メンズ地下アイドルとして活動する男性2人が、それぞれのファンの女子高生に対してみだらな行為をしたとして、東京都青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕された。女子高生の1人は、チェキの撮影やグッズの購入などに約300万円もの大金をつぎこんでいたという。 メンズ地下アイドル(通称“メン地下”)は、小規模なライブやイベント活動を行っているが、テレビや雑誌で見かけるようなメジャーなアイドルとは違い、メンバーとファンとの距離感がとても近い。ライブ後の物販では、“特典”目当てに高額な課金をする中高生も増えている。警視庁生活安全部はTwitterにて次のように注意を呼び掛けている。
<中高生が「メンズ地下アイドル」にハマり、家のお金の持ち出しやパパ活・援助交際などによりお金を稼ぎ、「推し」に貢いでしまうという相談が急増しています。過剰な「推し活」は、生活の乱れに繋がります>
今回は、メン地下の現場に通い、熱心に推し活していたという2人の顛末を紹介する。さらに、過激化の一途を辿る業界の現状や問題点について、メンズ地下アイドルの運営側である株式会社U.MARK(マークプロダクション)に話を聞いた。
◆生活は推し一色「1回でも多く参加したい」
現在は「推し活はウンザリ」だというフリーターの木崎なのかさん(21歳・仮名)。彼女は去年の夏頃まで某メン地下グループのライブやイベントに通っていた。 「最初は友人に誘われて。初めてライブに行った特典で、好きなメンバーと1回チェキが無料で撮れたんですが、あまりの密着度とフレンドリーさにビックリ。すぐに推し活するようになりました」 ドームでコンサートツアーをするようなメジャーなアイドルとは異なり、メン地下はとにかくライブとイベントの数が多い。なのかさんは、推しに自分を覚えて欲しい一心で「1回でも多く参加したい」と思った。いつの間にか、生活は推し一色になっていた。
◆推し活のために昼夜を問わず働いた 「製菓店で販売の仕事をしていましたが、手取りは月16万円。家賃が6万7000円だから、あまったお金だけでは満足にライブには通えない。寝る間も惜しんでガールズバーとの掛け持ちをして、稼いだお金のほとんどを物販のチェキに費やしました」 半年間通い詰めたところ、なんと推し本人からSNSを通じてDM(ダイレクトメール)が届いたという。 「彼から『じつはずっとタイプで』と言われて舞い上がりましたね(笑)。すぐに付き合って半同棲することに。はじめは幸せでした。でも……」 “普通の恋人”になれると期待したなのかさんだったが–。

◆「パパ活してまで推しに貢いでいた」 三井れなさん(20歳・仮名)は「ほかのファンに負けたくなくて、パパ活してまで推しに貢いでいました」と苦笑する。 「Instagramで見つけて『ライブに行ってみたいです!』とDMしたら、即返信がきたんです」 東京在住のれなさんは実家暮らし。それまでアルバイトの経験はなく「裕福な家庭」で育ったという。 「必要だったら親からお小遣いをもらう感じでした。メン地下にハマるまでは何不自由ありませんでしたが、毎週ライブがあって、ほかにも撮影会やオフ会などのイベントがある……。人生で初めて『お金がいくらあっても足りない』と思いました」 ライブのチケット代は2000円前後だが、ライブ終了後の物販で数万円飛ぶこともザラだったそうだ。 「チェキは1枚や2枚では済ませられなくなる。ほかのファンが10枚チェキを撮っていたら私は20枚撮らなきゃ! 負けちゃう! って思うんです。
逮捕されたグループほどではないですが、ポイントを貯めたらスタッフ付きだけどデートができるとかプリクラが撮れるとか、特典もいろいろありました」 課金を続けているうちに貯金は底をついた。前述のようにアルバイト経験もなかった彼女は、パパ活をはじめたという。 「親にもさすがにお小遣いをもらいにくくなってきて、自分で好きなだけお金を使いたいと思って。パパ活で多いときは月100万円くらいとか稼いだ」 そんなれなさんだが、最近はめっきりライブに行っていない。 「パパ活してまで課金したのに、ぜんぜん成長しない推しに萎えてしまいました。私や決まった数人の女の子がたくさんお金を使うだけで、新しいファンも増えないし新曲も出ない。推しからは営業のダイレクトメールがくるのですが、距離感が近すぎて、むしろ『う~ん』って感じ」
◆特典を得るための金額設定が“異常”だった
先日の事件でメン地下に対する風当たりが強まっている。
バラエティ番組『アウト×デラックス』(フジテレビ系列)出演で話題になったメンズ地下アイドルの“笑顔(スマイル)ぱんち”などが所属する株式会社U.MARK(マークプロダクション)の代表である植松やすか氏にメン地下業界の現状について話を聞かせてもらった。 植松氏が率直に感じたのは「やっぱり」だったと話す。 「6年前からメン地下グループの運営を始めました。当時と比べて、今は10倍ほどのグループが存在しています。一方、じつはお客さん自体はそこまで増えていないんです。
ライブの動員数は少ないし、大きなイベントにも出れないけれど、売上としては安定している、というグループが多い。チェキの複数枚購入で特典が付くのはどこも普通にやっていることなんですが、最近は特典の金額設定が“異常”に思えるグループも出てきたんです。“いつか事件が起きるだろうな”と思っていたので」
グループによっては、「100万円を使えばメンバーといっしょにディズニーランドに行ける」などの特典があるという。
◆ファンはチェキが欲しいのではなく、交流する“時間”を買っている
いま、メン地下の過激な物販を問題視する声も少なくないが、チェキの売上がなくなってしまうと、衣装代やオリジナル曲の制作・撮影、レッスン費用などがマイナスとなり、「運営が難しくなるのが目に見えている」とも植松氏は言う。 「チェキを撤廃してしまったら運営が立ち行かなくなるのはもちろんですが、ファンも楽しみがなくなってしまう。実際、彼女たちの多くはチェキが欲しいのではなく、撮影する間に交流する“時間”を買っているので。

植松氏は、メン地下の「高すぎる客単価」を指摘する。その結果、身を持ち崩してしまうファンの女の子も実際に少なくないのだ。
◆パフォーマンスでファンを増やすのが正しい道
一部週刊誌の報道では、メンズ地下アイドルの“ホストさながらの営業”が取り沙汰されている。 「距離を近くすることでファンの心をつかむのは悪くはないけど、やっぱりそれがメインになってしまうと本人もグループも士気が下がってしまう。本来は“アイドル”なので。
そういう営業ばかりに力を注ぐのではなく、歌やダンスなどのパフォーマンスを頑張ってファンを増やしていくような活動が正しい。
今回のニュースをキッカケに業界全体が意識を変えていかなければ、再び悲しい事件を繰り返してしまうと思います」 今後のメン地下業界はどうなっていくのだろうか–。 <取材・文/吉沢さりぃ>