〈「求められるなら、率先してマッドサイエンティストになる」米村でんじろう(70)が“ヤバい実験”を繰り返す理由〉から続く
「助手を溶かしてしまったこともあります」「事情聴取もされました」
【イケメンすぎ!!】「3浪」「落ちこぼれ」だった、でんじろう先生の青春時代をたっぷり見る
サイエンスプロデューサーとして活躍する米村でんじろうさん(70)。近年はインパクトの強い実験が話題になることも多く、“マッドサイエンティスト”というイメージもつきまとう。
これまでの実験の中でもとくにヤバかったものや、マッドサイエンティストとして見られることへの思いを聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)
山元茂樹/文藝春秋(以下同)
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――自ら体を張った実験をする姿などから「米村でんじろう先生=マッドサイエンティスト」というイメージもあります。
米村でんじろうさん(以下、でんじろう) 出演したテレビ番組側がレールを敷いた影響が大きいですね。一番は『世界一受けたい授業』(日本テレビ)かな。
当初は真面目に授業っぽく進めていたのが、次第にキャラクター性を強める方向に寄っていって、 ダーク寄りでスリリングな実験のときは「ブラックでんじろう」、正月は紅白モチーフの「紅白でんじろう」、環境テーマは「グリーンでんじろう」などを試し、その中でとくに反響の大きかった「ブラックでんじろう」が残っていった流れです。
――でんじろう先生自身、「ブラックでんじろう」のような派手でスリリングな実験が好きなんですか?
でんじろう 個人的には、狭いテーマをじっくり深掘りして「あまり知られていないけど、やってみたらこういうことが分かった」という方向性が好きですね。ただ、その手の企画は伝わりにくく、受けがよくないことも多い。
自分が「これ、誰もやってないよな」と思っても自己満足で終わりがちで、視聴者には面白さが届かないんです。一方で、誰でも知っていそうな一般的なネタでも「初めて見ました!」という反応がつくことは多くて。深すぎても狭すぎてもダメで、視聴者層に合わせて見せ方を調整しないと届かないんですよね。
――テレビ番組『でんじろう先生のはぴエネ!』のYouTubeチャンネルにアップしている実験動画は、定期的に「ヤバい実験」と話題になります。
でんじろう 原理を丁寧に解説していますが、それに関するコメントはほとんどつきません。ネット民にウケるようなことをすると、大喜利のようなコメントが増えて、真面目なコメントが埋もれていきます。真面目な回は真面目なコメントが増えるけれど、再生回数は伸びにくい。ジレンマですね。
――再生数の多い動画を見ると、古代の武器を豪快に扱う実験や、インパクトのある表情のサムネイルが採用されたヤバい雰囲気のあふれるものがたしかに目立ちますね。
でんじろう 最近の実験でいえば、「鎖のムチ」ですね。鎖のムチの先端のほうに布をつけ、燃料をしみこませて、火をつけて振る実験です。SNSでは「炎のムチ」と話題になりました。
見た目からしてヤバいし、スタジオでやるのにも緊張感がありました。屋外でやると消防車を呼ばれかねないので事前のテスト実験がしにくいので。
――これまで取り組まれてきた中で、とくにヤバかった実験を教えてください。
でんじろう 実験メインで「派手にやろう」という要求が強かった番組では、結構攻めた実験をしました。
『風雲!たけし城』みたいなノリで、プールを貸し切って炭酸ガスボンベを背負い、芸人さんがボンベを噴射しながら爆速で泳ぐ–という企画もありました。ところが実際は全然進まない。芸人さんは沈みかけるし、炭酸ガスでむせるし(笑)。
爆発系もたくさんやりました。酸化した金属とアルミニウムを混ぜて着火すると爆発のような現象を起こす「テルミット反応」というものがあって、通常の実験はごく小規模でやるのですが、ドラム缶単位でやる、といった無茶な規模感でした。安全確保のために少しずつ材料の量を増やして段階を踏みましたが、最終的には噴火のような爆発になって、待機していた消防隊員の方も本気でびっくりしていましたよ。
――一歩間違えると、かなり危険ですね。
でんじろう でも、見た目が派手な実験ほど十分注意してやるので、案外トラブルは少ないんですよ。一方で「これくらいは平気でしょ」という実験のほうが、油断してしまうから危ないことが多い。
ああ、ヤバい実験でいえば、助手を溶かしてしまったこともありました。
――さすがにヤバすぎます。
でんじろう オレンジの皮から抽出するオレンジオイルをご存じですか? 一見ただのオイルなんですが、発泡スチロールに吹きかけると、化学反応を起こして溶けるんですよ。これを使って、体中にオレンジオイルを塗って発泡スチロールの壁に突っ込めば、ギャグ漫画みたいに人の形の穴ができるんじゃないかと、ある番組が提案してきて。
――そんなことできるんですか?
でんじろう 最初は「無理だと思います」と伝えました。でも、「とりあえずやってみよう」となったんです。それで、まずは人の形に溶けるのかを検証する、いわば前段階の実験をしようと。
助手に黒い全身タイツを着せて、一斗缶いっぱいに入れたオレンジオイルをかぶってもらい、巨大な発泡スチロールの上に寝てもらいました。すると発泡スチロールがみるみる溶けたところまではよかったんですが、黒タイツの色も移って、発泡スチロールが黒く染まっていくんです。
そこまでは想定内でしたが、助手が「痛い! 痛い!」と訴え始めて……。どうやら皮膚に炎症が起きてる様子でした。とくに肌の弱い部位、ワキや股間などに強く反応が出てしまって。みんなで「大丈夫!?」と言いながら、全身を水で洗い流しても、痛みが引かない。
――心配な状況ですね。
でんじろう 夜も遅かったので病院も開いていないだろうし、炎症もひどくなってきたので救急車を呼びました。救急車を呼ぶと、消防車とパトカーも一緒に来るんですよね。警察からは事情聴取もされました。「えっ!? でんじろう先生じゃないですか? 何やってたんですか?」と聞かれるわけです。
「実際のものを見せてください」と言われるんですが、出すとしても真っ黒に溶けた発泡スチロールしかありません。「全身にオレンジオイルを塗って、発泡スチロールを溶かしていたら、人間まで溶けちゃいました」なんて、あまりにバカバカしくて、説明しづらかったです。
――その実験はテレビで放送されたんですか?
でんじろう 放送はされていません。こういうお蔵入りは意外と多くて、準備段階での方向転換、本番での方針変更、さらに編集段階で大幅に削られることも珍しくありません。皆さんの目に触れているのは、あくまでごく一部なんです。
INFORMATION
『でんじろう先生のはぴエネ!』毎週土曜午前11時25分~中京テレビで放送中!【公式YouTubeチャンネル】https://www.youtube.com/@hapiene
(福永 太郎)