〈「この人は認知症だから大丈夫」腕がパンパンに腫れあがっているのに救急車を呼ばなかったことも…高齢者の虐待が止まらない「介護現場のリアル」〉から続く
「ちょっと、何したの!?」――高齢者を足で蹴飛ばす男性介護士を目撃した50代の女性介護士。虐待行為を通報した彼女を襲った「予想外の仕打ち」とは? ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』(宝島社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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この職場では、若い男性介護士による暴力的な虐待もたびたび行われていたという証言もあった。
おむついじりを防ぐための介護用スーツというものがある。上田さんが働いていた施設では、服の上下がつながった形状の介護用スーツは、やむを得ない場合を除いて原則使用が禁止されている。そうしたルールを無視して、若い男性介護士が利用者にスーツを着用させていたというのだ。
薄暗い部屋で、利用者を冷たい床の上に寝かせる男性介護士。スーツを着せるのに手間取り、イライラしたのだろうか。介護士は横になっている利用者を足で蹴とばした。
「ちょっと、何したの!?」
偶然、その瞬間を目撃した上田さんは、男性介護士を問い詰めたが、逆にこう凄まれたという。
「虐待じゃないよ。周りもみんなわかっているから、何も言わないほうがいいよ」
こんなことが許されるはずはない。そう思った上田さんは後日、本社と県に通報の電話を入れた。いつ、誰が、何をしたか丁寧に伝えたが、本社や県の職員から、証拠はあるのかと問われて、何も答えられなかったという。結局、県から情報提供を受けた市が施設へ聞き取り調査を行ったが、施設には何のお咎めもなかった。それどころか、施設は通報した上田さんを事実上の“クビ”にしたという。
「私は見たままを伝えましたが、その後、市がどういう調査をしたのか私にはわかりません。結果を見れば、虐待はなかったということになったのでしょう。私は派遣だし、『辞めてくれ』と言われても全然平気。こんな職場に何の未練もありません。また別の施設に移ればいいだけですから」
その後、新しい職場に移った上田さん。そこでも同じような虐待を目にすることになる。
「例えば入浴介助の際、認知症の方やクレームを言えないような方に、1枚のタオルを3人で使い回していたんです。あとの方は濡れたタオルで身体を拭かれるので、冷たがっていました。バスマットが濡れていても交換する回数を減らしていました」
虐待は暴力などの身体的なものだけでなく、心理的、経済的なものまで広く含まれる。また虐待の程度もさまざまだ。上田さんが目撃したタオルの使い回しも明らかな虐待といえる。

「施設の総責任者がたびたび現場を見回って、無駄がないかチェックしています。おむつパッドを使い過ぎだとか何か気に食わないことがあると、職員を怒鳴り散らし、『明日から、もう来なくていいから』と脅す。タオルの使い回しも、こうした経営側の過剰な経費削減が原因で行われている。そうなると、スタッフも次第に感覚が麻痺していくんです。虐待していることに気付かなくなっていく」(上田さん)
(甚野 博則/Webオリジナル(外部転載))