夫の投資会社代表・三浦清志被告(43)が東京地検特捜部に業務上横領罪で逮捕(その後、起訴)されながら、国際政治学者の三浦瑠麗氏(42)がフジテレビの番組審議委員を継続していることに違和感の声が上がっている。三浦氏の判断に問題はないのか。そもそも番組審議会とは何なのだ。
【写真を見る】三浦瑠麗氏に勝訴した「社員弁護士」、きっかけは元妻の密会報道三浦氏の番審への参加と市民感覚 番組審議会(通称・番審)は視聴者には馴染みが薄いが、放送法6条によって全テレビ局に設置が義務付けられている。法的根拠のある組織だ。
逆に知名度の高い放送倫理・番組向上機構(BPO)には法的根拠がなく、NHKと民放が自主的につくった任意団体に過ぎない。だから、BPOはトラブルを起こしたテレビ局に対し、ペナルティーを与えることが出来ない。三浦瑠麗氏 番審は番組の適正を図るために必要な事項を協議し、局側に意見を述べる。放送法でそう定められている。その意見を局側は尊重しなくてはならない。審議会は月1回程度の頻度で開かれる。 審議会の委員の人数については放送法7条によって「テレビは7人以上」と決められている。また、委員の人選については「学識経験を有する者のうちから、当該放送事業者が委嘱する」とされている。はっきりしない言葉だが、つまり各局が自由に選べる。 三浦氏は2019年4月からフジの委員を務めている。フジサンケイグループ主催の「正論大賞」で、新進気鋭の言論人に贈られる正論新風賞を2017年に獲っていたこともあり、不思議な人選ではなかった。 もっとも、3月7日に夫が逮捕された後の同8日も番審に出席しているのは市民感覚、視聴者生理と合わないのではないか。夫が逮捕されたら行動を自粛したほうがいいなどといった前時代的なことを言うつもりはない。夫婦は別人格である。ただし、番審ではニュースや情報番組も扱われる。 フジも含め、各局とも過去にニュース、情報番組が審議のテーマになった。無論、三浦氏は夫に関する報道に口を挟むまい。それでも全番組が対象となる審議会に加わるというのは市民や視聴者の理解が広く得られないのではないか。誤解を招きかねない。 瓜田に履を納れず。審議会は委員の知恵と見識が問われる場だが、三浦氏の見識が問われている気がする。番審って何? 番審は放送法に定められているので、各局の開局時からあるが、うまく機能しないこともある。だからBPOが生まれたという一面もある。 例えば、あるベテラン女優の委員は名誉職だと思い込み、さっぱり出席しなかった。これでは実務に支障が出るし、ほかの委員に失礼だ。審議会の権威にも傷がつく。 また、ある局では審議される側の社員に問題があった。世間でその社員の番組が「やり過ぎではないか」との声が上がっていたため、委員側が番審に招聘したところ、出席するはずだったが、当日になって欠席した。逃げたのだ。まるで学生のノリだ。 さて、番審ではどんな委員たちが視聴者に代わって審議しているのか。在京民放キー局5社の顔ぶれを見てみたい(委員リスト内は敬称略)。 日本テレビは次の通り。 委員長・三宅弘(弁護士)、鈴木嘉一(放送評論家・ジャーナリスト)、岡田惠和(脚本家)、酒井順子(エッセイスト)、山崎直子(宇宙飛行士)、治部れんげ(東京工業大リベラルアーツ研究教育院准教授)、谷口優(月刊『宣伝会議』編集長)、パトリック・ハーラン(タレント・文化人)、廣瀬俊朗(株式会社HiRAKU 代表取締役、元ラグビー日本代表主将)。 岡田氏はNHK連続テレビ小説「おひさま」(2011年度上期)、同「ひよっこ」(2017年度上期)、テレビ朝日「にじいろカルテ」(2021年)などを執筆。日テレ作品は「ど根性ガエル(2015年)以降、書いていない。 テレ朝はこうだ。 委員長・見城徹(幻冬舎社長)、副委員長・田中早苗(弁護士)、秋元康(作詞家)、内館牧子(脚本家)、小谷実可子(スポーツコメンテーター、日本オリンピック委員会常務理事)、小松成美(作家)、丹羽美之(東京大学大学院情報学環教授)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表)、増田ユリヤ (ジャーナリスト)。 各局で幅広く仕事をしている秋元氏は、テレ朝でも2022年のドラマ「最初はパー」の原作・企画などを担当。内舘氏は2015年の「エイジハラスメント」以降、テレ朝では書いていない。 増田氏は「ワイド!スクランブル」コメンテーター。藤田氏はテレ朝会長の早河洋氏が会長を務めるAbemaTVの社長でもある。 次はTBSである。 音好宏(上智大文学部新聞学科 教授)、副委員長・中江有里(女優・作家)、江澤佐知子(医師)、尾縣貢(日本陸上競技連盟会長・筑波大学教授)、萱野稔人(津田塾大総合政策学部教授)、喜田村洋一(弁護士)、佐藤智恵(作家・コンサルタント)、長嶋有(作家)、水無田気流(國學院大経済学部教授・詩人・社会学者)、目加田説子(中央大総合政策学部教授)。 中江は2020年の映画「海辺の映画館―キネマの玉手箱」以降、女優活動をしていない。萱野氏は「news23」のゲストコメンテーターを担当している。目加田氏は「サンデーモーニング」にコメンテーターとして登場することもある。テレ東にはTOKIOの国分が テレビ東京は次の通り。 委員長・篠原弘道(NTT相談役)、荻野アンナ(慶應大学名誉教授)、草野満代(フリーアナウンサー)、国分太一(タレント)、島本理生(作家)、杉山愛(スポーツコメンテーター)、野木亜紀子(脚本家)、藤井彰夫(日本経済新聞社常務執行役員論説委員長)、吉野弦太(弁護士)。 篠原氏のNTTは在京キー局と地方局を結ぶマイクロ回線を提供するなど、テレビ界との関係が古くから極めて深い。元NHKアナの草野氏は2017年までテレ東の情報番組「L4 YOU!」のMCを務めていた。 TOKIOのメンバーである国分は、2014年から9年連続で「テレ東音楽祭」の総合MCを務めている。野木氏は2020年にテレ東のドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」を書いた。藤井氏の所属する日経はテレ東の親会社で、ずっと社長を送り込んでいる。 最後にフジである。 委員長・但木敬一(弁護士)、副委員長・岡室美奈子(早稲田大文化構想学部教)、井上由美子(脚本家)、小山薫堂(放送作家・脚本家)、最相葉月(ノンフィクションライター)齋藤孝(明治大文学部教授)、舞の海秀平(大相撲解説者)、三浦瑠麗(国際政治学者)。 但木氏は第23代検事総長。各局の委員には弁護士が多いが、大物だ。井上氏はフジでは2019年のドラマ「シャーロック アントールドストーリーズ」などを書いた。 小山氏はフジなどが出資した公開中の映画「湯道」を企画し、脚本を担当した。斎藤氏は「Live News イット!」のコメンテーターを務めている。もはや“局側”の人間も…客観性はどこに 一通り見ると、局とビジネスで関係している委員が多い。放送法には委員の条件について「学識経験を有する者」としか書かれていないから、法的には問題ないのだ。 もっとも、自分やほかの委員が関係する番組をどう審議するのだろう。放送法の記述が曖昧すぎる。与野党ともに放送法を俎上に乗せるなら、こういった点の是非を話し合うべきだ。番審の規定が放送法に盛り込まれたのは1959年で、もう60年以上が過ぎている。「テレ東音楽祭」の総合MCを9年務めている国分は、この番組の件に限ると、もはやテレ東側の人間と言っていい。この番組がテーマになった時、どうすれば客観的な意見が言えるというのだ。 また、テレ朝の藤田氏、日経の藤井氏のような局の首脳と関係が深い委員は、番審とは別の場で意見を言ったほうが良いのではないか。 BPOには放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会があるが、いずれも第三者性を保つため、テレビ局など放送事業者の役職員以外によって構成される。評議員会も同じ。番審も第三者性を保つべきではないか。高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。デイリー新潮編集部
番組審議会(通称・番審)は視聴者には馴染みが薄いが、放送法6条によって全テレビ局に設置が義務付けられている。法的根拠のある組織だ。
逆に知名度の高い放送倫理・番組向上機構(BPO)には法的根拠がなく、NHKと民放が自主的につくった任意団体に過ぎない。だから、BPOはトラブルを起こしたテレビ局に対し、ペナルティーを与えることが出来ない。
番審は番組の適正を図るために必要な事項を協議し、局側に意見を述べる。放送法でそう定められている。その意見を局側は尊重しなくてはならない。審議会は月1回程度の頻度で開かれる。
審議会の委員の人数については放送法7条によって「テレビは7人以上」と決められている。また、委員の人選については「学識経験を有する者のうちから、当該放送事業者が委嘱する」とされている。はっきりしない言葉だが、つまり各局が自由に選べる。
三浦氏は2019年4月からフジの委員を務めている。フジサンケイグループ主催の「正論大賞」で、新進気鋭の言論人に贈られる正論新風賞を2017年に獲っていたこともあり、不思議な人選ではなかった。
もっとも、3月7日に夫が逮捕された後の同8日も番審に出席しているのは市民感覚、視聴者生理と合わないのではないか。夫が逮捕されたら行動を自粛したほうがいいなどといった前時代的なことを言うつもりはない。夫婦は別人格である。ただし、番審ではニュースや情報番組も扱われる。
フジも含め、各局とも過去にニュース、情報番組が審議のテーマになった。無論、三浦氏は夫に関する報道に口を挟むまい。それでも全番組が対象となる審議会に加わるというのは市民や視聴者の理解が広く得られないのではないか。誤解を招きかねない。
瓜田に履を納れず。審議会は委員の知恵と見識が問われる場だが、三浦氏の見識が問われている気がする。
番審は放送法に定められているので、各局の開局時からあるが、うまく機能しないこともある。だからBPOが生まれたという一面もある。
例えば、あるベテラン女優の委員は名誉職だと思い込み、さっぱり出席しなかった。これでは実務に支障が出るし、ほかの委員に失礼だ。審議会の権威にも傷がつく。
また、ある局では審議される側の社員に問題があった。世間でその社員の番組が「やり過ぎではないか」との声が上がっていたため、委員側が番審に招聘したところ、出席するはずだったが、当日になって欠席した。逃げたのだ。まるで学生のノリだ。
さて、番審ではどんな委員たちが視聴者に代わって審議しているのか。在京民放キー局5社の顔ぶれを見てみたい(委員リスト内は敬称略)。
日本テレビは次の通り。
委員長・三宅弘(弁護士)、鈴木嘉一(放送評論家・ジャーナリスト)、岡田惠和(脚本家)、酒井順子(エッセイスト)、山崎直子(宇宙飛行士)、治部れんげ(東京工業大リベラルアーツ研究教育院准教授)、谷口優(月刊『宣伝会議』編集長)、パトリック・ハーラン(タレント・文化人)、廣瀬俊朗(株式会社HiRAKU 代表取締役、元ラグビー日本代表主将)。
岡田氏はNHK連続テレビ小説「おひさま」(2011年度上期)、同「ひよっこ」(2017年度上期)、テレビ朝日「にじいろカルテ」(2021年)などを執筆。日テレ作品は「ど根性ガエル(2015年)以降、書いていない。
テレ朝はこうだ。
委員長・見城徹(幻冬舎社長)、副委員長・田中早苗(弁護士)、秋元康(作詞家)、内館牧子(脚本家)、小谷実可子(スポーツコメンテーター、日本オリンピック委員会常務理事)、小松成美(作家)、丹羽美之(東京大学大学院情報学環教授)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表)、増田ユリヤ (ジャーナリスト)。
各局で幅広く仕事をしている秋元氏は、テレ朝でも2022年のドラマ「最初はパー」の原作・企画などを担当。内舘氏は2015年の「エイジハラスメント」以降、テレ朝では書いていない。
増田氏は「ワイド!スクランブル」コメンテーター。藤田氏はテレ朝会長の早河洋氏が会長を務めるAbemaTVの社長でもある。
次はTBSである。
音好宏(上智大文学部新聞学科 教授)、副委員長・中江有里(女優・作家)、江澤佐知子(医師)、尾縣貢(日本陸上競技連盟会長・筑波大学教授)、萱野稔人(津田塾大総合政策学部教授)、喜田村洋一(弁護士)、佐藤智恵(作家・コンサルタント)、長嶋有(作家)、水無田気流(國學院大経済学部教授・詩人・社会学者)、目加田説子(中央大総合政策学部教授)。
中江は2020年の映画「海辺の映画館―キネマの玉手箱」以降、女優活動をしていない。萱野氏は「news23」のゲストコメンテーターを担当している。目加田氏は「サンデーモーニング」にコメンテーターとして登場することもある。
テレビ東京は次の通り。
委員長・篠原弘道(NTT相談役)、荻野アンナ(慶應大学名誉教授)、草野満代(フリーアナウンサー)、国分太一(タレント)、島本理生(作家)、杉山愛(スポーツコメンテーター)、野木亜紀子(脚本家)、藤井彰夫(日本経済新聞社常務執行役員論説委員長)、吉野弦太(弁護士)。
篠原氏のNTTは在京キー局と地方局を結ぶマイクロ回線を提供するなど、テレビ界との関係が古くから極めて深い。元NHKアナの草野氏は2017年までテレ東の情報番組「L4 YOU!」のMCを務めていた。
TOKIOのメンバーである国分は、2014年から9年連続で「テレ東音楽祭」の総合MCを務めている。野木氏は2020年にテレ東のドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」を書いた。藤井氏の所属する日経はテレ東の親会社で、ずっと社長を送り込んでいる。
最後にフジである。
委員長・但木敬一(弁護士)、副委員長・岡室美奈子(早稲田大文化構想学部教)、井上由美子(脚本家)、小山薫堂(放送作家・脚本家)、最相葉月(ノンフィクションライター)齋藤孝(明治大文学部教授)、舞の海秀平(大相撲解説者)、三浦瑠麗(国際政治学者)。
但木氏は第23代検事総長。各局の委員には弁護士が多いが、大物だ。井上氏はフジでは2019年のドラマ「シャーロック アントールドストーリーズ」などを書いた。
小山氏はフジなどが出資した公開中の映画「湯道」を企画し、脚本を担当した。斎藤氏は「Live News イット!」のコメンテーターを務めている。
一通り見ると、局とビジネスで関係している委員が多い。放送法には委員の条件について「学識経験を有する者」としか書かれていないから、法的には問題ないのだ。
もっとも、自分やほかの委員が関係する番組をどう審議するのだろう。放送法の記述が曖昧すぎる。与野党ともに放送法を俎上に乗せるなら、こういった点の是非を話し合うべきだ。番審の規定が放送法に盛り込まれたのは1959年で、もう60年以上が過ぎている。
「テレ東音楽祭」の総合MCを9年務めている国分は、この番組の件に限ると、もはやテレ東側の人間と言っていい。この番組がテーマになった時、どうすれば客観的な意見が言えるというのだ。
また、テレ朝の藤田氏、日経の藤井氏のような局の首脳と関係が深い委員は、番審とは別の場で意見を言ったほうが良いのではないか。
BPOには放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会があるが、いずれも第三者性を保つため、テレビ局など放送事業者の役職員以外によって構成される。評議員会も同じ。番審も第三者性を保つべきではないか。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。
デイリー新潮編集部