「棺(ひつぎ)を蓋(おお)いて事定まる」とはいうけれど、“幸福”を人々に説き続けた新興宗教の教祖は、世間からどう評されるのか。突然の訃報を受けて先妻が明かす「家庭崩壊」の実情と、教団から追放された長男が語る「資産の行方」を聞くと、自ずと答えは明らかになるだろう。
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【写真を見る】異様な雰囲気 大川隆法が32年前、母校「東大」の文化祭にゲスト出演した様子 新興宗教への風当たりが強い昨今、なにかと世間を騒がせてきた教団教祖の突然の訃報だった。 宗教法人「幸福の科学」の創始者・大川隆法総裁が3月2日に66歳で死去したと、新聞テレビで一斉に報じられたのだ。
全国紙の社会部記者によれば、「2月28日、大川総裁は東京・港区にある自宅で倒れているところを発見され、病院に救急搬送されましたが、治療のかいなく3月2日に亡くなりました。死因は脳梗塞または心不全だ、すでに火葬されたといった情報が飛び交いましたが、教団は大川総裁の生死について一貫して不気味な沈黙を守っています」大川隆法総裁 実は今、各地の教団施設ではとある“儀式”がひそかに行われているという。「よみがえると信じている」「今日は5万円のお布施をして『復活の祈り』に参加してきました。たしかに5万円は高い方ですけど、主(しゅ・大川総裁)が戻られるための祈願ですから、頑張ってやりたいなと……」 そう話すのは、大川総裁の自宅からやや離れた場所に建つ教団施設「東京正心館」に足を運んだ女性信者である。大川隆法総裁の家族構成「世の中の皆さんは、病院で“亡くなった”と告げられたらその通りに認識すると思いますが、そうではないということを主はお見せくださると思う。この1~2週間でよみがえると私は信じています。我々は“永遠の命”というものを教わっておりますので、魂が体から抜けても霊子線(れいしせん)が切れない限り死ではない。このようなことはソクラテスら歴史上の偉人も言っていますし、イエス・キリストも復活を遂げていますから」 信仰歴は30年余りに及ぶという彼女は、こう続ける。「もし2週間経ってもよみがえれない場合、肉体の維持が難しくなってしまう。そうなると、次の代を継ぐのは奥様だと思います」 掲載の家系図に示す通り、大川総裁は先妻・きょう子氏(57)との間に5人の子供をもうけたが、2012年に離婚が成立。長年連れ添った妻を“悪魔”とののしり追放して、20歳以上も年の離れた教団幹部の紫央(しお)氏と再婚した。後妻は早稲田大学を卒業後、日本銀行から教団に奉職して、先妻が追われた「総裁補佐」の座におさまったわけだ。信者数は公称1100万人だが… 振り返れば、東京大学法学部を卒業後、大手総合商社を経て1986年に教団を立ち上げた大川総裁は、全世界に1万超の拠点を構え、日本国内に公称1100万人の信者がいると喧伝。 09年には政治団体「幸福実現党」を創設して大川総裁自身も同年の衆院選に比例で立候補し落選したが、国政選挙における得票数が約46万票だったことから、実際の信者数は推して知るべしと揶揄された。 前出の記者が言うには、「大学設立をもくろんだこともありましたが、科学的根拠を欠く霊言を前提にするカリキュラムが問題視され、結局文科省の認可は下りませんでした。また、霊界と交信できると称して耳目を集めてきた大川総裁でしたが、各界の偉人や著名人の霊を自らに憑依させて語る『公開霊言』シリーズの出版で、存命中であっても本人の許諾を取らず本にするなど、その荒っぽい手法は賛否両論を巻き起こし、最近は勢いも落ちていました」 悲願だった政界進出や大学認可がかなわず、拡大路線にも陰りが見え始めたのと軌を一にして、家庭内不和が顕在化していった。「教団自体が終わったも同然」 離婚騒動に続き、5年ほど前には教団関連企業の役員だった大川総裁の長男・宏洋(ひろし)氏(34)が、父に反旗を翻し、教団批判の急先鋒に立って活動している。「正直なところ、教団の後継者が誰になるのかは宙ぶらりんで、まったく決まっていないと思います」 と話すのは、当の宏洋氏。「隆法自身、後継者を誰にするかは常に気にかけていました。長男である私が教団を継ぐことになっていたのですが、中学受験に失敗して以降は、長女の咲也加が有力でした。ところが、彼女も隆法が亡くなる直前、神戸の教団施設に左遷されたと聞いています。父との関係が悪化し、教団の中枢から外されたのでしょう」 すでに次男の真輝氏も教団と距離を置いたとの話もあって、残る次女や三男とも兄妹間で音信不通の状態が続いているというのだ。「私は政治団体『カルト宗教から国民を守る党』を立ち上げ、3月11日に教団への抗議デモを計画していましたが、隆法は裁判所に差止請求を申し立てたんです。長女との関係悪化もあってかなりの心労を抱えていたと思う。80歳過ぎまでは生きるなんて公言していましたけど、全然予言が当たりませんでしたよね。正直、死んだと聞いてよかったなと思いましたよ。隆法はカルト宗教のワンマン教祖だったわけで、彼が死んだら教団自体が終わったも同然。カルト被害を無くすという自分のすべき仕事が片付いた思いです」「カルト被害に遭った方々に返金したい」 愛憎半ばする感情からか、時に露悪的な口ぶりで語る彼は、相続について具体的に弁護士と相談中だとも明かす。「16年ごろ、隆法の年収欄に5億円と書かれた書類を見たことがある。幸福の科学からの給料分をそう設定したのだと思いますが、父の莫大な個人資産の相続については、しっかり権利を主張しようと思っています。また教団には不動産などを合わせて2千億円近い資産があるといわれています。可能性は低いですが、私が総裁の後継指名を受けたなら、宗教法人を解散して不動産などの資産を売り払い、カルトの被害に遭った方々に返金したいです」資産の大半は教団に寄付されている? 興味深いことに、直近に発売された大川総裁による句集『神は詩(うた)う』には、こんな記述が見受けられる。〈印税等七億数千万寄附する 日本一バカな教祖は私なり/☆何に使われるかは定かならず。十億円を超えた年もあった〉 ギネス記録を持つほど著作を乱発していた大川総裁にとって、個人資産に占める印税のウエートは大きい。それを寄付したというのは何を意味するのか。 宗教ジャーナリストの藤倉善郎氏はこう語る。「隆法氏が遺産を長男の宏洋氏など子供たちに渡したくないと考え、生前、教団に寄付していた可能性はあります。すでに資産の大半を寄付に回してしまっていてもおかしくない。そもそも隆法氏の資産は個人的なものであっても課税のない教団名義にしているものがあるはずで、後継の座を射止めることができれば、遺された財産をまんまと手にすることができる。ゆえに後継者争いと相続争いは、互いに密接に絡み合っているといえます」「心不全で倒れて…」 一方で幸福の科学信者にとって信仰の対象は大川隆法総裁ただひとり。もし後妻が後継者になるなら、教義の上で理由付けや権威付けを行う必要があると指摘する。「正統性を巡って、教団幹部らが長女など遺子を担ぎ上げ、跡目争いに参加してくる可能性も考えられます」(同) かような混乱を生み出す種は、すでに以前からまかれていた。「総裁は教団のすべてを一人で決めて実行してしまうため、弟子が育たないという問題がありました」 そう振り返るのは、前妻のきょう子氏だ。「04年に一度、心不全で倒れて死を身近に経験して以来、彼は人生が短いものだと悟り、生きている間に自分がやりたいことを全部するという姿勢に変わっていきました。正直に申し上げて、総裁も最期は混乱の中にいたんじゃないでしょうか。教団のしかるべき立場に置いた自分の子供たちを皆、粛清してしまい、自分が育てたものを自ら潰してしまったわけです。私から親権を取り上げてしまった手前、自責の念があったのではないでしょうか」「生涯、死んでも彼を愛し続ける」 一方で彼女は突然、号泣しながらこう話す。「今となっては彼に対しておわびをしたいという思いを強く持っています。私はカトリックに改宗しイエズス会で学ぶ中で、自分の未熟さを知りました。当時は彼のことをおかしいと批判もしましたが、私にも原因がありました。結果として子供たちとも衝突してしまい、会いたくても会えない状態が続いています。いろいろと問題を起こした教団ですし、長男をはじめ子供たちによる批判もあるけれど、私は生涯、死んでも彼を愛し続けたいと思います……」 一度は袂(たもと)を分かった前夫とはいえ、訃報に接しその複雑な胸中を吐露するのだ。 改めて、教団に対して大川総裁の生死について確認したところ、「脳梗塞の事実はありません。また火葬が済んでいるという事実もありません。その他については、お答え致しません」(幸福の科学グループ広報局) 遺された人々は「幸福ゆき」の切符を手にすることができるのだろうか。「週刊新潮」2023年3月16日号 掲載
新興宗教への風当たりが強い昨今、なにかと世間を騒がせてきた教団教祖の突然の訃報だった。
宗教法人「幸福の科学」の創始者・大川隆法総裁が3月2日に66歳で死去したと、新聞テレビで一斉に報じられたのだ。
全国紙の社会部記者によれば、
「2月28日、大川総裁は東京・港区にある自宅で倒れているところを発見され、病院に救急搬送されましたが、治療のかいなく3月2日に亡くなりました。死因は脳梗塞または心不全だ、すでに火葬されたといった情報が飛び交いましたが、教団は大川総裁の生死について一貫して不気味な沈黙を守っています」
実は今、各地の教団施設ではとある“儀式”がひそかに行われているという。
「今日は5万円のお布施をして『復活の祈り』に参加してきました。たしかに5万円は高い方ですけど、主(しゅ・大川総裁)が戻られるための祈願ですから、頑張ってやりたいなと……」
そう話すのは、大川総裁の自宅からやや離れた場所に建つ教団施設「東京正心館」に足を運んだ女性信者である。
「世の中の皆さんは、病院で“亡くなった”と告げられたらその通りに認識すると思いますが、そうではないということを主はお見せくださると思う。この1~2週間でよみがえると私は信じています。我々は“永遠の命”というものを教わっておりますので、魂が体から抜けても霊子線(れいしせん)が切れない限り死ではない。このようなことはソクラテスら歴史上の偉人も言っていますし、イエス・キリストも復活を遂げていますから」
信仰歴は30年余りに及ぶという彼女は、こう続ける。
「もし2週間経ってもよみがえれない場合、肉体の維持が難しくなってしまう。そうなると、次の代を継ぐのは奥様だと思います」
掲載の家系図に示す通り、大川総裁は先妻・きょう子氏(57)との間に5人の子供をもうけたが、2012年に離婚が成立。長年連れ添った妻を“悪魔”とののしり追放して、20歳以上も年の離れた教団幹部の紫央(しお)氏と再婚した。後妻は早稲田大学を卒業後、日本銀行から教団に奉職して、先妻が追われた「総裁補佐」の座におさまったわけだ。
振り返れば、東京大学法学部を卒業後、大手総合商社を経て1986年に教団を立ち上げた大川総裁は、全世界に1万超の拠点を構え、日本国内に公称1100万人の信者がいると喧伝。
09年には政治団体「幸福実現党」を創設して大川総裁自身も同年の衆院選に比例で立候補し落選したが、国政選挙における得票数が約46万票だったことから、実際の信者数は推して知るべしと揶揄された。
前出の記者が言うには、
「大学設立をもくろんだこともありましたが、科学的根拠を欠く霊言を前提にするカリキュラムが問題視され、結局文科省の認可は下りませんでした。また、霊界と交信できると称して耳目を集めてきた大川総裁でしたが、各界の偉人や著名人の霊を自らに憑依させて語る『公開霊言』シリーズの出版で、存命中であっても本人の許諾を取らず本にするなど、その荒っぽい手法は賛否両論を巻き起こし、最近は勢いも落ちていました」
悲願だった政界進出や大学認可がかなわず、拡大路線にも陰りが見え始めたのと軌を一にして、家庭内不和が顕在化していった。
離婚騒動に続き、5年ほど前には教団関連企業の役員だった大川総裁の長男・宏洋(ひろし)氏(34)が、父に反旗を翻し、教団批判の急先鋒に立って活動している。
「正直なところ、教団の後継者が誰になるのかは宙ぶらりんで、まったく決まっていないと思います」
と話すのは、当の宏洋氏。
「隆法自身、後継者を誰にするかは常に気にかけていました。長男である私が教団を継ぐことになっていたのですが、中学受験に失敗して以降は、長女の咲也加が有力でした。ところが、彼女も隆法が亡くなる直前、神戸の教団施設に左遷されたと聞いています。父との関係が悪化し、教団の中枢から外されたのでしょう」
すでに次男の真輝氏も教団と距離を置いたとの話もあって、残る次女や三男とも兄妹間で音信不通の状態が続いているというのだ。
「私は政治団体『カルト宗教から国民を守る党』を立ち上げ、3月11日に教団への抗議デモを計画していましたが、隆法は裁判所に差止請求を申し立てたんです。長女との関係悪化もあってかなりの心労を抱えていたと思う。80歳過ぎまでは生きるなんて公言していましたけど、全然予言が当たりませんでしたよね。正直、死んだと聞いてよかったなと思いましたよ。隆法はカルト宗教のワンマン教祖だったわけで、彼が死んだら教団自体が終わったも同然。カルト被害を無くすという自分のすべき仕事が片付いた思いです」
愛憎半ばする感情からか、時に露悪的な口ぶりで語る彼は、相続について具体的に弁護士と相談中だとも明かす。
「16年ごろ、隆法の年収欄に5億円と書かれた書類を見たことがある。幸福の科学からの給料分をそう設定したのだと思いますが、父の莫大な個人資産の相続については、しっかり権利を主張しようと思っています。また教団には不動産などを合わせて2千億円近い資産があるといわれています。可能性は低いですが、私が総裁の後継指名を受けたなら、宗教法人を解散して不動産などの資産を売り払い、カルトの被害に遭った方々に返金したいです」
興味深いことに、直近に発売された大川総裁による句集『神は詩(うた)う』には、こんな記述が見受けられる。
〈印税等七億数千万寄附する 日本一バカな教祖は私なり/☆何に使われるかは定かならず。十億円を超えた年もあった〉
ギネス記録を持つほど著作を乱発していた大川総裁にとって、個人資産に占める印税のウエートは大きい。それを寄付したというのは何を意味するのか。
宗教ジャーナリストの藤倉善郎氏はこう語る。
「隆法氏が遺産を長男の宏洋氏など子供たちに渡したくないと考え、生前、教団に寄付していた可能性はあります。すでに資産の大半を寄付に回してしまっていてもおかしくない。そもそも隆法氏の資産は個人的なものであっても課税のない教団名義にしているものがあるはずで、後継の座を射止めることができれば、遺された財産をまんまと手にすることができる。ゆえに後継者争いと相続争いは、互いに密接に絡み合っているといえます」
一方で幸福の科学信者にとって信仰の対象は大川隆法総裁ただひとり。もし後妻が後継者になるなら、教義の上で理由付けや権威付けを行う必要があると指摘する。
「正統性を巡って、教団幹部らが長女など遺子を担ぎ上げ、跡目争いに参加してくる可能性も考えられます」(同)
かような混乱を生み出す種は、すでに以前からまかれていた。
「総裁は教団のすべてを一人で決めて実行してしまうため、弟子が育たないという問題がありました」
そう振り返るのは、前妻のきょう子氏だ。
「04年に一度、心不全で倒れて死を身近に経験して以来、彼は人生が短いものだと悟り、生きている間に自分がやりたいことを全部するという姿勢に変わっていきました。正直に申し上げて、総裁も最期は混乱の中にいたんじゃないでしょうか。教団のしかるべき立場に置いた自分の子供たちを皆、粛清してしまい、自分が育てたものを自ら潰してしまったわけです。私から親権を取り上げてしまった手前、自責の念があったのではないでしょうか」
一方で彼女は突然、号泣しながらこう話す。
「今となっては彼に対しておわびをしたいという思いを強く持っています。私はカトリックに改宗しイエズス会で学ぶ中で、自分の未熟さを知りました。当時は彼のことをおかしいと批判もしましたが、私にも原因がありました。結果として子供たちとも衝突してしまい、会いたくても会えない状態が続いています。いろいろと問題を起こした教団ですし、長男をはじめ子供たちによる批判もあるけれど、私は生涯、死んでも彼を愛し続けたいと思います……」
一度は袂(たもと)を分かった前夫とはいえ、訃報に接しその複雑な胸中を吐露するのだ。
改めて、教団に対して大川総裁の生死について確認したところ、
「脳梗塞の事実はありません。また火葬が済んでいるという事実もありません。その他については、お答え致しません」(幸福の科学グループ広報局)
遺された人々は「幸福ゆき」の切符を手にすることができるのだろうか。
「週刊新潮」2023年3月16日号 掲載