いま、六代目山口組関係者が騒然となっている動画がある。
長袖シャツ、ズボン、靴、帽子と黒ずくめの男がドアから入っていく。しばらくすると建物の中から「ドンドン」という音がした。入ってから40秒ほどで男は出ていった。この動画のタイムスタンプは4月22日午前10時50分25秒から10時51分07秒とある。
防犯カメラに写っていた男の姿
男は40秒ほどで出ていった
もう一本の動画は、同日午前11時13分、青い防護服ようなものを着こんだ5人の消防隊員が、黒の半袖シャツの男性をストレッチャーに乗せて、搬送のため救急車に向かっていくものだ。だが男性は顔から血を流しているようにも見え、ピクリとも動く様子はない。
半袖シャツの男性が運ばれる。殺された余嶋組長だ
二つの動画は防犯カメラの記録だ。4月22日午前11時ころ、神戸市長田区のラーメン店の店長で、六代目山口組弘道会傘下の湊興業・余嶋学組長(57歳)が射殺された。この事件で、ラーメン店のドア前に設置された防犯カメラの記録動画とみられる。
4月25日に現代ビジネスでは、《【独自】ラーメン店長だった「弘道会」現役直参組長は、なぜ射殺されたか》として事件について詳報した。
その後、射殺実行犯の逃走を助けたとみられる暴力団関係者が逮捕され、事件の解決も早いと見られたが、1ヶ月が過ぎた今も、実行犯は捕まらない。そのなかで、冒頭に紹介した動画が、実行犯特定につながるとして業界で拡散している。
この動画は暴力団関係者にも広く出回っているが、真偽については諸説ある。記者は余嶋組長が店長を務めていた「龍の髭」に、組長の生前に2度訪問し、組長がつくったラーメンも食べている。
動画にあるドアや歩道のポストなどの位置関係からしても、「龍の髭」の入口前に取り付けられた防犯カメラの映像であることはほぼ間違いない。担架で運ばれる男性の姿も、店長として切り盛りしていた余嶋組長の姿に重なる。
この動画が、六代目山口組の関係者に衝撃が走っている。実行犯とみられる黒い長袖シャツの男が、ある人物にそっくりだというのだ。
「絆會の金澤若頭と非常によく似ている。ひっくり返りそうになった」(捜査関係者)
金澤若頭とは何者か。六代目山口組を割って出た井上邦雄氏が神戸山口組を結成した後、そこからさらに分裂したのが、絆會だった。その絆會のナンバー2が金澤成樹若頭である。
実はこの金澤氏、すでに別の事件で指名手配中なので、ここからは金澤容疑者と表記しよう。
金澤容疑者の指名手配写真
絆會のナンバー2・金澤容疑者は、2020年9月28日、長野県のこれまたラーメン店で事件を起こした。店内で暴力団員に発砲し、大怪我を負わせたのだ。かつての子分だった暴力団員が、金澤容疑者のもとを離れ弘道会傘下の組に移籍することを問題にしたうえ、トラブルになったとみられる。
事件発生後、金澤容疑者の犯行とわかり、指名手配されたが3年近く経つ今も金澤容疑者の行方はしれないままだ。
つまりこの金澤容疑者が、ヒットマンとして「仕事」を果たして逃亡中、第二の犯行に及んだのはでないかという声が囁かれ出している。
実は余嶋組長の射殺後から、実行犯は六代目山口組に反目する絆會ではないかという情報は広がっていた。だが、元山口組顧問弁護士でYouTuberとして「山之内幸夫チャンネル」で暴力団情報を発信している山之内幸夫氏はこう語る。
「山口組を巡る抗争においては、すでに六代目山口組が神戸山口組を圧倒的な戦闘力で封じており、つけいる隙を与えていない状況だ。絆會に至っては、神戸山口組以上に弱体化しているとみられる」
それを如実に示すのは警察庁作成の資料《令和4年における組織犯罪の情勢》である。六代目山口組の組員数が3800人、神戸山口組は330人に対して絆會はわずか70人と報告されている。とても反撃できる状況ではないという見方が大勢だった。
だが、金澤容疑者だけは違ったという。捜査関係者が語る。
「絆會が総崩れとなりつつあるなか、組員ももともと在籍していた六代目山口組に戻ったり、あるいはヤクザをやめていく道を選んだ。だがその過程で、織田会長への忠誠心を貫いているのが金澤容疑者だ。
長野県の事件の前からも『六代目山口組の最高幹部を狙っている』と周辺に語っていたという。特に『高山清司若頭を』という話も出ていたそうだ。だが六代目山口組の司組長以下は、厳重に警護されていて、とても付け入る隙などない。そこで手薄になっている弘道会傘下の余嶋組長を狙ったというのなら、つじつまが合う」(捜査関係者)
実際、すでに警察サイドは金澤容疑者が実行犯ではないかとつかんでいたとの情報を「週刊現代」は得た。実を言うと、2020年の事件の後もこの金澤容疑者、各地でヒットマンとして第二、第三の犯行を重ねた疑いがもたれているのだ。
2022年1月17日、茨城県水戸市で六代目山口組一心会系三瓶組の神部達也若頭が組事務所で射殺された。実行犯はいまも逮捕されていない。
「この事件から間もなくして、防犯カメラの映像から金澤容疑者が実行犯ではないかと浮上した。理由は防犯カメラ映像と絆會でヒットマンとなれる胆力がある人物は金澤容疑者しかいないとの判断からです。しかし足取りがつかめない。やがて三瓶組も金澤容疑者だと疑い、絆會幹部を集中的に追いかけ始めたのです」(捜査関係者)
そして水戸の事件から3ヶ月後の2022年05月10日昼、三重県伊賀市で銃撃事件が起こった。絆會の谷奥由浩組長が病院の駐車場で撃たれたのだ。逮捕されたのは三瓶組の清水勇介受刑者だった。
神部若頭が射殺されたことの報復ではないか、つまり三瓶組による絆會への「返し」かとみられた。
「三瓶組は、水戸の事件に関与したとみられる金澤容疑者に『返し』をすべく必死で探していたが見つからなかった。そこで三瓶組と絆會のトラブルの発端となった清水受刑者が、下見を重ねて谷奥組長の立ち入る病院をみつけて、銃撃に及んだのです」(捜査関係者)
清水受刑者は今年3月、津地裁で懲役15年の実刑判決が確定し、受刑中だ。
「今回のラーメン店の動画に写っているのが金澤容疑者ということになれば、六代目山口組は当然、金澤容疑者にヒットマンを送ってくるだろう。これまで余嶋組長の銃撃は抗争ではないとされていましたから。さららる抗争拡大に警戒が必要です」(同)
前出の山之内幸夫氏は「この動画は決定的なものかもしれませんね」としてこう語る。
「私の情報では、余嶋組長の事件で協力した人物が早々に逮捕されており、5月初めにも解決かという話があった。それが難航しているのでおかしいと思っていた。
動画はYouTube上にも出回っており、あちこちで公開されています。警察は顔や身体の特徴だけではなく、歩く姿、歩容認証といいますが、それも解析できるほど技術は進化している。
三瓶組の銃撃に金澤容疑者がかかわっているとも聞いたこともあります。私は『悲しきヒットマン』の著作もあり、最も多くのヒットマンの弁護をした弁護士ですが、指名手配で逃走中にさらなるヒットマンとして犯行を重ねるような人物は聞いたことがなく、驚いています。
犯行の背景には十分な闘争資金や支援があると見ています。この動画が金澤容疑者であれば、警察は全力で立件に乗り出すはず。当然、山口組も黙ってはいないでしょうから抗争が再び大きくなる危惧がある」
長野県警は、今回の動画が出回りはじめた途端、金澤容疑者の新たな手配写真を公表した。余嶋組長の事件を意識したのか黒いシャツ姿の写真だ。組事務所だけでなく、ラーメン屋2軒で起こっている異例の銃撃事件。警察は事件解決にどう動くのか。