「なぜクマを殺したのか」
北海道で60頭以上の牛を襲った「OSO18」を駆除した釧路町のハンターに抗議が相次ぎ、住宅地付近に出没していた母グマを駆除した札幌市には約650件の批判が寄せられた。今月5日にツキノワグマを駆除した秋田県美郷町にも抗議が殺到しているという。
道庁の算定によるヒグマの推定生息数は’90年度には5200頭だったが、’20年度は1万1700頭に。30年間でほぼ倍増している。今年度は全国のクマによる人身被害も過去最悪のペースだという。
当然、クマの駆除に関するニュースは増え、報道のたびに全国で反対の声が上がる。
そうした批判や抗議は北海道三笠市の若きハンター、高崎梨徒さん(24)の耳にも届いている。
「クマが出没すれば対処します。それが僕の役目ですから。冬眠前の食いだめの時期に入り、ここ2、3週間、クマの動きが活発になってきています。今もし通報があれば、僕は出動しなくてはなりません」
クマ駆除に反対の声が上がろうと、若きハンターは揺るがない。
名古屋市生まれ。北海道の酪農学園大学を卒業後の昨年4月、鳥獣対策専門員として三笠市の地域おこし協力隊に採用された。現在、市の農林課に勤務し、北海道猟友会三笠支部にも所属している。
「クマ出没の通報が入ると、僕は役所の専門員として出動します。身軽に動ける立場なので、いち早く現場に駆けつけることができるんです」
鳥獣対策専門員になるまで猟銃に触れたことはない。散弾銃を持ち始めたのは昨年の10月からだという。
「農林課に許可をもらい、冬の間、山を知るために毎日のように山中を歩きました。猟友会の熟練ハンターさんに師事して、同行させてもらったり。冬の山でクマ撃ちについていろいろ教わりました」
北海道は、残雪期の捕獲を奨励する「春グマ駆除」を’90年に廃止したが、人里への出没を抑えるために今年から「春期管理捕獲」を許可した。高崎さんもこの春、師匠と共に捕獲に臨んだ。
「僕が初めてクマを駆除したのは4月の22日です。鉄砲を持ってちょうど半年経った頃でした。春期管理捕獲の期間中、三笠市は4頭のクマを駆除していますが、そのうちの3頭は僕が撃ちました」
箱罠にかかったクマの捕殺には、昨年の夏に立ち会っている。
「檻に入ったクマを銃で止め刺しするのを初めて見て以来、何度もフラッシュバックに苦しみました。吠える声とか檻を揺らす音は、今も鮮明に思い出せます。1年前まで僕は、罠は悪だと考えていたんです」
子どもの頃から動物が好きで、動物園によく通った。ペットの勉強がしたくて、動物の飼育方法などを学べる愛知県内の高校に進学した。
「もともと動物愛護派で、高校のときに愛玩動物飼養管理士の資格を取りました。その頃から、動物の殺処分には強い抵抗感があったんです」
そんな「名古屋のシティボーイ」は、酪農学園大学に在学中、無知な自分を自覚することになる。
「3年になって生物多様性保全の研究室に所属したんですが、自分が何もわかっていなかったことを痛感させられました。『山に餌がないからクマや鹿が街に出てくる』『人は動物との共生を目指すべきだ』と考えていた僕に、先生は『山に入ってみろ。食べ物は十分ある。共生じゃなくて共存だ。意味を理解して使っているのか』と。頭でっかちのシティボーイにガツンと言ってくれたんです。
僕は高校生のときに犬や猫をはじめ、野生動物から外来種まで含めて、人間の都合で生き物を殺すことを批判していました。なぜ駆除が必要なのか、まったく考えもせずに。研究室に入って道内各地のフィールドを見て回って、そこで働く人に話を聞かせてもらい、価値観が変わりました。現場をちゃんと知りたいと強く思うようになったんです」
そして卒業後の進路に選んだのが、三笠市の鳥獣対策を担う地域おこし協力隊だった。
「実は、三笠市が求めているのがクマ撃ちの担い手だということを、協力隊員になってから認識したんですよ。もうやるしかないという感じだったので、農林課の職員さんや先輩ハンターさんにアドバイスをもらって。けっこう努力したなと自分でも思います」
これまで6頭のクマを猟銃駆除した。銃を背負い始めて1年、心情の変化に驚いているという。
「罠での捕殺には今も、抵抗がまったくないわけじゃありません。ても、1年前の気持ちとはちょっと違います。
捕殺に立ち会い始めた頃は、罠にかかった個体は本当に市街地に出没していたクマなのかという疑念が消えませんでした。人間社会に被害を与えるクマを、僕は確実に撃てるようになりたい。そうすれば無駄に殺されるクマが減ると考えていたんです。
でも、クマがこれだけ多いと、単純に母数を減らしていくしかない。罠での捕殺も必要なのかなと今は思っています」
猟銃でクマを撃つことに対しては、罠に比べて抵抗が少ないという。
「何度も街に出没しているクマで、僕らも爆竹を使ったり車で追いかけてクラクションを鳴らしたり、できる限りのことをした上で、最終的に猟銃駆除の判断を下しています。
引き金を引くときは、やっぱり怖いです。弾を撃って外せばクマに反撃される。やるかやられるかの状況で、こちらも本気で獲りにいかなければならないので、罪悪感を覚える暇はありません。
師匠には『引き金を引けないならクマ撃ちはあきらめろ』と言われました。でも、今年の春にクマを撃つ機会が何度かあって、ちゃんと引き金を引くことができたから、適性は一応あるんじゃないかと思います。
自分の技術次第ですが、弾が命中すればクマは一瞬で死ぬので、少ない痛みで楽に逝かせてあげられます。最初はひどかったんですよ。狙ったところに当たらなくて、何発も撃ちました。それまで鹿を何頭か仕留めていて、天狗になっていたかもしれません。
それが、いざクマを目の前にすると動悸はすごいし、冷静ではいられませんでした。動揺が射撃に表れて、クマに痛い思いをさせてしまった。自分はまだまだだなって、すごく悔しかったです」
北海道新聞によると、同紙特報版が公式LINEでヒグマ駆除に関するアンケートを実施したところ、89.7%が駆除に「賛成」と回答した。「以前より出没が増えて切実になった」と答えた人は85.4%。「駆除に関する批判をどう思うか」との問いには、「批判している人たちは、もし自分や家族などがヒグマに襲われたら…と考えてみてほしい」「実際に出没地域に暮らしている側としては、ヒグマの存在は命に直結する問題」といった声が寄せられた。
北海道のヒグマ駆除に対する「なぜ殺した」「クマがかわいそう」などの批判や抗議の大半は、道外からのものだ。
「かわいそうという感情が湧くのはわかります。名古屋のシティボーイだった頃の僕もそうでしたけど、クマが街中を歩くなんて現実味がなさすぎて、想像がつかないんだと思うんですよ。
でも現実に、ここではクマが民家のそばや小学校の裏山に出てきてゆうゆうと歩いていたり、農作物を食い荒らしたりしています。『なぜ殺すのか』と声を上げている外野の人たちは、小学生が襲われたときに責任を取れますか? 住民に危害が及ばないように、僕らは対処しないといけないんです」
学校の裏山を歩いているのは、プーさんでもなければテディベアでもないのだ。
「想像力の問題という気もしますし、動物が絡むと自分を見失うのかもしれないですね。かわいそうと思うこと自体は否定しませんが、その感情を他人に強要するのはよくないと僕は思います。
役所やハンターに抗議の電話やメールが来ると、現場の動きが制限されるんですよ。役所も、駆除したことを地域に知らせると批判されるので公表しなくなります。三笠市も市民に駆除の報告をしていません。役所に抗議までする人はいないですけど、『駆除するな』『追い払えばいいじゃないか』という声は上がります。山に囲まれた三笠でさえ、クマが出没する地域とそうでない地域に大きな温度差があるんです」
9月下旬、道がヒグマ捕獲への理解を求めるメッセージを公式X(旧Twitter)に投稿した。背景には、ヒグマ駆除に従事したハンターへの相次ぐ抗議が、地域の「クマ捕獲の担い手」確保に支障を及ぼしかねないとの懸念がある。
クマの生息数が増え続ける一方で、道猟友会の多くの支部は高齢化と担い手不足に直面している。三笠支部も40代以下の若手は高崎さんを含め5人で、ハンターの大半は60代以上だ。
「ハンターが高齢化していて、このままでは猟友会が限界を迎えることは間違いないです。だから地域おこし協力隊の任期終了後は、若い人がハンターとして生計を立てられるように、法人をつくることができたらなと考えています。ゆくゆくは、自分が培ったクマ撃ちの技術を次の世代につなぐ仕事をしたいという希望もあります。
そのために今は自分なりにできることを精一杯やって、経験を積む時期だと思っているんです」
高崎梨徒(たかさき・りと) 1999年、愛知県生まれ。’21年、酪農学園大学卒業後、三笠市地域おこし協力隊に。市農林課に勤務し、鳥獣対策専門員として活動している。
取材・文:斉藤さゆり