日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を数十年歩、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、皇居内を勝手に徘徊した中国人について聞いた。
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【写真を見る】皇宮警察が隠蔽 中国人が皇居内を無断徘徊したルート 今回ご紹介するのは、2020年10月19日、皇居の敷地内で発生したある事件だ。

「皇居には、宮内庁書陵部が所蔵する資料を一般人でも閲覧できる資料室があります」 と解説するのは、勝丸氏。「閲覧するためには事前の予約が必要です。もちろん中に入れるのは資料室だけです。」皇居を1時間以上も勝手に徘徊して捕まった中国人の正体とは食堂で昼食 この日、ある中国人男性が資料室を訪れた。ところが、資料室で閲覧を終えた後、一般人の立ち入り禁止区域を徘徊したというのだ。 実は、週刊新潮は「No.2が『秋篠宮』に謝罪 皇族に悪口三昧『皇宮警察』で隠蔽された『中国人皇居侵入事件』」(2022年6月30日号)という記事で、皇宮警察OBの話としてこう報じている。《「本来なら利用者は最寄りの北桔橋(きたはねばし)門を通って皇居から退出すべきところ、男性は帰りに本丸から百人番所を経て、境界柵を不正に越えてしまったのです」 そこから、思いもよらぬ展開となった。「車馬課の前を通って宮内庁庁舎へと入り込んだ彼は、地下の食堂で昼食までとっています。その後は、宮殿の西玄関から北庭へと抜け、盆栽の仕立て場である大道庭園へ。引き返したところ、ようやく賢所通用門近くの『吹上仲門』で身柄を確保されたのです」》「中国人は、何人もの宮内庁職員とすれ違ったそうですが、資料室の閲覧者がつけるバッジを外していたため、誰も注意する者はいませんでした。北庭を歩いても注意されなかったのです」『警視庁公安部外事課』(光文社) 資料室を出てから身柄を拘束されるまで、1時間を超えていたという。「中国人の徘徊ルート上の近くには、坂下護衛署の友溜(ともだまり)警備派出所もありました。しかし、皇宮警察の護衛官は中国人を呼び止めなかった。その後の取り調べで中国人は、『道に迷った。お腹が減っていたので、食堂に入った』などと供述したそうです」中国人外交官の協力者 もっとも、中国人の名前がわかると、公安関係者は色めき立った。「その中国人は、中国大使館で諜報活動をしている中国人外交官の協力者ではないかと言われていて、公安がマークしていた人物だったんです。厳重に警備されている皇居をどこまで侵入できるか調べるために、皇居内をうろついたものと思われます。おそらく監視カメラはどのくらいあるのか、人間の体温を探知する(哺乳動物も探知)赤外線センサーは配置しているのか、当然チェックしたはずです」 中国人は、皇居の一般参賀の際、立ち入り禁止区域に侵入することがよくあるという。「団体で一般参賀に来る場合、宮内庁職員が案内をすることになっています。中国人は団体から抜け出して、立ち入り禁止区域に立ち入ることがよくある。護衛官に見つかると、『トイレに行きたくなった』といって言い訳するそうです」 もちろん、1時間以上も不法侵入者の身柄を確保できなかったことは、警察内部で大問題になった。「当時、警察庁警備局長だった大石吉彦警視総監は、ことの経緯を聞かされて激怒したそうです。自ら皇居に視察に行ったほどです」 この事件で、皇宮警察の警備の杜撰さが浮き彫りになった。「中国は、日本の警備体制は恐れるに足りないと思ったのではないでしょうか。皇宮警察はガードマンと同じで、はっきり言って暇な仕事です。事件を捜査することもないし、犯人を逮捕後、事情聴取することもないからです。暇を持て余しているから不祥事も多いとも言えます」勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/デイリー新潮編集部
今回ご紹介するのは、2020年10月19日、皇居の敷地内で発生したある事件だ。
「皇居には、宮内庁書陵部が所蔵する資料を一般人でも閲覧できる資料室があります」
と解説するのは、勝丸氏。
「閲覧するためには事前の予約が必要です。もちろん中に入れるのは資料室だけです。」
この日、ある中国人男性が資料室を訪れた。ところが、資料室で閲覧を終えた後、一般人の立ち入り禁止区域を徘徊したというのだ。
実は、週刊新潮は「No.2が『秋篠宮』に謝罪 皇族に悪口三昧『皇宮警察』で隠蔽された『中国人皇居侵入事件』」(2022年6月30日号)という記事で、皇宮警察OBの話としてこう報じている。
《「本来なら利用者は最寄りの北桔橋(きたはねばし)門を通って皇居から退出すべきところ、男性は帰りに本丸から百人番所を経て、境界柵を不正に越えてしまったのです」 そこから、思いもよらぬ展開となった。「車馬課の前を通って宮内庁庁舎へと入り込んだ彼は、地下の食堂で昼食までとっています。その後は、宮殿の西玄関から北庭へと抜け、盆栽の仕立て場である大道庭園へ。引き返したところ、ようやく賢所通用門近くの『吹上仲門』で身柄を確保されたのです」》
「中国人は、何人もの宮内庁職員とすれ違ったそうですが、資料室の閲覧者がつけるバッジを外していたため、誰も注意する者はいませんでした。北庭を歩いても注意されなかったのです」
資料室を出てから身柄を拘束されるまで、1時間を超えていたという。
「中国人の徘徊ルート上の近くには、坂下護衛署の友溜(ともだまり)警備派出所もありました。しかし、皇宮警察の護衛官は中国人を呼び止めなかった。その後の取り調べで中国人は、『道に迷った。お腹が減っていたので、食堂に入った』などと供述したそうです」
もっとも、中国人の名前がわかると、公安関係者は色めき立った。
「その中国人は、中国大使館で諜報活動をしている中国人外交官の協力者ではないかと言われていて、公安がマークしていた人物だったんです。厳重に警備されている皇居をどこまで侵入できるか調べるために、皇居内をうろついたものと思われます。おそらく監視カメラはどのくらいあるのか、人間の体温を探知する(哺乳動物も探知)赤外線センサーは配置しているのか、当然チェックしたはずです」
中国人は、皇居の一般参賀の際、立ち入り禁止区域に侵入することがよくあるという。
「団体で一般参賀に来る場合、宮内庁職員が案内をすることになっています。中国人は団体から抜け出して、立ち入り禁止区域に立ち入ることがよくある。護衛官に見つかると、『トイレに行きたくなった』といって言い訳するそうです」
もちろん、1時間以上も不法侵入者の身柄を確保できなかったことは、警察内部で大問題になった。
「当時、警察庁警備局長だった大石吉彦警視総監は、ことの経緯を聞かされて激怒したそうです。自ら皇居に視察に行ったほどです」
この事件で、皇宮警察の警備の杜撰さが浮き彫りになった。
「中国は、日本の警備体制は恐れるに足りないと思ったのではないでしょうか。皇宮警察はガードマンと同じで、はっきり言って暇な仕事です。事件を捜査することもないし、犯人を逮捕後、事情聴取することもないからです。暇を持て余しているから不祥事も多いとも言えます」
勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/
デイリー新潮編集部