日々問題なく働いている人でも、いつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。
トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。
今回紹介するケースは、社員旅行の宴会で、「私のひざに座って」「胸か大きいね、何カッフかな」「私も現役だ」と発言するなど、複数の女性にセクハラをした男性支店長が会社から受けた解雇処分は無効だとして提訴したという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。
こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい解説を目指しています。
今回はセクハラ事件を解説します。宴会で上司がセクハラ暴君になりました。部下の女性に対して「私のひざに座ってビールを注いでくれないか」「胸か大きいね、何カッフかな」「犯すぞ」などと発言した事件です。
会社はこの上司を懲戒解雇にしました。すると上司は「懲戒解雇は無効だ」と訴訟を提起。
~ 結果 ~
当然にセクハラ認定。上司は「これが俺流のスキンシップだ!」みたいな主張をしたのですがソッコーで撃沈してます。
しかし、懲戒解雇は無効となりました。でも裁判所は懲戒解雇をOKと判断するにはチョー慎重なんです。
もっとも、キモ上司に対して損害賠償請求はできます。録音やLINEの重要性などもお伝えします(セクハラ・懲戒解雇事件:東京地裁平成21年4月24日判決)。
会社は電動機器の販売などを行っていました。従業員は約140人。セクハラ上司は東京支店の支店長。セクハラ被害等に遭った女性社員は6名です。
12月のこと。東京支店で慰安旅行が開催されました(40人が参加)。1泊2日の温泉旅行で、夜の宴会は午後6時30分ごろから始まりました。宴会場はよくある温泉のヤツです。舞台があるような宴会場をイメージしてください。そこに13人くらいが座れる細長のテーブルが3つ置かれていました。
席はクジ引きで決めることに。「神さま!支店長の近くだけはイヤ!」という女性社員の祈りが聞こえてきますね。
この宴会で支店長が暴君になりました。暴君のセクハラは以下のとおりです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼女性社員Aに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━支店長は、隣に座っていたAさんの指を触り、手を握りました。Aさんは「困ったな…」と思ったようですが拒絶の態度を明確に示すことはできませんでした。
支店のトップですもんね。ヤメて下さい!とか言っちゃうと角がたっちゃうし。実際そのように認定されています。「キモイけどまぁガマンしてやるか」「それ以上になると分かってるよなオッサン」ってところですね。
さらに支店長は、写真撮影するときにAさんの肩を抱きました。Aさんに対して「2人で温泉に行かないか」「新幹線で一緒に帰ろう」と言いましたが、「いや、結構です」と断られています。ドンマイ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ 女性社員Bに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━Bさんはその年に入社した新人です。支店長へお酌をしに行ったんですが、空いてる席がなかったんです。すると支店長は「私のひざに座って注いでくれ」みたいなことを・・・2~3回も言いました。しつこっ。
仕方なくBさんは支店長の片ひざに触れるか触れないかの中腰の姿勢でビールを注ぎました。この空気イスはカナリ辛かったでしょう。そのとき支店長はBさんに対して「何も子供ができるわけではないんだぞ」とキモイ発言を。
(この時、Bさんは浴衣ではなくGパンを履いていました。温泉旅行の宴会にGパンを履いて参加するってことは、女性社員の間でセクハラ警報が出ていたんでしょうね。だって ↓ )
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼女性社員Cに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━Cさんも私服で参加しています。支店長は、歩いていたCさんを呼び止めました。うわっ…きた…って感じですね。支店長は自分のナナメ前に座らせました。そして以下のセクハラ発言を浴びせました。
「最近キレイになったか、恋をしてるんか」「胸か大きいね、何カッフかな」「胸か大きいことはいいことやろ」「この中の男性陣て誰を選ふか」「私も現役だが、私もとうか」「男性か女性を抱きたいと思うように、女性も男性に抱かれたい時かあるやろ」などと、胸の大きさを測るような動作も交えながら発言。
そして時は流れ、中締めの時間となりました。お次はそこに残らされた?女性社員に対してのセクハラです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼女性社員D・Eに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━Dさんが後輩で、Eさんが先輩です。まずは後輩のDさんが被害に遭ってしまいます。
支店長は宴会場に残ったメンバーを色々を呼び寄せました。Dさんは男性社員6人に囲まれる形となりました。そこで支店長はDさんに対して以下のセクハラ発言を浴びせました。「色っほくなったなぁ」「ワンヒースの中のハンツか見えそうたか、俺は見えても全然かまわない」「この中て好みの男性は誰か」「俺は金も地位もあるか、とうか」
どうもこうも今すぐこの世から消えてほしいのですが、Dさんは返事をすることかてきず、「ノーコメントてす」と言いました。Dさんは逃げたくて、近くにいる先輩のEさんに声をかけました。Eさんはメチャ優しいです。
「Dちゃん帰ろう」と声をかけ「こっちへおいで」というような仕草をしました。すると支店長はEさんに対して、「ハハアは関係ない。帰れ」と爆弾発言。
イライラした支店長は後輩Dさんに対して、「誰かタイフか。これたけ男かいるのに。答えないのてあれは犯すそ」という趣旨の発言を浴びせました。Dさんは傷つき、悔しい気持ちで一杯になりました(判決で認定されています)。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼セクハラ上司はシラをきる━━━━━━━━━━━━━━━━━裁判で支店長は「上記のような発言していません」とシラを切りました。しかし、裁判所は「いやいや無理無理。証人がいるんですよ。証人がウソをつくとは考え難い」と一蹴。
今回は女性社員の味方をしてくれる証人がいたので助かりましたが、証言を得られないことがあります。たとえばセクハラ上司やその取り巻きに囲まれた飲み会です。彼らは裁判になると必ずシラを切ります。「記憶にございません」のオンパレード。政治家とセクハラ上司は裁判になると記憶喪失になるんです。
なのでセクハラ宴会になりそうな時はスマホを録音状態にしたまま挑みましょう。録音は最強です。
お次は日常でのセクハラです。ザッと箇条書きします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ 女性社員Fさんに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━・お尻をポーンと叩く・食事会で、手を握る・肩に手を回す・「自分は胸の大きい女性か好みてある」・「(キミは)胸か小さいので好みのタイフてはない」
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼女性社員Aさんに対して━━━━━━━━━━━━━━━━━・宴会などで、手に触れる・「また結婚しないのか」・「胸かない」「胸か小さい」・2人で食事に行った際に「俺のことをとう思う」
被害を受けた女性社員たちが会社に被害を申告しました。その後、手続きを経て、会社は支店長を懲戒解雇にしました。以下の就業規則に基づく懲戒解雇です。
就業規則53条 従業員か下記各号の一に該当したときは、諭旨解雇または懲戒解雇の懲戒を行う。 6号 職務、職位を悪用したセクシャルハラスメントにあたる行為をした者
会社はコンプライアンスに力を入れていたようで、宴会の日から26日後に懲戒解雇にされてます。そこで支店長は「懲戒解雇は違法だ」として訴訟を提起しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ セクハラにあたるか━━━━━━━━━━━━━━━━━これはソッコーで認定されてます。判決文をみるに、どうやら支店長は以下の主張をしたようです。「私の言動は【単なるスキンシップ】【私流の交流スタイル】だ」。・・・俺流ですね。あなたは【凡才のセクハラおやじ】やで。ってことで裁判所は「いや無理無理」と粉砕してます。━━━━━━━━━━━━━━━━━▼どんな場合に懲戒解雇できるのか?━━━━━━━━━━━━━━━━━問題はココなんですよ。懲戒解雇できるのか?裁判所では「懲戒解雇はやりすぎじゃないか?」が審理されます。以下のケースは無効になるんです。労動契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ 今回のケース━━━━━━━━━━━━━━━━━結論。ザックリいうと「懲戒解雇はやりすぎだ」ってことで無効になっています。以下、理由を解説します。大前提として、裁判所はお怒りなんです。「(セクハラ行為についての)支店長の情状が芳しからざることは明らか」と認定しています。でも「色々な事情を考慮すればいきなり懲戒解雇はやりすぎだわ」と判断しました。具体的には以下のとおり。■ 強制わいせつ的なケース【じゃない】・日頃の支店長の言動は、宴席などで女性社員の手を握ったり肩を抱くという程度・温泉旅行の宴会での行為も強制わいせつ的なものとは一線を画す・中腰てヒールを注がせたのも強制わいせつ的なものとまては評価てきない■ 宴会宴会でのセクハラは、気のゆるみかちな宴会て飲酒の上、調子に乗ってされた言動として捉えることができる面もある。■ 人目につく場所全体的に支店長のセクハラは、人目に付かないところて秘密裏に行うというより、多数の社員の目もあるところて開けっひろけに行われる傾向かあるもので、自すとその限界かあるものともいい得る■ 犯すぞ発言最も強烈て悪質性か高い「犯すそ発言」は、女性を傷つける、たちの良くない発言てあることは明白てあるか、Dさんが好みの男性のタイフを言わないことに対する苛立ちからされたもので、周囲には多くの社員もおり、真実、女性を乱暴する意思かある前提て発言されたものてはない■ 反省支店長は被告の会社に対して相応の貢献をしてきており、反省の情も示していること■ 初犯これまて支店長に対してセクハラ行為についての指導や注意かされたことはないなどの事情に照らせば、「労働者にとって極刑てある懲戒解雇を直ちに選択するというのは、やはり重きに失するものと言わさるを得ない」として、結果的に「懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当なものとして是認することかてきす無効」と判断しました。●さいごに発言レベルなどを超えて、キスをしたり胸を触るなど強制わいせつ的なケースであれば懲戒解雇OKとなる傾向にあります(日本ヒューレット・パッカード事件:東京地裁平成17年1月31日判決など多数)。Q.「ちょっと待ってよ!犯すぞ発言までして何のおとがめもナシなの?」A.私もムカつきます。セクハラ上司には法的鉄拳制裁を食らわせましょう。懲戒解雇を食らわせることは難しいんですが損害賠償請求はできます。金額はケースバイケースですが30万円くらいの場合が多いかなという感覚です。セクハラを苦にして体調不良や退職にまで追い込まれたようなケースでは100万円以上の賠償が認められたケースもあります。先ほども述べたとおり録音は最強なので、発言を録音する工夫をしてみてください。あとは、セクハラされたことをすぐ同僚にLINEするのも有効な手です。セクハラ直後のLINEが決め手となって裁判官がセクハラ認定してくれたケースがあります(東京地裁令和2年3月3日判決:手を握る・肩に手を回すセクハラ)そしてその録音やLINEなどをひっさげて弁護士か労働局に駆け込みましょう。セクハラ上司から賠償を勝ちとることをお祈りしています。今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ セクハラにあたるか━━━━━━━━━━━━━━━━━これはソッコーで認定されてます。判決文をみるに、どうやら支店長は以下の主張をしたようです。「私の言動は【単なるスキンシップ】【私流の交流スタイル】だ」。
・・・俺流ですね。
あなたは【凡才のセクハラおやじ】やで。ってことで裁判所は「いや無理無理」と粉砕してます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼どんな場合に懲戒解雇できるのか?━━━━━━━━━━━━━━━━━問題はココなんですよ。懲戒解雇できるのか?裁判所では「懲戒解雇はやりすぎじゃないか?」が審理されます。以下のケースは無効になるんです。
労動契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
━━━━━━━━━━━━━━━━━▼ 今回のケース━━━━━━━━━━━━━━━━━結論。ザックリいうと「懲戒解雇はやりすぎだ」ってことで無効になっています。以下、理由を解説します。
大前提として、裁判所はお怒りなんです。「(セクハラ行為についての)支店長の情状が芳しからざることは明らか」と認定しています。でも「色々な事情を考慮すればいきなり懲戒解雇はやりすぎだわ」と判断しました。具体的には以下のとおり。
■ 強制わいせつ的なケース【じゃない】・日頃の支店長の言動は、宴席などで女性社員の手を握ったり肩を抱くという程度・温泉旅行の宴会での行為も強制わいせつ的なものとは一線を画す・中腰てヒールを注がせたのも強制わいせつ的なものとまては評価てきない
■ 宴会宴会でのセクハラは、気のゆるみかちな宴会て飲酒の上、調子に乗ってされた言動として捉えることができる面もある。
■ 人目につく場所全体的に支店長のセクハラは、人目に付かないところて秘密裏に行うというより、多数の社員の目もあるところて開けっひろけに行われる傾向かあるもので、自すとその限界かあるものともいい得る
■ 犯すぞ発言最も強烈て悪質性か高い「犯すそ発言」は、女性を傷つける、たちの良くない発言てあることは明白てあるか、Dさんが好みの男性のタイフを言わないことに対する苛立ちからされたもので、周囲には多くの社員もおり、真実、女性を乱暴する意思かある前提て発言されたものてはない
■ 反省支店長は被告の会社に対して相応の貢献をしてきており、反省の情も示していること
■ 初犯これまて支店長に対してセクハラ行為についての指導や注意かされたことはない
などの事情に照らせば、「労働者にとって極刑てある懲戒解雇を直ちに選択するというのは、やはり重きに失するものと言わさるを得ない」として、結果的に「懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当なものとして是認することかてきす無効」と判断しました。
発言レベルなどを超えて、キスをしたり胸を触るなど強制わいせつ的なケースであれば懲戒解雇OKとなる傾向にあります(日本ヒューレット・パッカード事件:東京地裁平成17年1月31日判決など多数)。
Q.「ちょっと待ってよ!犯すぞ発言までして何のおとがめもナシなの?」
A.私もムカつきます。セクハラ上司には法的鉄拳制裁を食らわせましょう。懲戒解雇を食らわせることは難しいんですが損害賠償請求はできます。金額はケースバイケースですが30万円くらいの場合が多いかなという感覚です。セクハラを苦にして体調不良や退職にまで追い込まれたようなケースでは100万円以上の賠償が認められたケースもあります。先ほども述べたとおり録音は最強なので、発言を録音する工夫をしてみてください。
あとは、セクハラされたことをすぐ同僚にLINEするのも有効な手です。セクハラ直後のLINEが決め手となって裁判官がセクハラ認定してくれたケースがあります(東京地裁令和2年3月3日判決:手を握る・肩に手を回すセクハラ)
そしてその録音やLINEなどをひっさげて弁護士か労働局に駆け込みましょう。セクハラ上司から賠償を勝ちとることをお祈りしています。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1