筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして男女の悩み相談にのっています。今回の相談者は広岡紘一さん(仮名・66歳/嘱託職員)です。
前編「実は40代に多い「妊娠中絶」…「子どもができました」と告白すると、公務員は逃げ出した!婚活アプリで出会った男の「非情な仕打ち」と「父の怒り」」で説明してきたように、広岡さんの娘、美乃梨さん(仮名・40歳)は、婚活アプリで出会った男性と交際し妊娠しました。
ところが、公務員の彼から一方的に別れを切り出され、子どもを堕ろすように求められたのです。
美乃梨さんにはシングルマザーとして子どもを育てるだけの収入はなく、父親である広岡さんも援助する余裕はありません。
リクルートブライダル総研の婚活実態調査(2023年9月)によると、婚活サービスを通じて結婚した人の割合は15%に達しています。一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「マッチングアプリの利用状況に関するアンケート」(2021年12月)によると、マッチングアプリでトラブルにあった人のうち10%は「(相手が)婚活ではなく性行為を目的としていた」と答えています。
アプリで出会う相手は、赤の他人。妊娠してもそのまま別れてしまうひどい男にあう被害は、決して他人事ではありません。
前編で説明したように、美乃梨さんは彼から20万円を受け取っていました。これは初期中絶の手術費用です。例えば、妊娠3ヵ月以内の場合、胎児と胎盤を特殊な機器で吸い出すという手術なので、母体の負担は最小限で済みます。
しかし、美乃梨さんが手術に踏み切ったのは5ヵ月目。数日遅れると手遅れというタイミングでした。
美乃梨さんは当時40歳。年齢を考えると再度、妊娠できる保証はありません。最後のチャンスかもしれないと思った美乃梨さんは、妊娠中絶に踏み切れずにいました。
美乃梨さんは「なかなか踏ん切りがつけなくて…」と、父親に何度も相談したそうです。そのため、3ヵ月以内に決断することはできず、5ヵ月目が経過しましたが、逃げてしまった元彼の考えは変わりません。手術の同意書には、広岡さんが彼の名前を代筆し、美乃梨さんは中絶することにしました。
本来は、妊娠10ヵ月目で「生存した状態」で産まれてくる子は、亡くなった状態で無理やり美乃梨さんの体から引き離されました。また妊娠中期の中絶は、初期に比べ、母体への身体的な負担は計り知れないほど大きいのです。
さらに、中期中絶の手術にかかった費用は80万円でした。彼が用意した20万円ではまったく足りませんでした。
仕事をしていない広岡さんも費用の工面ができず、結局、「手持ちがないので娘の勤務先の病院に頼みました。院長が個人的に60万円を貸してくれた」と言います。しかし、1年での返済が貸付の条件でした。
胎児を失った喪失感や罪悪感のせいでしょうか、美乃梨さんは術後の経過が芳しくなく、夜も眠れない、食事も喉を通らず、不眠症、摂食障害などの症状は日増しに悪化するばかり。10ヵ月が経過した今も回復せず、結局、勤務先を退職せざるを得ませんでした。
院長からの借金が重くのしかかります。
ひとりの男の身勝手なふるまいで、娘がひどく傷ついている――。ついに広岡さんの怒りは頂点に達しました。院長への返済期限が迫るなか、せめて中絶の費用は男が支払うべきだと考えたのです。
広岡さんが筆者の事務所に電話をかけてきたのは、覚悟を決めたそんなタイミングでした。
広岡さんは彼の部屋を訪ね、インターフォンを押して「美乃梨の父です」と名乗ると、彼は「なんですか、今頃。もう終わったことですよね」と他人事のように言い放ちました。
彼は連絡を絶っておきながら、美乃梨さんが妊娠3ヵ月以内に中絶したと勝手に思い込んでいたのです。筆者は、前もって広岡さんに死産届と死胎火葬埋許可証のコピーをとるように助言していました。これが他ならぬ中期中絶の証拠になるからです。
中期中絶の場合、まず役所に死産届を提出します。そうすると役所は死胎火葬埋許可証を発行してくれます。
これを斎場に提出すると胎児を火葬してくれます。大人の場合、提出するのは死亡届、発行するのは火葬埋許可証です。つまり、胎児は大人の場合とほとんど同じなのです。
広岡さんはインターフォンの場面越しにこれらの書類を彼に見せたのですが、苛立ちのせいで手が小刻みに震えるのをおさえることができませんでした。その上で「20万円をいただいたことは娘から聞いています。しかし、実際には80万円もかかりました。残りの60万円は借金をしており、返済期限は年内なのです」と涙を流しながら訴えかけたのです。
胎児が火葬される姿を想像していたたまれなくなったのか、お金を払わないと広岡さんが立ち去ってくれないと悟ったのか、それとも職場や実家に押し掛けることを心配したのかは、分かりません。彼は、最終的には「ペイペイのギフトカードで60万を送ります」と約束してくれたのでした。そして後日、3回にわけてギフトカードが届いたようです。
厚生労働省によると2020年、中絶手術を受けた女性のうち、全体の8%はコロナが理由だと答えています。その理由は多い順に「パートナーの収入減少や失業中の妊娠であった」、「自身の収入減少や失業中の妊娠であった」、「妊娠継続中に感染するのが怖いため」、「外出自粛中のセックス回数増加のなかでの妊娠だから」。
参考までに避妊ありは全体の35%、なしは47%。事後にピルなどを飲む緊急避妊ありは全体の2%、なしは88%です。避妊をしないのは妊娠することを覚悟の上なのでしょう。
新型コロナウイルスの影響で、結婚するカップルが減り続けています。
統計(厚生労働省の人口動態統計)によると、コロナ後は令和2年が52万組、令和3年が50万組、令和4年が50万組と毎年、減少しています。コロナ前(令和元年は59万組)より2割も少なくなりましたが、それもそのはず。直接、会わない相手と交際し、求婚し、結婚するのは無理です。
感染対策が大幅に緩和された今年は、結婚数が回復することが予想されますが、それに伴って美乃梨さんのような婚活トラブルも増加する可能性があるでしょう。
さらに連載記事「「妻の裏切り」の決定的証拠がドライブレコーダーに記録されていた…!「避難生活」で壊れゆく「夫婦の仲」と「夫の覚悟」」では、さらに男女の問題について紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
「妻の裏切り」の決定的証拠がドライブレコーダーに記録されていた…!「避難生活」で壊れゆく「夫婦の仲」と「夫の覚悟」