女装を解いた全裸の男性は、玩具の手錠を後ろ手にかけられ、アイマスクで視界を塞がれていた。その背後から、レインコートを羽織った女が忍び寄る。左右の手に、鋭利なナイフとビデオカメラを握って……。
【写真】動画撮影に執着していた田村瑠奈容疑者(29)
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北海道札幌市の歓楽街ススキノ。とあるラブホテルの浴室で、恵庭市の会社員Aさん(当時62)の“首ナシ遺体”が見つかったのは、2023年7月2日のことだ。捜査関係者の話。
「死因は、首の後方から複数回刺されたことによる出血性ショック。致命傷の一撃は、右鎖骨付近から肺の近くまで達していた」
殺害されたAさん
約3週間後、無職の田村瑠奈(29)、父親で精神科医の修(59)、母親の浩子(61)ら親子3人が北海道警に死体遺棄などの容疑で逮捕された。
「Aさん殺害の実行犯は瑠奈1人だが、両親も計画を知っていたとして、後に3人とも殺人容疑で再逮捕されました」(社会部記者)
田村親子が暮らしたのは札幌市厚別区にある瀟洒な3階建ての邸宅。ホテルで切断され、持ち去られたAさんの頭部は、2階の浴室から見つかっている。
「頭部はポリ袋と容器に入れられ、腐敗が進んだ状態だったようです」(同前)

自宅からはその他、Aさんの衣類や私物、返り血を浴びたレインコート、多数の刃物類も押収された。そして、捜査員を最も震撼させたのが、冒頭のビデオカメラの存在だったのだ。
別の捜査関係者が語る。
「ビデオには背後から被害者に刃物を突き刺す襲撃の瞬間が収められていた。プレイの一環と思い込まされていたのか、無防備な被害者は成す術もなかった」
殺害後、瑠奈はノコギリなどを使ってAさんの頭部を切断。ビデオにそのシーンは映っていなかったが、
「被害者のスマホを工具で破壊する場面は撮影記録に残っていた。ビデオカメラは、瑠奈が23年の春、修にねだって買ってもらったものだった」(同前)
映像には“続き”があった。同じビデオカメラには、自宅に持ち帰ったAさんの頭部の映像が記録されていたのだ。しかも――。
「顔の一部がくり抜かれた上、皮膚の一部も剥がされ浴室内に吊るされていた。角度を変えながら被害者の頭部に触れる、白い手袋をつけた瑠奈らしき人物の両手も映っていた。つまり、こちらの動画は瑠奈ではない人物が撮影した可能性がある」(同前)

殺害場面や持ち帰った頭部をわざわざ録画していた瑠奈。母の浩子は逮捕前日、修の父である瑠奈の祖父に「瑠奈がAさんに乱暴された」旨の説明をしていたが、
「瑠奈の一連の行動からは、残酷な動画の撮影に対する強い執着も感じられる。逮捕直後の瑠奈は多重人格を主張していたが、供述に不明な点も多く、真の動機は見えてこない」(同前)
事件の異様さを際立たせるのは、これが親子ぐるみの犯行だったことだ。瑠奈の祖父は、一家3人が逮捕された23年の夏、小誌にこう打ち明けている。
「瑠奈を中心に、仲のいい家族だったよ。でも俺から言わせれば両親は過保護でね。そう言うと修は『父さんは古臭えから』って」
週末の夜にススキノを回遊する女装家として知られたAさんと瑠奈が初めて邂逅したのは、23年5月27日の夜。翌朝にかけて行われたクラブイベントで、ライトが乱反射する大音響の中、修は娘を遠巻きに見守っていた。Aさんと言葉を交わすシーンもあったという。
現在、親子3人は刑事責任能力を調べるため鑑定留置中。期限は年を跨いだ24年2月28日だ。無人となった田村邸には、北国の雪風が吹きつけている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年1月4日・11日号)