ハンバーガーチェーン「バーガーキング」の日本事業が香港の投資ファンド「アフィニティ・エクイティ・パートナーズ」からアメリカの「ゴールドマン・サックス」に約700億円で買収される。日本のハンバーガーチェーン業界では、「マクドナルド」の圧倒的な独走が続き、業界2位の「モスバーガー」とも大きな差があるが、近年のバーガーキングは絶好調。
“日本上陸→撤退→再上陸→業績不振”という憂き目を見てきた“不遇の王”のイメージが強かったため、正直なところ好調だと聞いてもすぐにピンとこない人も多いだろう。ゴールドマン・サックスからも約700億円の価値があると認められた現在のバーガーキングについて、フードジャーナリストの山路力也氏に解説していただいた。(以下「」内は山路氏のコメント)
記事前編は【「バーガーキング」30年以上の苦戦のすえ、急成長…「開店ラッシュ」が続くワケ】から。
近年好調のバーガーキングだが、なぜマクドナルドやモスバーガーに追いつけないのか。背景にあるのは、日本のハンバーガー市場における“スタート時期の差”にあるそうだ。
「マクドナルドは1971年に日本1号店、モスバーガーは1972年に1号店を開業しています。一方、バーガーキングの上陸は1993年と約20年の開きがある。この20年間の差は決定的です。
マクドナルドはその間に、日本人の食習慣に合わせた商品設計、立地戦略、価格帯、オペレーション、物流網まで含めて“日本仕様のファストフード”を完成させました。モスバーガーも、“日本発のハンバーガーチェーン”として、価格が高くても“きちんとしたものを食べたいときの選択肢”という信頼を長年積み重ねていたのです。
一方、バーガーキングはどうしても後発の外資系に見られる。バーガーキングが見ている景色と、20年間先行していたマクドナルドやモスが見ている景色は、そもそも違うんです。この差は短期間では埋まりません」
商品力以前に、日本人の生活動線のなかにどれだけ溶け込んでいるか。その点で、店舗網の差は依然として大きいのが現実だ。
では、バーガーキングが今後売り上げや店舗数でモスを追い抜き、ハンバーガー業界2位に輝く未来は来るのか。この問いに対し、山路氏はまず前提そのものに疑問を投げかける。
「そもそも、バーガーキング自身が『モスを抜く』と明確に掲げているわけではありません」
ただし、今回の買収を機に、出店拡大へ本格的に舵を切る可能性は高いという。
「ゴールドマン・サックスのような投資会社は永遠に持ち続けるわけではありません。3年後、5年後を見据えて企業価値を高める必要がある。そのためには、店舗数を増やし売り上げを伸ばすしかありません。
ロードサイドや駅ナカ、商業施設、街中ビルの1階など、従来にとらわれない出店を進め、生活導線に入り込めるかどうか。“モスを抜くか”よりも先に、バーガーキングはいま、日本市場で本格的な拡大フェーズに入ろうとしている――そう考えるのが現実的ではないでしょうか」
また、今回の買収をめぐっては、バーガーキングのPR戦略そのものが高く評価されたのではないか、という見方もあるそうだ。この点について山路氏は、バーガーキングのプロモーションを非常にわかりやすい“チャレンジャー戦略”だと位置づける。
「バーガーキングは、典型的な“弱者の戦い方”ができているブランドです。攻めたPR、挑発的な表現、あえて悪目立ちする手法。これは王者と同じことをしても勝てない立場だからこそ選べる戦略なのです」
たしかにバーガーキングの広告やキャンペーンは、ネットやSNSでの話題性を意識したものが多い。特にマクドナルドと対立関係を明確に押し出し、煽るようなスタンスが印象的である。それは単なる“喧嘩腰”ではなく、限られた予算で最大限の認知を獲得するための合理的な選択だという。
「広告費で正面から殴り合えば、どう考えてもマクドナルドには勝てません。だからこそ、低予算で話題を作り、認知を一気に広げる。いわば“小さくても大きく見せる努力”を徹底しているんです」
山路氏は、こうした“王者と挑戦者”の構造を説明する例として、1970~80年代に繰り広げられた資生堂とカネボウの“夏のキャンペーン対決“を挙げた。
「化粧品業界では資生堂が圧倒的なトップブランドとして君臨していました。一方のカネボウは、売上規模や広告予算では資生堂に及ばない挑戦者の立場でしたが、毎年夏になると、テレビCMを中心に、テレビCMソングやキャンペーンモデルを駆使した熾烈なプロモーション競争を展開していました。
その結果、カネボウの化粧品は知名度とブランド力を高めたのです。王者がいて、そこに挑む存在がいる。その対立構造がわかりやすいからこそ、キャンペーン自体が記憶に残る。カネボウは資生堂がいるからこそ戦えたのです」
この関係性が現在のマクドナルドとバーガーキングにも重なるという。
「マクドナルドという絶対王者がいるから、バーガーキングは挑戦者としての立ち位置を取りやすい。正面から同じことをするのではなく、カウンターを打つ。王者がいるからこそ、対抗軸が際立つ。資生堂とカネボウがそうであったように、バーガーキングもまた、“マクドナルドがいる市場”だからこそ成立しているブランド戦略を歩んでいるのです」
――“不遇の王”は挑戦者として最もうまく立ち回る存在になっていたということだ。
(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)
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