時代が進むにつれ働き方は変わりつつあります。ひと昔前では考えられなかったような光景がオフィスや仕事の現場で見受けられることもしばしばあり、雇用する側の企業も柔軟な対応が求められています。今回は、新しい働き方に応えきれなかった会社のエピソードです。 都内某所にある、BtoBに特化したソフトウエア開発会社でPMをしている都筑さん(仮名・39歳)の部署に、とんでもなくハイスペックな女性エンジニアが入社したそうです。
◆入社したハイスペック社員
「彼女は、元大手電機メーカー出身で外部取締役のTさんの紹介で入社してきました。前々から社内ではうわさになっていたんですが、学生時代にはアメリカの宇宙開発プロジェクトにも参加していたそうなんです。ウチには優秀な社員がたくさんいますが、彼女は会社設立以来の逸材と言ってもいいと思います」
彼女の名前はEさん(23歳)。都築さんが少し興奮気味で話すように、入社後の評判もとてもよく、仕事のスキルはもちろんのこと、スタッフとのコミュニケーション能力も高く社内にもすぐに溶け込んだようです。
「その後の飲み会でEさんから聞いたのですが、実は帰国子女らしく、中学・高校をアメリカで過ごしていたそうなんです。誰とでも話せるあのキャラクターは、その辺からきているのかもしれません」
◆帰国子女からの想定外な相談
Eさんが入社したちょうどその頃、都築さんの会社では極秘プロジェクトが始まろうとしていました。
「詳細はお伝えできないんですが、かなりグローバルなプロジェクトが秘密裏に始まっていて、腕試しも込めてEさんにも参加してもらったんです。最初は少し心配だったのですが、すぐにメンバーと打ち解けていて、いつのまにかベテランエンジアたちと一緒に肩を並べて取り組む様子は、正直さすがだなと感動していたんです」
ところが、プロジェクトも順調に進捗していたある日、都築さんは想定外の相談を持ちかけられたといいます。
「自宅の玄関先で生まれたばかりの子猫を保護したので、『ケージに入れて同伴出社を行いたい』と言ってきたんです。あまりにも唐突な内容だったので、とりあえずその場は保留にして後日回答することにしました。そういえば、彼女、履歴書に本当は獣医師になりたかったと書いてあったことを思い出したんです」
◆保護猫と出社したい…苦渋の決断は?
Eさんからの切実な相談を受けた都築さんは、独断では回答できないと判断し、上司たちと相談することにしたそうです。
「上司の部長はもとより役員にもこの話は伝わり、半日かけて討論されたんです。会社側としてはかなり有益な人材なので、できれば要望に応えてあげたかったのですが、いくら逸材でも特別扱いは輪を乱すという理由で、会社が出した答えは『却下』でした」
その翌日、都築さんが会社の回答を伝えると、Eさんは残念な表情を浮かべながらも受け入れたように見えたそうです。
「ただ、その1週間後にEさんから退職届が提出されたんです。その時は、いくらなんでも猫のために会社を辞める必要はないのではと思っていたんですが、Eさんと距離の近い同僚によると、最近とくに子猫の体調がすぐれず、放置することはとうていできないと漏らしていたようでした」
◆逃した魚は大きすぎた
そうして、極秘プロジェクトもEさん抜きで進められることになったそうですが、彼女が退職してから半年ほどたったある日、都築さんはとあるネットニュース記事を見つけ、驚かされることになります。
「なんでも、あのEさんがアメリカの人工知能開発企業の新規事業チームにリモートで参画するという内容だったんです。日本人としては異例の大抜てきだそうで、しかも完全なリモートということで、注目度が高かったんでしょうね。その日のうちにすぐに社内で共有されて、しばらくその話題で持ちきりでしたよ。
私のみならず上層部もその記事を見て皆ため息をついていましたよ。あの時なんでリモートを提案しなかったのか、とても後悔しています」
今回のことをきっかけに、都築さんの会社では有能なエンジニアを確保するためにも、より柔軟な働き方の改革を模索することがマストになったそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
―[すぐに辞めた新入社員]―