。ツイッター上の声「思い切って家族の束縛断ち切って家出した」「“トー横”新規です。一人で“トー横”行くの怖いので、誰か一緒に行きませんか」「一緒に行きたい!」記者「若者たちが座っていた場所には薬の残骸ですね」トー横では市販の風邪薬を過剰摂取する「オーバードーズ」が横行している。少女「薬、オーバードーズしてる」―薬をいっぱい飲んだってこと?少女「なんか分かんないけど、飲んじゃった、いっぱい」―病院に行かなくて大丈夫?少女「うん、行けない。家出少女だから」―救急車は呼ばなくていいの?少女「それは大丈夫、だって呼んだら警察に捕まっちゃうんだもん」体調が落ち着くのを待って事情を尋ねた。―学校は?少女「行ってない。やめた」―なんでオーバードーズしちゃうの?少女「シラフでいると嫌なことしか考えられないから」―どうやって稼いでいるの?バイト?少女「立ちんぼ。体売っている」“トー横”には、彼女のように生活費を売春でかせぐ少女が多くいるという。すぐ近くにある、「売春通り」と呼ばれるエリアでは。記者「若い女性が声を掛けられていますね」「まさに売春行為を持ち掛けられている、そういう状況だと思います」暴力を振るう母親から逃れるため“トー横”にやってきた少女私たちは一人の少女と出会った。16歳のAさん。暴力を振るう母親から逃れるため、“トー横”にやってきた。Aさん「包丁で刺されたりとか、首を締められたりとか、『生きている価値ないから死んで』みたいな、そういうのをめっちゃされてて嫌になって出てきました」「虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか」「ここだと引かれないし、逆に共感されるんで。要は、同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね」Aさんが家を出たのは、中学を卒業した2022年3月。その後、幾度となく保護施設に送られたが、脱走を繰り返しているという。―今日はこの後どうする?Aさん「この後は野宿します」―ここで?Aさん「その辺で」―危なくない?Aさん「お金ないんで」―風呂はどうしている?Aさん「『案件』でラブホ行くじゃないですか。その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」案件とは、売春のことだ。―自分が嫌にならない?Aさん「いや、ありますね。やっぱ…そういうことをするとき、おじさんじゃないですか。相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし…みたいな葛藤はあります」腕には、無数の「傷」が刻まれていた。Aさん「いつも『死にたい』と思ってるから切ると(血が出るから)『今日もちゃんと生きていたんだ、偉い』と思って」―将来、どうする?Aさん「将来ネイリストとかになりたいんですよ。美容系に行きたくて。やり方的には犯罪ですけど。案件とかでお金を貯めて、そしたら専門学校行って、ネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」“トー横”とよく似た場所 “グリ下”と呼ばれるエリア大阪・道頓堀に、“トー横”とよく似た場所がある。観光名所「グリコ看板」の下、“グリ下”と呼ばれるエリアだ。若者「もうええやん、ただ単に困っている子がいるから集まってる、それだけでええやん、もうグリ下に関わらんとってほしい、大人、しょーみ」若者たちは「大人への不信感」を露わにした。―“グリ下”ってどういう場所?若者「ほんまになんやろ、一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのは、分かっているんですよ、みんな。でも、集まれる場所がここにしかない」―全員の顔と名前は分かる?若者「分かる子もいるし、新しく来た子とかもいるから、分からない人もいる」―でも、何となくみんなは繋がっている?若者「そうじゃない?」緩やかに、それでいて、確かに、繋がっている。そんな実感を求めて、彼らは“グリ下”にやってくる。2023年3月、“グリ下”に「大きな変化」があった。警察と地元の企業などが、橋の下に2台の防犯カメラを設置した。大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「地域の皆さんと協力をして、子供たちをしっかり見守って、安全で安心な街ミナミを築いていきたい」だが防犯カメラの設置以降、若者たちはこの場所に寄り付かなくなった。記者「カメラを設置し始めてから何日か経ったが、若者の姿が以前より減ったという印象を受ける。別の場所に行ったという気もするが」大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「おっしゃる通りだと思うのですけど…どこに行っても子どもたちを守るということで、継続して対策を取っていきたい」大阪を拠点に、若者の生活支援などを行っているNPO。週に一度、“グリ下”周辺でフリーカフェを開設し、少年少女らの相談に乗っている。理事長を務める今井紀明さんは、防犯カメラを設置したことに疑問を呈した。今井紀明さん「別の居場所があったりとか、人のつながりがあったりとか、いろいろな職業の人と出会う場があればいいんですけど、それを用意しないまま、社会的に場所を閉じてしまう。もしくは入り込ませないようにしてしまう、ある種、浄化させてしまうというのは危険な方向に結びついてしまうのではないか」虐待を受けて育った、ある男子高校生の言葉が忘れられないという。今井紀明さん「『暴力を受ける環境から逃れて、やっと人に甘えられるようになった』と。何が必要かというと、それは安心できる居場所。これがあってこそ、しかも、これが長くあってこそ、次のステップに行けるんですね。無かったら、子どもの時とか、0歳の時から無いんだったら、それは長い期間がかかるので、これを何年も用意していくことがぼくは必要だと思っています」“トー横”16歳の少女のその後2022年12月、“トー横”では警察が少年少女らの一斉補導に乗り出した。補導されたのは13歳~18歳の20人。年明け、私たちは再び“トー横”を訪れた。若者たちの姿が見えない。少し離れた場所に16歳のAさんがいた。―2か月、どう過ごしていた?Aさん「ニュースで一斉補導みたいな、あれで自分も捕まって」だが、母親は引き受けを拒否したという。Aさん「なんかあの取材の後くらいから親とゴタゴタしちゃって。いま、縁切っちゃったんですよ」―完全に縁を切ったの?Aさん「完全に。親の方から。本当に家も帰れないし」―なんで『縁切れ』って言われたの?Aさん「トー横に行っていること自体も親は気に食わないし、リストカットとかオーバードーズしているのも、親は嫌で。それが自分の子どもって周りに知られるのも嫌だから、縁を切ってほしいみたいな」保護施設に送られたAさんだが、脱走して再びトー横に戻ってきた。道中、「売春通り」に差し掛かると…Aさん「ここに立って、そこのレンタルルームで売春してお金もらって。きょうもやった、午後5時くらいかな。5000円。仕事でお金がもらえるから頑張るみたいな感じ」徐々にためらいの気持ちが薄れていった、と話す。Aさん「今は毎日稼いで、ホテル取って、ホテル暮らし」―その日ホテルに泊まるためのお金をその日稼ぐって感じ?Aさん「そんな感じ、具体的には売春」「前まではやっぱりメンタル的にくるし、嫌だったけど、今は別にそうじゃない」―そうじゃないってことは、慣れちゃったってこと?Aさん「うん」―アルバイトとかはやっぱりできないの?Aさん「身分証が全部ないから、できない。親元にあって、保険証とかを引き渡してほしいとお願いしているけど、全部、親が拒否している」深夜、Aさんは同年代の少女らと合流した。Aさん「ラブホ行く」―年齢確認はされない?Aさん「されない」―本来、泊まれないよね?Aさん「うん」―それが普通になっている?Aさん「普通になってる」風営法で未成年者の利用が禁じられているラブホテル。ふたりの少女が、ここで一夜を過ごす。“トー横”が唯一の居場所 売春をしながら、日々の生活翌日、Aさんの姿は原宿にあった。―原宿のどういうところが好き?Aさん「かわいいものいっぱいあるし、派手なものが好きだから」―よく行く店とか行きたい店とかは?Aさん「特にないけど、ぱっと外を見て、いいなあと思ったら入ったりはする」トー横で知り合った仲間と普段はどんな会話をしているのか。Aさん「一番多いのは普通だけど恋愛話とか、今好きな人がいるんだけど、こういう状況なんだよねとか。修学旅行で夜、消灯時間が過ぎて話すみたいな」―昔、そういう体験をあまりしてこなかった?Aさん「してこなった」―もしトー横がなくなったら?Aさん「自分は今のところ、あそこ以外に居場所が見つけられていないから、無くなったら、どこも行く場所ないかな」“トー横”が唯一の居場所だという。売春をしながら日々の生活を送っている。Aさん「この後、稼ぎに行く」―それはいわゆる案件(=売春)?Aさん「うん」―非常に危険だと分かっていると思うけど、それでも行くの?Aさん「うん」――やめた方がいいんじゃないかAさん「やめたらお金ないから。ホテルも入れないし、ごはんも食べられないし。だから自分は行く。誰が止めても自分はそれで稼ぐ」何度説得しても、Aさんは拒んだ。Aさん「需要と供給じゃないけど、おじさんはお金を払ってそういう行為がしたい、こっちはお金がほしいからそういう行為をする、それでいいと思う」―本当にそれでいいと思っている?Aさん「うん」―心の底から?Aさん「うん、自分は今それしか稼ぐ方法がないし」―将来ネイリストになりたいと言っていた。その気持ちは?Aさん「もう無くなった」―もう無いの?なんで?Aさん「まあ染まったっていうか。2か月前までは、元々いた普通の生活の場所の感覚が残っていたけど、今はもう、それが全部ないかなって。てか、10年20年先まで、そんな考えられない。明日ですら考えられない、何があるか分からない状況で、今日をとりあえず頑張って生きているって状況だから」そう言い残して、Aさんは私たちの前から去って行った。
虐待などが原因で家出をした少年少女たち。彼らは数年前から、東京の歌舞伎町にある“トー横”や大阪にある“グリ下”というたまり場に集まるようになった。孤独と貧困に直面し、夜の街をさまよう若者たちを追った。
【写真を見る】「売春してお金もらって。5000円」、“トー横”や“グリ下”・・・“家に居場所がない”漂流する若者達【報道特集】“居場所”求め 漂流する若者達新宿・歌舞伎町。飲食店や風俗店が軒を連ねる歓楽街の片隅に「その場所」はある。海老桂介記者「歌舞伎町の“トー横”と呼ばれるエリアです。若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしています」
東宝シネマズの横、略して“トー横”行き場を失った若者たちの、たまり場になっている。―親は心配しない?若者「縁切っている」―なんで?若者「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉(の暴力)もあるし、歯を折られたとか、そういう暴力もあるし」―“トー横”ってどういう場所?若者「キショ溜め」―キショ溜めって何?若者「“気色が悪い”の溜め、『キショ溜め』。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げたりし続けているヤツの集まりだと思うし」―でも、そこに来てしまうでしょ?それは何で?若者「一人だとやるせなくて。なんもできないから。『下』を見て安心している…みたいな」スーツケースに、荷物を詰め込んだ若者も。―どこから来た?若者「北海道です」―どういう理由で?若者「親の虐待。殴る、蹴る、首絞める、噛む、投げる、そんな感じ」路上で夜を明かすことに対して「もはや抵抗はなくなった」という。一帯が“トー横”と呼ばれるようになったのは5年前。SNSを介して知り合い、本名などを明かさないまま緩やかにつながっている。ツイッター上の声「思い切って家族の束縛断ち切って家出した」「“トー横”新規です。一人で“トー横”行くの怖いので、誰か一緒に行きませんか」「一緒に行きたい!」記者「若者たちが座っていた場所には薬の残骸ですね」トー横では市販の風邪薬を過剰摂取する「オーバードーズ」が横行している。少女「薬、オーバードーズしてる」―薬をいっぱい飲んだってこと?少女「なんか分かんないけど、飲んじゃった、いっぱい」―病院に行かなくて大丈夫?少女「うん、行けない。家出少女だから」―救急車は呼ばなくていいの?少女「それは大丈夫、だって呼んだら警察に捕まっちゃうんだもん」体調が落ち着くのを待って事情を尋ねた。―学校は?少女「行ってない。やめた」―なんでオーバードーズしちゃうの?少女「シラフでいると嫌なことしか考えられないから」―どうやって稼いでいるの?バイト?少女「立ちんぼ。体売っている」“トー横”には、彼女のように生活費を売春でかせぐ少女が多くいるという。すぐ近くにある、「売春通り」と呼ばれるエリアでは。記者「若い女性が声を掛けられていますね」「まさに売春行為を持ち掛けられている、そういう状況だと思います」暴力を振るう母親から逃れるため“トー横”にやってきた少女私たちは一人の少女と出会った。16歳のAさん。暴力を振るう母親から逃れるため、“トー横”にやってきた。Aさん「包丁で刺されたりとか、首を締められたりとか、『生きている価値ないから死んで』みたいな、そういうのをめっちゃされてて嫌になって出てきました」「虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか」「ここだと引かれないし、逆に共感されるんで。要は、同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね」Aさんが家を出たのは、中学を卒業した2022年3月。その後、幾度となく保護施設に送られたが、脱走を繰り返しているという。―今日はこの後どうする?Aさん「この後は野宿します」―ここで?Aさん「その辺で」―危なくない?Aさん「お金ないんで」―風呂はどうしている?Aさん「『案件』でラブホ行くじゃないですか。その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」案件とは、売春のことだ。―自分が嫌にならない?Aさん「いや、ありますね。やっぱ…そういうことをするとき、おじさんじゃないですか。相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし…みたいな葛藤はあります」腕には、無数の「傷」が刻まれていた。Aさん「いつも『死にたい』と思ってるから切ると(血が出るから)『今日もちゃんと生きていたんだ、偉い』と思って」―将来、どうする?Aさん「将来ネイリストとかになりたいんですよ。美容系に行きたくて。やり方的には犯罪ですけど。案件とかでお金を貯めて、そしたら専門学校行って、ネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」“トー横”とよく似た場所 “グリ下”と呼ばれるエリア大阪・道頓堀に、“トー横”とよく似た場所がある。観光名所「グリコ看板」の下、“グリ下”と呼ばれるエリアだ。若者「もうええやん、ただ単に困っている子がいるから集まってる、それだけでええやん、もうグリ下に関わらんとってほしい、大人、しょーみ」若者たちは「大人への不信感」を露わにした。―“グリ下”ってどういう場所?若者「ほんまになんやろ、一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのは、分かっているんですよ、みんな。でも、集まれる場所がここにしかない」―全員の顔と名前は分かる?若者「分かる子もいるし、新しく来た子とかもいるから、分からない人もいる」―でも、何となくみんなは繋がっている?若者「そうじゃない?」緩やかに、それでいて、確かに、繋がっている。そんな実感を求めて、彼らは“グリ下”にやってくる。2023年3月、“グリ下”に「大きな変化」があった。警察と地元の企業などが、橋の下に2台の防犯カメラを設置した。大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「地域の皆さんと協力をして、子供たちをしっかり見守って、安全で安心な街ミナミを築いていきたい」だが防犯カメラの設置以降、若者たちはこの場所に寄り付かなくなった。記者「カメラを設置し始めてから何日か経ったが、若者の姿が以前より減ったという印象を受ける。別の場所に行ったという気もするが」大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「おっしゃる通りだと思うのですけど…どこに行っても子どもたちを守るということで、継続して対策を取っていきたい」大阪を拠点に、若者の生活支援などを行っているNPO。週に一度、“グリ下”周辺でフリーカフェを開設し、少年少女らの相談に乗っている。理事長を務める今井紀明さんは、防犯カメラを設置したことに疑問を呈した。今井紀明さん「別の居場所があったりとか、人のつながりがあったりとか、いろいろな職業の人と出会う場があればいいんですけど、それを用意しないまま、社会的に場所を閉じてしまう。もしくは入り込ませないようにしてしまう、ある種、浄化させてしまうというのは危険な方向に結びついてしまうのではないか」虐待を受けて育った、ある男子高校生の言葉が忘れられないという。今井紀明さん「『暴力を受ける環境から逃れて、やっと人に甘えられるようになった』と。何が必要かというと、それは安心できる居場所。これがあってこそ、しかも、これが長くあってこそ、次のステップに行けるんですね。無かったら、子どもの時とか、0歳の時から無いんだったら、それは長い期間がかかるので、これを何年も用意していくことがぼくは必要だと思っています」“トー横”16歳の少女のその後2022年12月、“トー横”では警察が少年少女らの一斉補導に乗り出した。補導されたのは13歳~18歳の20人。年明け、私たちは再び“トー横”を訪れた。若者たちの姿が見えない。少し離れた場所に16歳のAさんがいた。―2か月、どう過ごしていた?Aさん「ニュースで一斉補導みたいな、あれで自分も捕まって」だが、母親は引き受けを拒否したという。Aさん「なんかあの取材の後くらいから親とゴタゴタしちゃって。いま、縁切っちゃったんですよ」―完全に縁を切ったの?Aさん「完全に。親の方から。本当に家も帰れないし」―なんで『縁切れ』って言われたの?Aさん「トー横に行っていること自体も親は気に食わないし、リストカットとかオーバードーズしているのも、親は嫌で。それが自分の子どもって周りに知られるのも嫌だから、縁を切ってほしいみたいな」保護施設に送られたAさんだが、脱走して再びトー横に戻ってきた。道中、「売春通り」に差し掛かると…Aさん「ここに立って、そこのレンタルルームで売春してお金もらって。きょうもやった、午後5時くらいかな。5000円。仕事でお金がもらえるから頑張るみたいな感じ」徐々にためらいの気持ちが薄れていった、と話す。Aさん「今は毎日稼いで、ホテル取って、ホテル暮らし」―その日ホテルに泊まるためのお金をその日稼ぐって感じ?Aさん「そんな感じ、具体的には売春」「前まではやっぱりメンタル的にくるし、嫌だったけど、今は別にそうじゃない」―そうじゃないってことは、慣れちゃったってこと?Aさん「うん」―アルバイトとかはやっぱりできないの?Aさん「身分証が全部ないから、できない。親元にあって、保険証とかを引き渡してほしいとお願いしているけど、全部、親が拒否している」深夜、Aさんは同年代の少女らと合流した。Aさん「ラブホ行く」―年齢確認はされない?Aさん「されない」―本来、泊まれないよね?Aさん「うん」―それが普通になっている?Aさん「普通になってる」風営法で未成年者の利用が禁じられているラブホテル。ふたりの少女が、ここで一夜を過ごす。“トー横”が唯一の居場所 売春をしながら、日々の生活翌日、Aさんの姿は原宿にあった。―原宿のどういうところが好き?Aさん「かわいいものいっぱいあるし、派手なものが好きだから」―よく行く店とか行きたい店とかは?Aさん「特にないけど、ぱっと外を見て、いいなあと思ったら入ったりはする」トー横で知り合った仲間と普段はどんな会話をしているのか。Aさん「一番多いのは普通だけど恋愛話とか、今好きな人がいるんだけど、こういう状況なんだよねとか。修学旅行で夜、消灯時間が過ぎて話すみたいな」―昔、そういう体験をあまりしてこなかった?Aさん「してこなった」―もしトー横がなくなったら?Aさん「自分は今のところ、あそこ以外に居場所が見つけられていないから、無くなったら、どこも行く場所ないかな」“トー横”が唯一の居場所だという。売春をしながら日々の生活を送っている。Aさん「この後、稼ぎに行く」―それはいわゆる案件(=売春)?Aさん「うん」―非常に危険だと分かっていると思うけど、それでも行くの?Aさん「うん」――やめた方がいいんじゃないかAさん「やめたらお金ないから。ホテルも入れないし、ごはんも食べられないし。だから自分は行く。誰が止めても自分はそれで稼ぐ」何度説得しても、Aさんは拒んだ。Aさん「需要と供給じゃないけど、おじさんはお金を払ってそういう行為がしたい、こっちはお金がほしいからそういう行為をする、それでいいと思う」―本当にそれでいいと思っている?Aさん「うん」―心の底から?Aさん「うん、自分は今それしか稼ぐ方法がないし」―将来ネイリストになりたいと言っていた。その気持ちは?Aさん「もう無くなった」―もう無いの?なんで?Aさん「まあ染まったっていうか。2か月前までは、元々いた普通の生活の場所の感覚が残っていたけど、今はもう、それが全部ないかなって。てか、10年20年先まで、そんな考えられない。明日ですら考えられない、何があるか分からない状況で、今日をとりあえず頑張って生きているって状況だから」そう言い残して、Aさんは私たちの前から去って行った。
新宿・歌舞伎町。飲食店や風俗店が軒を連ねる歓楽街の片隅に「その場所」はある。
海老桂介記者「歌舞伎町の“トー横”と呼ばれるエリアです。若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしています」
東宝シネマズの横、略して“トー横”行き場を失った若者たちの、たまり場になっている。
―親は心配しない?若者「縁切っている」
―なんで?若者「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉(の暴力)もあるし、歯を折られたとか、そういう暴力もあるし」
―“トー横”ってどういう場所?若者「キショ溜め」
―キショ溜めって何?若者「“気色が悪い”の溜め、『キショ溜め』。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げたりし続けているヤツの集まりだと思うし」
―でも、そこに来てしまうでしょ?それは何で?若者「一人だとやるせなくて。なんもできないから。『下』を見て安心している…みたいな」
スーツケースに、荷物を詰め込んだ若者も。
―どこから来た?若者「北海道です」
―どういう理由で?若者「親の虐待。殴る、蹴る、首絞める、噛む、投げる、そんな感じ」
路上で夜を明かすことに対して「もはや抵抗はなくなった」という。
一帯が“トー横”と呼ばれるようになったのは5年前。SNSを介して知り合い、本名などを明かさないまま緩やかにつながっている。
ツイッター上の声「思い切って家族の束縛断ち切って家出した」「“トー横”新規です。一人で“トー横”行くの怖いので、誰か一緒に行きませんか」「一緒に行きたい!」
記者「若者たちが座っていた場所には薬の残骸ですね」
トー横では市販の風邪薬を過剰摂取する「オーバードーズ」が横行している。
少女「薬、オーバードーズしてる」
―薬をいっぱい飲んだってこと?少女「なんか分かんないけど、飲んじゃった、いっぱい」
―病院に行かなくて大丈夫?少女「うん、行けない。家出少女だから」
―救急車は呼ばなくていいの?少女「それは大丈夫、だって呼んだら警察に捕まっちゃうんだもん」
体調が落ち着くのを待って事情を尋ねた。
―学校は?少女「行ってない。やめた」
―なんでオーバードーズしちゃうの?少女「シラフでいると嫌なことしか考えられないから」
―どうやって稼いでいるの?バイト?少女「立ちんぼ。体売っている」
“トー横”には、彼女のように生活費を売春でかせぐ少女が多くいるという。
すぐ近くにある、「売春通り」と呼ばれるエリアでは。
記者「若い女性が声を掛けられていますね」「まさに売春行為を持ち掛けられている、そういう状況だと思います」
私たちは一人の少女と出会った。16歳のAさん。暴力を振るう母親から逃れるため、“トー横”にやってきた。
Aさん「包丁で刺されたりとか、首を締められたりとか、『生きている価値ないから死んで』みたいな、そういうのをめっちゃされてて嫌になって出てきました」「虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか」「ここだと引かれないし、逆に共感されるんで。要は、同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね」
Aさんが家を出たのは、中学を卒業した2022年3月。その後、幾度となく保護施設に送られたが、脱走を繰り返しているという。
―今日はこの後どうする?Aさん「この後は野宿します」
―ここで?Aさん「その辺で」
―危なくない?Aさん「お金ないんで」
―風呂はどうしている?Aさん「『案件』でラブホ行くじゃないですか。その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」
案件とは、売春のことだ。
―自分が嫌にならない?Aさん「いや、ありますね。やっぱ…そういうことをするとき、おじさんじゃないですか。相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし…みたいな葛藤はあります」
腕には、無数の「傷」が刻まれていた。
Aさん「いつも『死にたい』と思ってるから切ると(血が出るから)『今日もちゃんと生きていたんだ、偉い』と思って」
―将来、どうする?Aさん「将来ネイリストとかになりたいんですよ。美容系に行きたくて。やり方的には犯罪ですけど。案件とかでお金を貯めて、そしたら専門学校行って、ネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」
大阪・道頓堀に、“トー横”とよく似た場所がある。観光名所「グリコ看板」の下、“グリ下”と呼ばれるエリアだ。
若者「もうええやん、ただ単に困っている子がいるから集まってる、それだけでええやん、もうグリ下に関わらんとってほしい、大人、しょーみ」
若者たちは「大人への不信感」を露わにした。
―“グリ下”ってどういう場所?若者「ほんまになんやろ、一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのは、分かっているんですよ、みんな。でも、集まれる場所がここにしかない」
―全員の顔と名前は分かる?若者「分かる子もいるし、新しく来た子とかもいるから、分からない人もいる」
―でも、何となくみんなは繋がっている?若者「そうじゃない?」
緩やかに、それでいて、確かに、繋がっている。そんな実感を求めて、彼らは“グリ下”にやってくる。
2023年3月、“グリ下”に「大きな変化」があった。警察と地元の企業などが、橋の下に2台の防犯カメラを設置した。
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「地域の皆さんと協力をして、子供たちをしっかり見守って、安全で安心な街ミナミを築いていきたい」
だが防犯カメラの設置以降、若者たちはこの場所に寄り付かなくなった。
記者「カメラを設置し始めてから何日か経ったが、若者の姿が以前より減ったという印象を受ける。別の場所に行ったという気もするが」
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)「おっしゃる通りだと思うのですけど…どこに行っても子どもたちを守るということで、継続して対策を取っていきたい」
大阪を拠点に、若者の生活支援などを行っているNPO。週に一度、“グリ下”周辺でフリーカフェを開設し、少年少女らの相談に乗っている。理事長を務める今井紀明さんは、防犯カメラを設置したことに疑問を呈した。
今井紀明さん「別の居場所があったりとか、人のつながりがあったりとか、いろいろな職業の人と出会う場があればいいんですけど、それを用意しないまま、社会的に場所を閉じてしまう。もしくは入り込ませないようにしてしまう、ある種、浄化させてしまうというのは危険な方向に結びついてしまうのではないか」
虐待を受けて育った、ある男子高校生の言葉が忘れられないという。
今井紀明さん「『暴力を受ける環境から逃れて、やっと人に甘えられるようになった』と。何が必要かというと、それは安心できる居場所。これがあってこそ、しかも、これが長くあってこそ、次のステップに行けるんですね。無かったら、子どもの時とか、0歳の時から無いんだったら、それは長い期間がかかるので、これを何年も用意していくことがぼくは必要だと思っています」
2022年12月、“トー横”では警察が少年少女らの一斉補導に乗り出した。補導されたのは13歳~18歳の20人。
年明け、私たちは再び“トー横”を訪れた。
若者たちの姿が見えない。
少し離れた場所に16歳のAさんがいた。
―2か月、どう過ごしていた?Aさん「ニュースで一斉補導みたいな、あれで自分も捕まって」
だが、母親は引き受けを拒否したという。
Aさん「なんかあの取材の後くらいから親とゴタゴタしちゃって。いま、縁切っちゃったんですよ」
―完全に縁を切ったの?Aさん「完全に。親の方から。本当に家も帰れないし」
―なんで『縁切れ』って言われたの?Aさん「トー横に行っていること自体も親は気に食わないし、リストカットとかオーバードーズしているのも、親は嫌で。それが自分の子どもって周りに知られるのも嫌だから、縁を切ってほしいみたいな」
保護施設に送られたAさんだが、脱走して再びトー横に戻ってきた。道中、「売春通り」に差し掛かると…
Aさん「ここに立って、そこのレンタルルームで売春してお金もらって。きょうもやった、午後5時くらいかな。5000円。仕事でお金がもらえるから頑張るみたいな感じ」
徐々にためらいの気持ちが薄れていった、と話す。
Aさん「今は毎日稼いで、ホテル取って、ホテル暮らし」
―その日ホテルに泊まるためのお金をその日稼ぐって感じ?Aさん「そんな感じ、具体的には売春」「前まではやっぱりメンタル的にくるし、嫌だったけど、今は別にそうじゃない」
―そうじゃないってことは、慣れちゃったってこと?Aさん「うん」
―アルバイトとかはやっぱりできないの?Aさん「身分証が全部ないから、できない。親元にあって、保険証とかを引き渡してほしいとお願いしているけど、全部、親が拒否している」
深夜、Aさんは同年代の少女らと合流した。
Aさん「ラブホ行く」
―年齢確認はされない?Aさん「されない」
―本来、泊まれないよね?Aさん「うん」
―それが普通になっている?Aさん「普通になってる」
風営法で未成年者の利用が禁じられているラブホテル。ふたりの少女が、ここで一夜を過ごす。
翌日、Aさんの姿は原宿にあった。
―原宿のどういうところが好き?Aさん「かわいいものいっぱいあるし、派手なものが好きだから」
―よく行く店とか行きたい店とかは?Aさん「特にないけど、ぱっと外を見て、いいなあと思ったら入ったりはする」
トー横で知り合った仲間と普段はどんな会話をしているのか。
Aさん「一番多いのは普通だけど恋愛話とか、今好きな人がいるんだけど、こういう状況なんだよねとか。修学旅行で夜、消灯時間が過ぎて話すみたいな」
―昔、そういう体験をあまりしてこなかった?Aさん「してこなった」
―もしトー横がなくなったら?Aさん「自分は今のところ、あそこ以外に居場所が見つけられていないから、無くなったら、どこも行く場所ないかな」
Aさん「この後、稼ぎに行く」
―それはいわゆる案件(=売春)?Aさん「うん」
―非常に危険だと分かっていると思うけど、それでも行くの?Aさん「うん」
――やめた方がいいんじゃないかAさん「やめたらお金ないから。ホテルも入れないし、ごはんも食べられないし。だから自分は行く。誰が止めても自分はそれで稼ぐ」
何度説得しても、Aさんは拒んだ。
Aさん「需要と供給じゃないけど、おじさんはお金を払ってそういう行為がしたい、こっちはお金がほしいからそういう行為をする、それでいいと思う」
―本当にそれでいいと思っている?Aさん「うん」
―心の底から?Aさん「うん、自分は今それしか稼ぐ方法がないし」
―将来ネイリストになりたいと言っていた。その気持ちは?Aさん「もう無くなった」
―もう無いの?なんで?Aさん「まあ染まったっていうか。2か月前までは、元々いた普通の生活の場所の感覚が残っていたけど、今はもう、それが全部ないかなって。てか、10年20年先まで、そんな考えられない。明日ですら考えられない、何があるか分からない状況で、今日をとりあえず頑張って生きているって状況だから」
そう言い残して、Aさんは私たちの前から去って行った。