照りつける太陽の下、アスファルトの上に座りこんでいるのは、小学校低学年の児童たち。その先には、「東ゲート」と表示された白く大きなディスプレイがある。
児童を大阪から引率してきていた小学校の教諭は、声を潜めてこう語る。
「まだ、春でよかったです。あと1ヵ月もすれば、アスファルトの上は熱すぎて座ることもできないんじゃないか。子どもたちにとっても先生たちにとっても、万博はあまりに恐ろしい場所だ」
大阪・関西万博が4月13日に開幕してもうすぐ1ヵ月が経過する。5月1日、2日は、ウィークデーとあって、遠足、社会見学、修学旅行など学校単位、団体の来場者が目立った。
大阪府は「子ども無料招待事業」を実施しており、また近隣に近畿地方の学校でも同様のプログラムがあるため、学校単位の来場者が目立つ。だが、冒頭のように万博には厳しい現実が待ち受けている。
「現代ビジネス」取材班が万博会場を訪れた5月1日は朝から快晴。ゲートが開く前から、大勢の人が押し寄せていた。移動手段の大動脈である地下鉄夢洲駅で下車し、階段をあがるとすぐ目の前が東ゲートだった。
「学校団体」という大きな案内パネルの方向に、遠足や修学旅行生が続々と向かっていく。「大阪市教育委員会」というボードを掲げた男性もいて、大阪市からの学校単位の来場者が多いようだ。
冒頭の小学校教諭は朝8時前に学校に集合し、会場に入れたのは10時半頃のことだった。
「みんな並んで。はぐれないように」
と声を枯らして叫ぶものの、万博内のバックミュージックの音量がうるさく、なかなか通じない。
「先生、ここで待つの? 暑いよ…」
「朝早かったから眠い」
と水筒の飲料をを口にしつつ不満を告げる子どもたちが何人もいる。
この小学校の行程表をのぞくと、パビリオン見学の予約の関係で、午前中は公式キャラクター・ミャクミャクのディスプレイの前での記念撮影や、大屋根「リング」の散策が予定されている。
「この暑さで小学校の低学年が、リングで歩き回っても体力を消耗するだけではないかな」
前出の教諭は心配げに話す。
この後、児童たちはエスカレーターでリングに登っていった。リングの高さは最頂部で20mであり、さえぎるものがない。日射しもダイレクトにぶつかってくる。5分ほど歩くと大粒の汗が噴き出てきた。
お昼ごろになると、ますます気温は上昇していった。スマートフォンで大阪の天気情報を確認すると23度。午後には25度ほどになる予報だった。
児童たちは、元気そうにリングを駆け回っていたが、体力がもつのだろうか。
午後3時前、前出の小学校教諭に再度、話を聞いてみた。
「まだ低学年ですからね。お昼にお弁当を食べた時点で、ぐったりしている児童がいました。熱中症というほどではないが、しんどそうな児童もいた。パビリオン見学は3か所でしたが、人気あるところは人が多すぎて、予約も取れないしぜんぜんダメですよ。
あと水が足らずに、多くの子どもたちが無料の給水所でかなり行列をつくりましたね。2時半には会場を出たいと思っていましたが、給水に時間をとられました。
この時点で熱中症など事故、アクシデントがなくほっとしています。
ただ調子の悪い児童は、パビリオン見学をせず日陰で休息させました。
リングが日よけになるという話ですが、そうとは思えなかった。これから来る学校は、さらに気象条件が悪くなるので大変でしょうね」
この先生は、実に疲れた表情でこう言葉を継いだ。
「万博に午前10時前に来て、昼休憩が1時間で、午後2時過ぎには帰る準備。万博を体験できるのは3時間、4時間ほど。
はっきり言うたら、児童にとっては万博弾丸ツアーや。こんなのをまだ低学年の小学校が団体で行くのは、やめたほうがいい、あまりにきつい……。いずれ体調不良の児童がかなり出るのは目に見えている」
その横で、引率された児童の一人はこうぼやいた。
「先生、暑くてやばい。お父さんにいうて、また連れてきてもらうわ。こんなんじゃおもしろうない」
翌日、5月2日は朝から雨模様で昼頃までは降り続くという予報だった。会場に行ってみると、東ゲートには傘をさして入場を待つ人の行列ができていた。
「学校団体」のゾーンには、中学生の団体が並んでいた。雨のため座ることもできず立って待つばかりだ。
「暑さも気になっていたが、雨とは、さらに心配だ」
と大阪の中学校教諭は天を仰いだ。
入場する10時半ころには、雨はさらに激しくなる。これが昼過ぎまで続くという天気予報だ。先述した小学校がそうであったように、学校単位の来場者のおきまりのコースは「ミャクミャクとの記念撮影」と「リングの散策」だ。これが午前中のプログラムに組み込まれている。
「こんな雨あしで、リングの上をまわるのはかなりリスクはある。傘じゃ視界が遮られるので、できるだけレインコートで歩くように指示しました」
リングの上では、風のせいで雨が斜めから吹き付けてくる。
「もう靴も服もびしょ濡れや」
「リングの下に避難したほうがええわ」
中学生からも悲鳴があがっていた。記者の靴も激しい雨と水たまりのせいで濡れてしまい、寒さが全身に染み渡る。子どもたちならなおさらのことだろう。
また、リングの下でも傘をさす人が多くみられた。大阪・関西万博、国際博覧会協会の副会長で、大阪府の吉村洋文知事はかねてから
「リングには参加する150か国、いろいろな価値観、多様性がある。それがリングで1つの輪になってつながる」
「雨よけ、日よけの効果もある」
と訴えていた。
また、自見はな子前万博担当大臣も
「日よけ・雨よけ機能も有しており、熱中症予防の効果も期待している」
と述べていた。
だが、リングがまったく雨よけになどなっていないことは明白だ。
白を基調にした7つのアーチが美しいアゼルバイジャンのパビリオン。売店前の入口では、スタッフが排水作業に追われていた。入口の動線が斜めになっており、真ん中付近に雨水がたまってしまうのだ。
「床の素材の関係か、スニーカーなどでは滑りやすい。雨水をためないようにしています。小さい子どもさんの来場も多いですから」
こう語るのは作業にあたっていたスタッフのひとり。
先の中学生の先生の帰り際、再度話を聞いた。
「雨でびしょびしょになってしまい、生徒が風邪をひかないか心配です。雨なのに、休憩所も屋外でした。リングの下はまったく雨よけにならない。屋内で休める場所がなく、
とんでもないですわ……。会場が海の上の埋め立て地なので、雨が降って風も強いと体感温度はより冷たく感じます。
それなのに自販機でも冷蔵の飲み物しかない。どうにかなりませんかね。午後からは雨がやんで屋内のパビリオンが見れて助かった。
けどトータルとして考えると、生徒をこんな場所には2度と引率したくない。本当に『冷たい』万博でした」
ある生徒はこの教諭に
「万博が健康っていうてたんやないの。こんなんやったら不健康になる」
とぼやいていた。
別の団体に同行していた医師はこう語る。
「万博は、来場者に優しくない。屋内でゆっくり休憩できる場所を真夏までに設置しないとダメですよ。6月になると急激に気温があがり、リングは直射日光にさらされる。海が横なので最初は心地いいが、暑さで一気に体力が奪われる。熱中症になる人が続出して、おおごとになりかねない。それに地下鉄のある東ゲートに来場者が殺到するので、その熱気と行列、待ち時間も問題だ。何かあった後では遅いので早く対応すべきです」
会場には大阪市の幹部の姿も目についた。そのひとりに暑さや雨について聞くと、こう裏事情を明かした。
「万博は、とにかく来場者が目標の2820万人に達するか、赤字にならないか、そこばかりに目がいってしまう。吉村知事や維新は政治と万博成功を結びつけようとする思惑が
あると感じる。来場者数の目標と黒字を達成し、政治的な人気回復をさせようという意識が先にあるようだ。だから暑さや雨対策といったことが、後手にまわっている」
かつて維新に所属していた、大阪府交野市の山本景市長はその姿勢にXでこうポストしている。
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