ジャニーズ事務所の性加害問題について、連日報道が続いています。そうした中、高貴で麗しいイメージがあるクラシック音楽界も、似たような闇を抱えていることをご存知でしょうか。
前編記事『「もっと子宮を感じて歌ってごらん」…華やかなクラシック音楽業界のウラで蔓延している、セクハラ・性加害の「深すぎる闇」』に続き、その実態をお届けします。
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クラシック音楽界の性被害問題は、教師と学生の間だけに留まりません。
あるオーケストラの団員(既婚者男性)が、「自分のレッスンを入団オーディションの前に受けないか?」と入団を希望する若い女性演奏家を言葉巧みに自宅レッスンに誘い、そこで性行為を強要することが、以前音大生の間で噂になっていました。
こういった話は、音大生が集まった時や、SNSのコミュニティで注意喚起として筆者のところに回ってきます。この団員からは、複数の若い音楽家が被害を受けたそうです。
本来であれば、世界中から集まった演奏家が公平公正な審査のもと、己の実力を測る場であるはずの国際コンクールでも、「ファイナルの前夜、審査員とファイナリストの女性が一緒のホテルの部屋に入っていき、翌日彼女が優勝した」ことがあったと、筆者は友人から聞きました。こちらは、同意の上での行為なのか、強要されたものであったのかは、わかりません。
そもそも、音大教授と学生、またはコンクールやオーディションの審査員と出場者が性的な関係を持つことは、大人の自由恋愛とも取れますし、本人たちが同意の上での行為であれば認められるべきではないか、という考え方もあるかもしれません。
しかし、そのような行いをしながら、特定の人を贔屓せずに大学の成績を付けたり、人によっては人生を賭けて臨むコンクールやオーディションで公正な審査をすることが可能なのか、と筆者は大いに疑問に感じます。
クラシック音楽界の性被害の話は、あまりに「あるある」過ぎて、界隈の人間も感覚が麻痺してしまっているのも事実です。音大生が集まると、「○○大学の○○という先生にはこんな話がある」「△△という音楽家はこんなことをしているらしい」と言った情報交換会が始まります。
しかし、あまりにも「あるある」過ぎて、「まあそういうこともあるよね」といった反応が普通となってしまっています。
ベルギーの研究者で、女性作曲家の作品を演奏するオーケストラを立ち上げたEline Coteさんが行った研究によると、女性音楽家250人中20%が性的違法行為(セクハラやレイプ等)を経験したことがある、と回答したそうです。実際のところ筆者は、周りの女性音楽家の5人に1人は何かしらの性的違法行為を経験したことがあるのでは、と体感しています。
これまで取り上げてきた話の中で、報道機関により発表されていること以外は、全て噂話に過ぎません。しかし、火の無いところに煙は立たないのです。
個々の話は、細部にわたり完全に真実ではないかもしれません。ただ、これほどまでに世界各国の音楽家から性被害の実情や噂話を聞いてきた筆者は、クラシック音楽界に何かしらの闇があることは事実だと考えています。
そして、大半の音大生や音楽家が「そういう(性的違法行為)こともあるよね」と流してしまい、このような問題が大きく取り上げられないクラシック音楽界の風潮は、異常と言えるのではないでしょうか。
ジャニー喜多川氏による性加害問題も、カウアン氏や彼に続く被害者の告発により被害が明るみに出るまで、ほとんどの芸能人やメディアが真剣に取り合いませんでした。BBCが報じてからやっと日本でも追及が始まりましたが、クラシック音楽界は国際的なものなので、より内側から膿を出すことが困難に見受けられます。
#MeToo運動により2017~18年頃には著名な音楽家に対する告発もありましたが、運動のブームが過ぎた今は、セクハラ疑惑があった彼らは何もなかったかのように活動しています。
とは言え、証拠がないのに特定の音楽家を糾弾することはできませんし、被害の話が何十年も前のことだと、より告発も難しくなるでしょう。
筆者は、
「レッスンはスマホで録音する(何かあったら証拠として提出する)」「性被害にあったらすぐに警察に行く」「全く知らない異性の教師の自宅レッスンには容易に行かない」
などといった学生への呼びかけを音大が徹底し、教師と学生のロマンチックな関係は徹底的に禁止する旨をきちんと発表するべきだと考えます。
さらに、音楽家以外の人間に学内で受けたセクハラや性被害を相談できるような仕組みを作ったり、第三者機関に定期的に調査を依頼するのも効果的でしょう。
そもそも、レッスンを学校以外の場所で行うことを禁ずる、などのルールがあっても良いのでは、と考えています。
そして、クラシック音楽界内部からの意識改革も勿論必要ですが、社会としてもこのようなことは絶対に容認しない、という強い態度でいることも大切だと思います。
私たちは、ジャニー喜多川氏の性加害問題を長い時間放置していたという過ちから学ぶべきですし、これが#MeToo運動のような一過性のものに留まってしまうことは避けなければいけません。
持続可能なクラシック音楽界にするために、日本でも、そして世界でも、この問題にはもっと焦点が当たるべきだと筆者は強く感じています。
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さらに関連記事『「もっと子宮を感じて歌ってごらん」…華やかなクラシック音楽業界のウラで蔓延している、セクハラ・性加害の「深すぎる闇」』では、いま起きている“もうひとつの事実”について、詳しく報じています。