クマによる死傷者は今年度、少なくとも158人に達し、過去最悪だった2020年度に並んだ。
背景には、餌となる木の実の不作に加え、クマの生息域の拡大と個体数の増加がある。冬眠前は活動が活発になるため、引き続き注意が必要だ。(秋田支局 藤田陽平、地方部 南敏也)
■市街地のバス停で
秋田県北秋田市の中心市街地で19日朝、「ギャー」という女性の悲鳴が響いた。路線バスを待っていた女子高校生ら女性4人がクマに次々襲われ、近くの和菓子店主(66)は「恐ろしい。自分もいつクマに出くわすか……」と顔を曇らせた。
同県八峰町の男性(82)は9月中旬、自宅そばの畑で農作業中に近くの竹やぶから現れたクマに激突され、歯が2本折れ、頭部や顔を負傷し、約3週間入院した。男性は「あっという間だった」と声を震わせ、顔に残る深い傷をさすった。
環境省によると、今年度の死傷者は9月末現在で109人(速報値)。読売新聞の調べでは、10月以降は20日までに少なくとも49人が襲われた。秋田県は今年度52人が被害に遭い、昨年度の8倍を超える。
クマの出没件数も増えている。9月末までに全国で1万4943件、前年同期より4210件増えた。21年に100年ぶりにクマが確認された静岡県の伊豆半島では今年も目撃情報が寄せられている。
■生息域広がる
そもそも、クマの生息域が広がっている。人口減などにより耕作放棄地やクマが隠れやすいやぶの増加が理由の一つとされ、環境省生物多様性センターは19年、クマの生息域は03年度比で約1・4倍に拡大したとの調査結果を発表した。
個体数も増え、読売新聞が17年度以降にツキノワグマの生息数調査を実施した27都府県の結果を集計したところ、推定約4万4000頭。同センターが12年度にまとめた推定約1万5000頭が直近の個体数とされ、約3倍に増えた。
北海道のみに生息するヒグマは、道の調査で1990年度の推定5200頭から、2020年度には推定1万1700頭にまで増加した。
クマが増えた理由について、クマの生態に詳しい酪農学園大の佐藤喜和教授(野生動物学)は1990年代以降の自然保護意識の高まりにより、過剰な駆除から共存を目指して抑制傾向になったことを指摘する。
■GPSで行動把握
各自治体は、市街地に現れる「アーバンベア(都市型クマ)」など、クマを人の生活圏に寄せ付けない対策に力を入れている。
福井県永平寺町では、クマにGPSを付けて行動範囲を把握することで被害を防ぐ試みを実施。埼玉県秩父市は市内の全小中学生にクマよけの鈴と笛を配布した。北海道は今春から、市街地が危険だとヒグマに印象づける目的で冬眠明けのクマの捕獲を始めた。
秋田県は「地域の実情に応じて、クマも指定管理鳥獣にしてほしい」と国に求める。指定管理鳥獣のシカやイノシシは、国の交付金をもとに計画的に駆除しているためだ。
佐藤教授は「人里周辺に現れるクマには、定着させないための追い払いや駆除捕獲について検討すべきだろう。国による財政支援も必要だ」と指摘する。
■間近で遭遇したら…うつぶせで首ガード
NPO法人「日本ツキノワグマ研究所」(広島県)の米田(まいた)一彦代表は、クマと遭遇しないためには自治体ホームページなどで出没情報を確認することが大事だとする。「クマよけ」の鈴はキーンと高い音が鳴る釣り鐘型のものが効果的で、「ラジオは大音量にしても山中では音の通りが悪く、効果は薄い」という。
クマの活動時間帯は明け方や夕暮れ時ということも覚えておきたい。
クマと近距離で遭遇した場合、ホームセンターなどで数千円から売られている唐辛子成分が入ったクマ撃退スプレーも有効。射程は約5メートルの製品が多く、とっさに使用できるよう練習するのがいいという。
至近距離の場合はうつぶせになって首を両手でガードする。米田代表は「立った状態で襲われるのが一番危ない。首や頭を狙われ、重大な事故につながる」と注意する。