岸田総理大臣が、ASEAN関連の首脳会議、G20サミット、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に出席するため、8日間の外遊に出ている。13日には、およそ3年ぶりとなる正式な日韓首脳会談が行われた。
【映像】喪服姿で献花する麻生太郎氏 梨泰院事故犠牲者を悼む なぜこのタイミングで首脳会談が行われたのだろうか。背景についてテレビ朝日・政治部の澤井尚子記者は「そもそもが異常な状態だった」と話す。「隣国でありながら、日本と韓国はこれまで3年間ものあいだ会談ができない、という異常な状況にありました。今回、45分間の『会談が成立した』こと自体が大きな進展です。ただ、前の文在寅政権下で戦後最悪といわれるほど、こじれた日韓関係を前に進めるには、日韓双方の政治的パワー、腕力がどれくらいあるかがポイントになってきます」(以下、澤井尚子記者)
岸田総理は今回の外遊に発つ直前、「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職だ」などと発言した葉梨元法務大臣が辞任。さらに、総理に近い寺田総務大臣が政治資金の問題で、いまも野党の追及を受け続け、“辞任ドミノ”の可能性も指摘されている。 一方、尹政権も発足から短い期間で支持率が低下。梨泰院のハロウィン事故の責任も問われる中、この内政で不安を抱える2人が、どこまで関係を正常化できるのか。「先はまだ見えていない」と澤井記者は語る。「まず、日本では“嫌韓”(けんかん)という言葉があるように、いろいろな懸案が積み重なったことで、韓国に親しみを抱いていない一定の人がいるのも事実です。特に自民党の岩盤支持層といわれるような保守層に多く、政権の支持率が落ち込む中で、韓国との関係改善に取り組むのは難しいでしょう。また、韓国側も3月の大統領選挙で大接戦だったように、いまの親日的な保守政権を批判し、前の文在寅政権のように、北朝鮮との融和を優先する進歩的な人たちもいますので、簡単に政策を前に進められません」 そうした中で行われた3年ぶりの日韓首脳会談。そもそも、なぜ今まで3年間も行われなかっただろうか。「韓国が実効支配する島根県・竹島問題や、新潟市の『佐渡島金山』世界遺産登録への反対運動、慰安婦合意の破棄、元徴用工訴訟による現金化問題などの懸案が関係しています。過去、竹島には大統領、最近では警察のトップが上陸しました。そのほか、韓国軍による海上自衛隊機へのレーダー照射問題もあります。さらに、慰安婦合意の“ちゃぶ台返し”です。15年に『最終的かつ不可逆的に解決』したはずですが、一方的に韓国側が破棄をし、世界各地での慰安婦像の建設なども進めています」 中でも、最大の懸案が、元徴用工をめぐる問題だと澤井記者は指摘する。「日韓請求権協定では解決済みとされた元徴用工訴訟の問題ですが、韓国で裁判が起きて、最高裁で日本企業の賠償命令が確定しました。その後、韓国側は賠償のために日本企業の資産を取り押さえて売却しようとしています。いわゆる『現金化』の最終段階です」 これまで「労働者問題(元徴用工問題)がクリアされなければ、正式な会談はできない」と慎重な姿勢を貫いてきた日本政府。一転して、今回正式な会談が行われることになった。「今回、日韓首脳会談が行われた背景には、大きくわけて3つあります。1つ目は、安全保障環境の悪化です。北朝鮮から今年に入って30回以上という例のない頻度で弾道ミサイルを発射しています。さらに、ロシアはウクライナの侵攻を続け、中国は一強体制で他国への威圧を強めています。このように、日本は、北・ロシア・中国と3正面作戦が迫られる中で、日米同盟・米韓同盟という、お互いにアメリカを同盟国に持つ隣国として、連携していく重要性を再認識しました。アメリカも以前から、日韓の連携を望んでいて、働きかけていました」 実際に、北朝鮮から発射されるミサイルの情報共有や、日米韓3カ国でミサイル共同対処訓練を行うなど、安全保障上の連携も進んだという。自民党内の反応はどのようになっているのだろうか。2つ目の背景として、澤井記者は「麻生副総裁の存在が大きい」と話す。「今月初旬、訪韓した麻生副総裁が、尹大統領と会って『あいつはやる気だぞ』と日韓関係改善に向けた尹大統領の本気度に“お墨付き”を与えました。これにより、今回の首脳会談が実現したと、政府関係者は話しています」 澤井記者によると、外交には、総理や外務大臣という“表ルート”と“裏ルート”があるという。「韓国や中国など、表の外交関係がうまくいってないときには『議員外交』など、いわば裏ルートが重要になってきます。実は、麻生さんは日韓協力委員会の会長を2013年から務めています。ただ、どちらかといえば韓国に厳しい物言いをする政治家です。そういう人が、お墨付きを与えたことで『保守層の納得も得やすいだろう』という岸田総理の計算もあったと思います」 麻生副総裁の立ち回りによって、実現した日韓首脳会談。ただ、この訪韓には、ちょっとした“裏話”があると澤井記者は話す。「実は、麻生さんが訪韓した同じ日に、永田町で麻生さんと“犬猿の仲”と知られる、武田良太衆議院議員がソウルを訪問予定でした。武田衆議院議員は麻生さんと同じ福岡県出身で『日韓議員連盟』の幹事長を務めています。これにより、永田町はかなりざわつきました」 「ハブとマングース」と表現されるほど、犬猿の仲だという麻生副総裁と武田衆議院議員。なぜ、同じタイミングで訪問することになったのか。「2人は本当に目も合わせないような関係です。ソウル滞在中も、別行動で、尹大統領への表敬も、梨泰院の献花も別々に行いました。今回、3年ぶりの日韓首脳会談実現の成果はある程度、既定路線として見込まれていた中で『誰がその立役者となるのか』という政治的な争いもあり『麻生副総裁が横取りした形だ』と解説する人もいます」 3つ目の元徴用工の訴訟問題では、何か進展があったのだろうか。「今回の会談では『懸案の早期解決をはかることで改めて一致した』にとどまっていて、まだ韓国側から具体的な解決策は示されていません。ですが、日本企業に賠償させるために、企業の資産を差し押さえて、売却して現金化するための司法手続きが行われています。そうした『現金化』という事態だけは避けなければならない。これは、日韓両政府で一致しているんです。実際には、事務方を通してのやりとりは頻繁に行われていて、取材によると、いわゆる『肩代わり案』で最終調整されていることがわかっています」 肩代わり案は、韓国の最高裁で敗訴した日本企業の賠償金を、韓国の財団が肩代わりして支払う案だという。「日本としては実害を避ける形ですし、さらに、外務省幹部は『日本企業による財団への拠出も、謝罪も考えていない』としています。ただ、日本政府関係者は『肩代わりという表現も良くない』と話していて『あくまで韓国側で処理するということだ』と強調しています」 日本側の実害はないように見える肩代わり案。何が日本にとって問題なのだろうか。「『肩代わり案』は、日本の懐自体は痛まないのですが『賠償の責任を認めることが問題だ』という指摘があります。日本政府としては、1965年に韓国と国交を結ぶ際に『日韓請求権協定』で、合計5億ドルもの供与を行っていて、解決済みの立場です。なので、日本政府としては、その後に起こされた裁判自体を認めるべきでないと思っているのです。韓国政府が、この最高裁判決を覆すのは困難です」 また、視聴者から寄せられた「支持率低迷同士、傷を舐め合っている」という指摘に澤井記者は、こう述べる。「今後の日韓関係改善に期待したいところですが、尹大統領の支持率が低迷するなかで、日本側に大きく譲歩するのは、政権として相当難しいでしょう。1年おきの往来、いわゆる首脳のシャトル外交が復活するかどうかは、元徴用工をめぐる問題が解決してからになりそうです」(ABEMA/倍速ニュース)
なぜこのタイミングで首脳会談が行われたのだろうか。背景についてテレビ朝日・政治部の澤井尚子記者は「そもそもが異常な状態だった」と話す。
「隣国でありながら、日本と韓国はこれまで3年間ものあいだ会談ができない、という異常な状況にありました。今回、45分間の『会談が成立した』こと自体が大きな進展です。ただ、前の文在寅政権下で戦後最悪といわれるほど、こじれた日韓関係を前に進めるには、日韓双方の政治的パワー、腕力がどれくらいあるかがポイントになってきます」(以下、澤井尚子記者)
岸田総理は今回の外遊に発つ直前、「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職だ」などと発言した葉梨元法務大臣が辞任。さらに、総理に近い寺田総務大臣が政治資金の問題で、いまも野党の追及を受け続け、“辞任ドミノ”の可能性も指摘されている。
一方、尹政権も発足から短い期間で支持率が低下。梨泰院のハロウィン事故の責任も問われる中、この内政で不安を抱える2人が、どこまで関係を正常化できるのか。「先はまだ見えていない」と澤井記者は語る。
「まず、日本では“嫌韓”(けんかん)という言葉があるように、いろいろな懸案が積み重なったことで、韓国に親しみを抱いていない一定の人がいるのも事実です。特に自民党の岩盤支持層といわれるような保守層に多く、政権の支持率が落ち込む中で、韓国との関係改善に取り組むのは難しいでしょう。また、韓国側も3月の大統領選挙で大接戦だったように、いまの親日的な保守政権を批判し、前の文在寅政権のように、北朝鮮との融和を優先する進歩的な人たちもいますので、簡単に政策を前に進められません」
そうした中で行われた3年ぶりの日韓首脳会談。そもそも、なぜ今まで3年間も行われなかっただろうか。
「韓国が実効支配する島根県・竹島問題や、新潟市の『佐渡島金山』世界遺産登録への反対運動、慰安婦合意の破棄、元徴用工訴訟による現金化問題などの懸案が関係しています。過去、竹島には大統領、最近では警察のトップが上陸しました。そのほか、韓国軍による海上自衛隊機へのレーダー照射問題もあります。さらに、慰安婦合意の“ちゃぶ台返し”です。15年に『最終的かつ不可逆的に解決』したはずですが、一方的に韓国側が破棄をし、世界各地での慰安婦像の建設なども進めています」
中でも、最大の懸案が、元徴用工をめぐる問題だと澤井記者は指摘する。
「日韓請求権協定では解決済みとされた元徴用工訴訟の問題ですが、韓国で裁判が起きて、最高裁で日本企業の賠償命令が確定しました。その後、韓国側は賠償のために日本企業の資産を取り押さえて売却しようとしています。いわゆる『現金化』の最終段階です」
これまで「労働者問題(元徴用工問題)がクリアされなければ、正式な会談はできない」と慎重な姿勢を貫いてきた日本政府。一転して、今回正式な会談が行われることになった。
「今回、日韓首脳会談が行われた背景には、大きくわけて3つあります。1つ目は、安全保障環境の悪化です。北朝鮮から今年に入って30回以上という例のない頻度で弾道ミサイルを発射しています。さらに、ロシアはウクライナの侵攻を続け、中国は一強体制で他国への威圧を強めています。このように、日本は、北・ロシア・中国と3正面作戦が迫られる中で、日米同盟・米韓同盟という、お互いにアメリカを同盟国に持つ隣国として、連携していく重要性を再認識しました。アメリカも以前から、日韓の連携を望んでいて、働きかけていました」
実際に、北朝鮮から発射されるミサイルの情報共有や、日米韓3カ国でミサイル共同対処訓練を行うなど、安全保障上の連携も進んだという。自民党内の反応はどのようになっているのだろうか。2つ目の背景として、澤井記者は「麻生副総裁の存在が大きい」と話す。
「今月初旬、訪韓した麻生副総裁が、尹大統領と会って『あいつはやる気だぞ』と日韓関係改善に向けた尹大統領の本気度に“お墨付き”を与えました。これにより、今回の首脳会談が実現したと、政府関係者は話しています」
澤井記者によると、外交には、総理や外務大臣という“表ルート”と“裏ルート”があるという。
「韓国や中国など、表の外交関係がうまくいってないときには『議員外交』など、いわば裏ルートが重要になってきます。実は、麻生さんは日韓協力委員会の会長を2013年から務めています。ただ、どちらかといえば韓国に厳しい物言いをする政治家です。そういう人が、お墨付きを与えたことで『保守層の納得も得やすいだろう』という岸田総理の計算もあったと思います」
麻生副総裁の立ち回りによって、実現した日韓首脳会談。ただ、この訪韓には、ちょっとした“裏話”があると澤井記者は話す。
「実は、麻生さんが訪韓した同じ日に、永田町で麻生さんと“犬猿の仲”と知られる、武田良太衆議院議員がソウルを訪問予定でした。武田衆議院議員は麻生さんと同じ福岡県出身で『日韓議員連盟』の幹事長を務めています。これにより、永田町はかなりざわつきました」
「ハブとマングース」と表現されるほど、犬猿の仲だという麻生副総裁と武田衆議院議員。なぜ、同じタイミングで訪問することになったのか。
「2人は本当に目も合わせないような関係です。ソウル滞在中も、別行動で、尹大統領への表敬も、梨泰院の献花も別々に行いました。今回、3年ぶりの日韓首脳会談実現の成果はある程度、既定路線として見込まれていた中で『誰がその立役者となるのか』という政治的な争いもあり『麻生副総裁が横取りした形だ』と解説する人もいます」
3つ目の元徴用工の訴訟問題では、何か進展があったのだろうか。
「今回の会談では『懸案の早期解決をはかることで改めて一致した』にとどまっていて、まだ韓国側から具体的な解決策は示されていません。ですが、日本企業に賠償させるために、企業の資産を差し押さえて、売却して現金化するための司法手続きが行われています。そうした『現金化』という事態だけは避けなければならない。これは、日韓両政府で一致しているんです。実際には、事務方を通してのやりとりは頻繁に行われていて、取材によると、いわゆる『肩代わり案』で最終調整されていることがわかっています」
肩代わり案は、韓国の最高裁で敗訴した日本企業の賠償金を、韓国の財団が肩代わりして支払う案だという。
「日本としては実害を避ける形ですし、さらに、外務省幹部は『日本企業による財団への拠出も、謝罪も考えていない』としています。ただ、日本政府関係者は『肩代わりという表現も良くない』と話していて『あくまで韓国側で処理するということだ』と強調しています」
日本側の実害はないように見える肩代わり案。何が日本にとって問題なのだろうか。
「『肩代わり案』は、日本の懐自体は痛まないのですが『賠償の責任を認めることが問題だ』という指摘があります。日本政府としては、1965年に韓国と国交を結ぶ際に『日韓請求権協定』で、合計5億ドルもの供与を行っていて、解決済みの立場です。なので、日本政府としては、その後に起こされた裁判自体を認めるべきでないと思っているのです。韓国政府が、この最高裁判決を覆すのは困難です」
また、視聴者から寄せられた「支持率低迷同士、傷を舐め合っている」という指摘に澤井記者は、こう述べる。
「今後の日韓関係改善に期待したいところですが、尹大統領の支持率が低迷するなかで、日本側に大きく譲歩するのは、政権として相当難しいでしょう。1年おきの往来、いわゆる首脳のシャトル外交が復活するかどうかは、元徴用工をめぐる問題が解決してからになりそうです」
(ABEMA/倍速ニュース)