アフリカ「ホームタウン」騒ぎが広がった三つの要因 「移民受け入れではないか!」と炎上を招いた言葉

8月21日に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の公式イベントで、愛媛県今治市、千葉県木更津市、新潟県三条市、山形県長井市の4市が、独立行政法人国際協力機構(JICA)によるアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定された。
しかし、このことがアフリカの英字紙などで報道されると「移民受け入れ」であるという誤解を生み、SNSで炎上。木更津市には認定直後からわずか3日間で1000件以上の問い合わせが殺到し、通常業務に支障をきたす事態に発展した。
今回の騒動では、まず「言葉」の行き違いが大きかった。
発端となったのは、長井市のホームタウンとなったタンザニアの英字紙『The Tanzania Times』が報じた記事だ。タイトルには、
と記されていた。直訳すると「日本が長井市をタンザニアに捧げる」という意味になる。
これがSNSで「移民の受け入れではないか」と受け取られ、情報が急速に拡散した。
たしかに英語の “dedicate” は、日常的には「捧げる」「献呈する」の意味が強い。一方で、行政や政策文書では、資金や土地、施設を特定の用途に「充てる」という意味でも広く使われる。
今回の見出しを直訳すれば「日本は長井市をタンザニア専用に充てた」となる。つまり本来は「日本は長井市をタンザニアの交流拠点に指定した」というニュアンスであったはずだ。
だが、見出しの段階で「交流拠点に」という言葉が抜けたため、「捧げる」というニュアンスが強く伝わってしまったのだろう。
もうひとつは、「交流拠点」という意味合いで使われている「ホームタウン」という言葉だ。
「ホームタウン」=hometownは、直訳すると「故郷」。英語圏でも基本的には同義で使われる。
だが、日本において「ホームタウン」という言葉は、Jリーグなどのスポーツや政策用語として「拠点」「交流先」の意味に拡張されている。
今回のJICAによる「アフリカ・ホームタウン」事業の狙いは、東京オリンピック・パラリンピックの際の「ホストタウン」の経験を土台に、アフリカとの国際協力や人材交流を長期的に進める「共創の拠点」を設けることにある。
JICA構想も、「交流拠点」として「ホームタウン」という語を採用しているとわかる。
構想の元となった「ホストタウン」=host townは、英語で何かを「受け入れる町」という意味を持つ。
東京五輪の際に問題とならなかったのは、「ホストタウン」という言葉が、自治体が大会参加国の選手団を迎え、スポーツや文化交流を進める仕組みであることが周知され、「外国人を受け入れる場所」というイメージが定着していたからだ。
これらふたつの言葉にあるニュアンスの違いが、行き違いを生んだのは間違いない。
だが、そのうえで、SNSなどで外国人に対する視線が厳しくなっている現状において、前もって十分な情報発信がなかったことが最も大きな問題だろう。これが三つ目の要因だ。
制度自体の説明不足が誤報を呼び、その誤報と相まって不安を拡大させてしまったのだ。
JICAは8月25日、「『JICAアフリカ・ホームタウン』に関する報道について」というリリースを出し、「アフリカの現地紙(タンザニア『The Tanzania Times』やナイジェリア『Premium Times』)等による報道や現地政府による発信の内容に、事実と異なる内容および誤解を招く表現等が含まれております」と声明を出した。
あわせて「これら現地の報道等について、内容の訂正を速やかに行うよう申し入れを進めています」と発表した。
JICAはこれまで、アフリカの国々と多くの施策で友好関係を築いてきた。そして国の枠を超えて協力し合いながら、さまざまな活動を行ってきた。
今回の件がその活動の妨げとならないよう、今後はより積極的な情報発信が求められるだろう。