ビッグモーターの保険金不正請求に関する一連の問題が露見してから、2ヵ月が経過した。しかし、騒動はいまだに収束の気配すら見えない。
「不正が発覚した7月の全社の経常利益は約9億円のプラスでした。これは発覚前の4月と同水準です。しかし、これは5万台ある中古車在庫の一部を売り、利益確保に奔走した結果。客足は遠のく一方で、今後はさらに厳しい成績が予想されます」(営業部門に勤務する現役社員)
現在の最大の収益源となっている中古車在庫の販売。だが、そこにも新たな疑惑が持ち上がっている。業者向けの「オートオークション」が不正の温床だというのだ。その名の通り、業者が中古車を競売形式で売り買いするセリで、全国各地のオークション会社で1週間に合計10万台以上が取り引きされる。
そんな中古車業界の根幹を成す場で、ビッグモーターは準大手のオークション会社・X社と癒着し、不正に手を染めてきたという。関東地方にある別のオークション会社に勤務するAさんが明かす。
「ビッグモーターは会社ぐるみで『不正入札』を行っているんです。オークションでは規定上、自社の出品車への入札は禁止されています。自社出品に入札できれば、思い通りに値段を吊り上げられますから、これは発覚すれば一発で出入り禁止になるほど重大な不正行為です。しかしビッグモーターは、X社主催のオークションで、この不正入札を繰り返し、価格の吊り上げを図っているんです」
そう言うと、Aさんは自身も目撃したという不正入札の実態を話し始めた。
「先日、私が落札しようとした高級車で起きたことです。私は240万円弱まで値上がったときに降りたのですが、その後も2社が残り、値段はドンドン上昇。最終的に250万円弱まで高騰しました。値上がり具合に違和感を覚えたのでX社の知り合いに聞くと、実は入札者の片方はビッグモーターだったのです。ポス番号(出品・入札業社に与えられる番号)が一致していたというので間違いありません」
結果、競っていた中古車業者は10万円近く高い値段で落札することになった。
「オートオークションでは、主催社の担当者以外、入札者や落札者の情報がわからないようになっています。ほかの業者は、まさか自分が競っている相手が、出品者であるビッグモーターだとは想像もしていないと思います」(Aさん)
別のオークション会社関係者のBさんも続ける。
「ビッグモーターでは商品管理部という部署が、相場を吟味しながら希望売却額を決定します。そこに満たない場合、自社のアカウントを使って応札しているんです。社内では“ささえ”と言われているそうです。X社の前身企業にはビッグモーターの幹部も出向していました。兼重宏行前社長(72)を含め、経営陣も不正行為については把握しているはずです」
X社は全国展開しており、一番大きい関東の会場では1回のオークションで3000~4000台が売買される。なかでもビッグモーターの出品点数は膨大で、多いときで全体の6割ほどを占めるという。Bさんは憤りを露(あらわ)にする。
「今のオークションは、いわばビッグモーターの言い値で各業者が買い取っているような状況です。不正をしているほうが甘い汁を吸う……。そんなこと、絶対に許されてはいけないと思います」
現在も行われているという不正入札。AさんもBさんも「X社は認識したうえで黙認している」と断言する。それを裏付けるのが破格のキャンセル料だ。
「不正入札を続けていると、当然ながら自社の車を落札してしまうことが多々あります。だいたい3割くらいでしょうか。その場合は落札をキャンセルするのですが、通常であれば違約金と手数料で1台あたり6万円以上かかることになります。しかし、ビッグモーターはX社に対して1回のキャンセルについて数千円しか払っていないそうです。だからビッグモーターはとにかく入札して、落札してしまったらキャンセルすればいいんです。
またキャンセルしない場合もメリットはあります。落札価格は履歴として残りますし、それを参考にその後の同車種の相場が決まる。つまり、結果として相場が吊り上げられ、車を高く売れる可能性が出てくるのです」(Aさん)
しかし、なぜX社はビッグモーターにしかメリットのない不正を黙認しているのか。中古車業界に詳しい自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏が解説する。
「実はX社にとってもメリットしかないんです。まずは大口取引先であるビッグモーターから優先して出品してもらえます。オークションの主な収入源は出品料や成約料ですから、そのままX社の売り上げ増加につながる。
また落札価格の相場が高くなれば、業界内では『あそこに出せば高く売れる』として、出品する業者が増えます。参加者も増え、オークション会場としてのランクも上がる。X社にとっても甘い蜜がたくさんあるのです」
オークションにおける不正入札は本当に行われていたのか。ビッグモーターの広報部門に質問状を送ると、「現在事実関係を確認中ですので現時点での回答は控えさせて頂きます」と回答があった。
またX社の広報部に不正黙認の実態について問い合わせたが、「社内で事実関係を確認しておりますので、コメントを差し控えさせていただきます」とビッグモーターと同様の回答をするのみだった。
オークション会社と結託し、同業者を食いものにするビッグモーター。X社が全国区であることを踏まえれば、被害に遭った同業者は日本中に存在する。また、卸値の上昇は最終的に購買者である一般の人々にシワ寄せが及ぶことになる。
『弁護士法人・響』の古藤由佳弁護士は、「民事上、損害賠償責任を負うことはもちろん、刑事責任を問われることもあり得る」と指摘する。
「入札者と主催者側が組んで行う新しいタイプの談合と言えます。これによりほかの業者が商品価値を見誤って、通常より高いお金を払ってしまい経済的な損失を受けている。これは刑法上の詐欺罪になりえます。またX社も詐欺行為に大きすぎる役割を果たしている。幇助の域を超えており、正犯としてX社自体が詐欺罪に問われる可能性も高いです」
ビッグモーターのX社への出品は今も続いている。身から出た錆(さび)の穴埋めに、新たな不正に手を染める。再建に向け一番に必要なのは、その不正体質の改善だ。
『FRIDAY』2023年9月29日号より