’22年に発生した炎上事件は1570件(『デジタル・クライシス白書2023』より)。一日平均4.3件。今日もどこかで誰かが燃えている。特に、回転寿司チェーン「スシロー」での迷惑動画がSNSで拡散されたことが記憶に新しいが、犯人の個人情報を晒し、実家や所属先にまで社会的損害を与える“制裁”は、いきすぎた正義ではなかろうか。更生の余地すら与えない現代デジタル社会の闇、あなたの正義感は果たして正しいのか、今、試される――。◆【間違えられた人に聞く】勘違いで振るわれた偽りの正義
また昨今は、非のない人までもが暴走する正義の標的となる事例も増えている。“目黒”でイタリア料理店を経営していた小林孝好さん(59歳)もそのひとり。
昨年1月、“中目黒”に店舗を構えていた同姓の“小林シェフ”が、大手コンビニのおにぎりを査定する某バラエティ番組での言動で炎上。「コイツがあの小林だ!」と勘違いした人々が小林さんに誹謗中傷を行った。
「突然Googleの通知が止まらなくなり、『お前みたいなクソシェフやめろ』『お前が作ったものなんか食べたくない』といった投稿で溢れ返った。店舗にも誹謗中傷の電話が相次ぎ、ネット上には顔写真まで拡散。恐怖で数日間は外出できませんでした」
◆炎上が沈下したのは…
炎上が鎮火したのは1週間後。コストと費やす時間を鑑みて、誹謗中傷への訴訟には乗り出さなかった。何より、精神的な疲弊が大きかった。
「誹謗中傷に一件一件、『当店のシェフとテレビで炎上したシェフは無関係の別人です、お間違いのようですので削除してください。削除をしないようであれば法的対処をとらせていただきます』と返信をしました。
それで削除する人が大半でしたが、それでも低評価は消さない人、“法的手段”という言葉に逆ギレする人もいて、いまだに完全に収まったとは言い難い。1年以上が経過した今も、別の“小林シェフ”と混同した書き込みや、店名を変えられるといったイタズラが。まだ悪意が向けられているのかなと思うと、本当に参りますね……」
◆誰が炎上に参加しているのか?
経済学者の山口真一氏が炎上参加者の属性を検証したところ、「男性が7割、所得が平均より高い、主任・係長などの管理職クラス」の人が炎上に参加しやすいことが明らかになった。
「もちろん、その他の属性の人も大勢存在しますが、ある程度の社会的地位を持っている人のほうが知識や経験があり、いろんな物事に自分の考え方(=正義)を持っているというのもうなずける。そうした正義が、ネット上で暴走しても不思議ではありません」
◆データで見る炎上参加者の属性
炎上参加別の世帯年収平均炎上参加者 670万円非参加者 590万円
炎上参加者の肩書き分布主任・係長クラス以上の役職 31%一般社員 30%個人事業主・店主 9%無職・主婦・バイト・学生 30%
炎上参加者の性別男性 70%女性 30%
【経済学者・山口真一氏】国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は計量経済学。著書に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』
取材・文/週刊SPA!編集部