先月5日、東京・板橋区の路上で横断歩道を渡っていた88歳の女性を乗用車ではねて死亡させ、そのまま逃走したとして51歳の男が逮捕されました。 ひき逃げなどの疑いで逮捕された板橋区の会社員・牧野利充容疑者(51)は、先月5日の午後1時半すぎ、板橋区の路上で、徒歩で横断歩道を渡っていた近くに住む塩井久美子さん(88)を乗用車ではねて死亡させ、そのまま逃走した疑いがもたれています。 警視庁によりますと、塩井さんは1人で歩いていたところ、牧野容疑者の乗用車にひかれて頭を強く打ち、事故から10日後に死亡しました。 防犯カメラなどの捜査で逮捕に至ったということで、牧野容疑者の乗用車の左前方部分には人とぶつかったような傷があったということです。 取り調べに対し、牧野容疑者は「歩行者にぶつかってはいません」と容疑を否認しています。
〈「死球・併殺・盗塁」が消える?〉「殺せ」「刺せ」が飛び交う野球界に問題提起した宮城県高野連を直撃…「言葉狩り」批判に理事長の“真意”
「一死」「併殺」「死球」「盗塁」――。野球で長く使われてきた用語をめぐり、宮城県高野連が「考えてみませんか?」と問題提起し、波紋が広がっている。「言葉狩り」との批判も相次ぐなか、宮城県高野連の松本嘉次理事長にその真意を聞いた。
【画像】見直し検討の野球用語の言い換え例「犠牲バント」→「貢献バント」…では「盗塁」「一死」は?
高校野球は今、変革の時期を迎えている。投手の負担軽減を目指し、「1週間で500球以内」という球数制限を2020年から試行し、2025年からは正式採用された。
夏の甲子園でも酷暑対策としてクーリングタイムを設けたり、暑さがもっとも厳しくなる昼過ぎの時間帯を避けるよう試合開始時刻を調整している。また、準々決勝の翌日、準決勝の翌日に休養日を設け、以前のような過度な連戦を避ける試みも行っている。
今夏からは高校野球の全国大会では初めてビデオ検証を導入。過去に物議をかもしたこともある判定をめぐる問題についても、より正確な判定を目指す仕組みを導入した。
そんな中、宮城県高校野球連盟が打ち出したある案が話題となっている。それが、「野球用語の見直し」だ。
野球用語には「一死・二死」「併殺・刺殺・補殺」「犠牲バント」「死球」「盗塁」など、「死」「殺」「刺」「盗」「犠」といった文字を含むものが多い。宮城県高野連は、その一部について「教育的配慮が必要」と問題提起している。こういった表現に代わる言葉を考えてみよう――。野球の普及振興活動の一環でもある取り組みだが、これが思わぬ反響を呼んだ。
SNSでは「言葉狩りだ」「野球用語をそんな意味で使うヤツなんていない」など、賛否というよりは「否」の意見が目立つ。また、この取り組みがメディアでも取り上げられると、野球関係者や「野球好き」の著名人からも概ね懐疑的な意見が寄せられている。
この取り組みの意図を理解せず、単に乱暴な言葉をSNS上で発信しているケースは別として、多くの人の脳裏によぎったのは、おそらく「そこじゃない感」だろう。高校野球に何かしらの変革が必要なことは多くの人が理解している。
何かを変えなければいけない――。ただ、「そこの変革なのか?」と言う疑問が残る。
筆者自身、その感覚はある程度理解できる。ただ、宮城高野連の発信を読み込んでいくと、多くの批判も、ちょっとした認識のすれ違いから生まれているように思える。このテーマを取り扱う上で、まず話を聞くべきは当事者だろう。そこで、宮城高野連の松本嘉次理事長に、「野球用語の見直し」についての真意を聞いてみることにした。
「多くの反響をいただいて、正直おどろいてもいます。この取り組み自体も実は1年以上前から始めているものです。それが今年に入っていきなり大々的に取り上げられた。私たちとしては、野球用語をいきなり『変える』とは一言も言っていません。
高野連のホームページを見てもらえばわかりますが、『野球用語を考えてみませんか?』と投げかけているんです。まだ検討委員会も開かれていませんし、まずはみんなで考えてみよう。そういった段階です」
批判的な意見を持つ人たちと、当事者でもある高野連の間には、やや温度差を感じる。そこには、この取り組みの本質をめぐる、微妙な認識の違いが隠されている。
「そもそものきっかけは、『野球用語』そのものよりも、野球の現場で日常的に飛び交っている言葉です。たとえば練習や試合で、指導者や選手から『(走者を)殺せ!刺せ!』『お前は死んでもいいから!』といった言葉が出るのは、野球の世界では決して珍しくありません。おそらく、経験者であれば大した違和感も持たないはずです。
ただ、『殺せ』『刺せ』といった言葉は、現代の教育現場ではまず使わない。でも、野球ではなんの違和感もなく使われている。その理由のひとつに、野球用語に当たり前のように使われている「死」や「殺」という言葉があるのでは……そう考えたんです」
筆者自身、野球経験者でもあり、仕事で野球の現場に足を運ぶことも多い。たしかに、こういった言葉を耳にしたことはある。ただ、多くの人がそうであるように、そこに違和感を覚えたことはなかった。松本理事長は続ける。
「たしかに、野球をやってきた人間からすれば当たり前の言葉です。本当に「死」や「殺す」という意味で使われていないこともわかっています。ただ、たとえばなにも知らない子どもが、はじめて野球の現場を訪れたとき、当たり前のように『殺せ!』という言葉が飛び交っていたら、どう思うか。
もしかしたら、『ちょっと怖いな』という印象を与えてしまうかもしれない。そんな可能性があるなら、時代に合わせて、新しい野球用語を模索してみてもいいのでは……そういう思いがこの取り組みにはあります」
野球界は現在、少子化や子どもたちが選択する競技の多様化に伴う競技人口減少に悩まされている。そんな中、宮城県では今年度、硬式野球部の1年生部員が前年より増加している。一方、県高野連では以前から野球人口拡大に向けた普及振興活動を進めており、「野球用語を考えてみませんか?」という取り組みも2025年7月から続けている。
そう考えると、宮城高野連の考え方と、それに否定的な意見を持つ人たちの「すれ違い」の構図がはっきりする。
今回の件に否定的な感情を持つ人の多くは、「野球を知っている人」だろう。知っているからこそ、慣れ親しんだ言葉にも、それを使うことにも違和感はないし、疑問も生まれない。
世間的には「物騒」と言われる言葉であっても、そんな意図で使っていないことは明白だ。だからこそ、そこに「NO」を突き付けられたと感じれば「それは、ちょっと違うのでは?」と違和感を持ってしまう。そう感じる人がいるのも自然だろう。
一方の高野連が見ているのは「すでに野球を知っている人」ではない。「まだ野球を知らない人」、特に子どもたちが、なにも知らずに「殺せ!」「刺せ」といった野球界で使われる言葉に触れたとき、どう感じるか。もちろん、「野球って、そういうものなんだろう」と、すんなり受け入れることができる子どももいるだろう。一方で、そうではない子もいるかもしれない。
どちらが良い・悪い、正しい・間違っている、という単純な話ではない。ただ、今回の「野球用語の見直し」が世間で言われているような単純な「言葉狩り」ではないことは、知るべきだろう。
「100年以上も使われている野球用語を簡単に『変えよう』などとは思っていません。ただ、たとえば令和の現代に日本に野球がやってきたとして、当時と同じように『殺』『刺』といった言葉に翻訳するのか……と考えたら、違う言葉もありえるんじゃないか。そうやって議論を重ねてもいいのではないか。それが、この取り組みが目指しているところなんです」
松本理事長が語るように、まずすべきは「議論」だろう。しかし、賛否の意見をぶつけ合うにはまず、事の本質を理解しなければならない。
「野球用語を見直す」――。宮城高野連の取り組みは、果たして本当に「単なる言葉狩り」なのか。今一度、立ち返ってみる必要があるように思える。
取材・文/花田雪